革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発
Revolutionary Simulation Software for the 21st Century
東京大学生産技術研究所 計算科学技術連携研究センター センター長/教授 加藤 千幸
Chisachi Kato
文部科学省次世代IT基盤構築のための研究開発「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」では、産業界での実用に耐えうる世界トップレベルの計算科学技術用ソフトウェアの開発を行っているが、その一環として基盤となるソフトウェア群を地球シミュレータに移植して従来の計算環境では不可能だった計算を実施することにより、我が国の計算科学技術政策の成果を目に見える形で世界に公表する。これにより、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)技術を産業界等広く社会に技術移転し有効活用されることを狙う。
本プロジェクトでは以下の6テーマを実施する
産業界で強く望まれている流体力変化に伴う車両姿勢の動的変化や、姿勢変化に伴うラジエータ冷却効率等の非定常熱環境予測に対応することで、産業界での革新に寄与するソフトウェアの高機能化を行う。
従来タービン翼の設計において、翼周りの流れ、温度の予測にはRANSによる計算が用いられてきたが、タービン翼表面の複雑な流れを正確に予測ができず、また係数などは実験に頼る部分が大きかった、小さな渦のみモデル化するLES解析は対象に因らず正確な計算結果が期待でき、またRANSでは扱えなかった非定常な現象も捉えることができる。これをフィルム冷却を含むタービン翼周りの流れに適用することにより、正確な流れ、温度の予測を行うと共に、それから得られる翼表面の温度とタービン翼の熱伝導解析を連動させ、フィルム冷却によるタービンの冷却効果の予測を行う。
疎行列格納法ベクトル計算への適合、反復法行列ソルバのベクトル版の開発成果を非線形FEMプログラムに組み込むとともに、固有値計算部、非線形収束計算部、時間発展計算部の並列、ベクトル対応を行う。平成18年度中に前半の基本機能は開発したので最終年度の平成19年度には後半の課題に関する必要な処理を行い、一般的な線形計算を整理し汎用ミドルウェアとしてまとめる。
FMO法プログラムABINIT-MPを用い、ダイナミクスまで考慮した医薬品(候補)化合物と標的タンパク質の相互作用解析、および光受容体タンパク質の高精度励起状態計算を行い、FMO法によるタンパク質機能解析の高精度化を目指す。
スライディングメッシュによる移動境界手法を採用し、ESに最適化することで、フルスケール車両の動的なヨー角変化に対応できる非定常車両空力解析手法を確立した。急な横風を想定した大規模LES解析を実施した結果、実験では予測が非常に困難な非定常空気力の評価に成功すると共に、非定常空気力を生み出す流れと車両との連成物理メカニズムの解明が可能となり、風洞実験に替わる次世代空力予測システムとしてスパコンによる大規模LES解析の有用性を実証した。
FrontFlow/blueをガスタービン翼列における流れ及び熱伝達率解析に適用した。従来はRANSによりこれらの解析、予測がなされてきたが、十分な規模の計算格子を用いたLES解析により、より正確な熱伝達率の予測が可能であることを証明した。
FrontSTRを用いた1億自由度の構造解析(静解析)を行った。64CPUを用いて、約1時間の計算時間であったが、ベクトル化チューニングを施し、ピークパフォーマンスの50%を得ている(4GFlops/CPU)。 シリアル型の並列計算機では約30時間を要する計算規模である。この規模の解析をこの時間内で解析することにより、製造設計における部品ごとの解析を組み立てた状態(アセンブリ)でのまるごと解析を可能にする。また、メッシュ幅が、2メートル規模の解析対象の中でミリメートル以下の詳細さであるため、振動問題などで高次のモードを対象とできることになる。 更なる大規模化を目指し10億自由度のモデルを用意し640CPUでの計算を計画している。またこのソルバーミドルウェアの一機能として用いるために、疎行列の組み上げ、全体剛性の足し込み、境界条件設定とともに行列ソルバ本体を独立のモジュールとして使用できるように整備した。
MP2計算の演算コアである積分変換ルーチンにlevel 3 BLAS (DGEMM)を導入することにより、電子相関まで考慮したタンパク質の量子化学計算の大幅な高速化を実現した。アルツハイマー型認知症治療薬であるアリセプトと、その標的タンパク質であるアセチルコリンエステラーゼの電子相関まで考慮したFMO-MP2/6-31G法を用いた相互作用解析を、従来は128ノード(1,024プロセッサ)を用い3.0時間掛かっていたところを、512ノード(4,096プロセッサ)を用い、わずか19.6分で実現した。これにより、医薬品の研究開発(ドラッグデザイン)に量子化学計算に基づいた相互作用解析が本格的に利用可能であることを実証した。