平成19年度 地球シミュレータ利用報告会

革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発

発表資料 (410KB)

1. プロジェクト名

革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発

Revolutionary Simulation Software for the 21st Century

2. プロジェクト責任者名

東京大学生産技術研究所 計算科学技術連携研究センター センター長/教授 加藤 千幸

Chisachi Kato

3. プロジェクトの目的

文部科学省次世代IT基盤構築のための研究開発「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」では、産業界での実用に耐えうる世界トップレベルの計算科学技術用ソフトウェアの開発を行っているが、その一環として基盤となるソフトウェア群を地球シミュレータに移植して従来の計算環境では不可能だった計算を実施することにより、我が国の計算科学技術政策の成果を目に見える形で世界に公表する。これにより、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)技術を産業界等広く社会に技術移転し有効活用されることを狙う。

本プロジェクトでは以下の6テーマを実施する

<次世代デジタルエンジニアリング>
  • (1)最も過酷な車両設計要件の一つであるフォーミュラカーを対象とし、世界最大規模・高精度・非定常空気力の予測を実現する。
  • (2)現象解明が困難なターボ機械内部の非定常現象(例えば、音源、振動、流体力)をLES解析により高精度に予測する。
  • (3)発電用ガスタービンの翼周りの流動状態とタービン翼の熱伝導を連成させた解析により、フィルム冷却現象を高精度で解明する。
  • (4)非線形解析、動解析等高度で複雑かつ計算時間のかかる大規模(1億自由度規模)構造解析を実用的な計算時間内で行う技術を開発する。
<ライフサイエンス対応>
  • (5)フラグメント分子軌道(FMO)法による化合物と医薬品標的タンパク質の相互作用解析および光受容体タンパク質の励起状態計算、タンパク質量子化学計算の実用化を目指す。
<ナノテクノロジー対応>
  • (6)赤血球より小さな医療用センサの開発を目的とし、ナノサイズ配線の候補であるDNAの電子構造を高精度に解明する。

4. 今年度当初の計画

(1) フォーミュラカーの非定常空力評価

産業界で強く望まれている流体力変化に伴う車両姿勢の動的変化や、姿勢変化に伴うラジエータ冷却効率等の非定常熱環境予測に対応することで、産業界での革新に寄与するソフトウェアの高機能化を行う。

(2) ターボ機械内部流れ解析
  • (a) ファン騒音予測で得たデータを詳細に解析し、騒音発生メカニズムを解明し、低騒音化設計技術の知見をまとめる。
  • (b) 数億点規模のターボ機械内部流れ解析の準備段階とし、流れソルバおよび周辺プログラムを整備し258ノード利用許可を得る。
  • (c) 新たな解析対象(ファン、ポンプ、もしくは水車)を選定し、1億点規模の解析を実施し有用性を実証する。
(3) ガスタービンフィルム冷却の連成解析

従来タービン翼の設計において、翼周りの流れ、温度の予測にはRANSによる計算が用いられてきたが、タービン翼表面の複雑な流れを正確に予測ができず、また係数などは実験に頼る部分が大きかった、小さな渦のみモデル化するLES解析は対象に因らず正確な計算結果が期待でき、またRANSでは扱えなかった非定常な現象も捉えることができる。これをフィルム冷却を含むタービン翼周りの流れに適用することにより、正確な流れ、温度の予測を行うと共に、それから得られる翼表面の温度とタービン翼の熱伝導解析を連動させ、フィルム冷却によるタービンの冷却効果の予測を行う。

(4) 大規模産業機械の高精度構造解析

疎行列格納法ベクトル計算への適合、反復法行列ソルバのベクトル版の開発成果を非線形FEMプログラムに組み込むとともに、固有値計算部、非線形収束計算部、時間発展計算部の並列、ベクトル対応を行う。平成18年度中に前半の基本機能は開発したので最終年度の平成19年度には後半の課題に関する必要な処理を行い、一般的な線形計算を整理し汎用ミドルウェアとしてまとめる。

(5) タンパク質の大規模電子状態解析

FMO法プログラムABINIT-MPを用い、ダイナミクスまで考慮した医薬品(候補)化合物と標的タンパク質の相互作用解析、および光受容体タンパク質の高精度励起状態計算を行い、FMO法によるタンパク質機能解析の高精度化を目指す。

(6) ナノテクノロジー
  • (a) PHASEを用いてナノ表面・界面、ナノ薄膜、有機ナノ複合体、バイオナノ物質等、次世代ナノデバイス開発において重要なナノ構造を高精度に解析し、ナノ表面・界面構造の形成・反応・機能等の未解決問題を解明する。
  • (b) 次世代デバイスのビルデイング・ブロックのひとつと考えられているDNAの伝導度の解析を行う。

5. 今年度得られた成果、および達成度

成果

(1) フォーミュラカーの非定常空力評価

スライディングメッシュによる移動境界手法を採用し、ESに最適化することで、フルスケール車両の動的なヨー角変化に対応できる非定常車両空力解析手法を確立した。急な横風を想定した大規模LES解析を実施した結果、実験では予測が非常に困難な非定常空気力の評価に成功すると共に、非定常空気力を生み出す流れと車両との連成物理メカニズムの解明が可能となり、風洞実験に替わる次世代空力予測システムとしてスパコンによる大規模LES解析の有用性を実証した。

(2) ターボ機械内部流れ解析
  • (a)ファン騒音解析で得た知見、(具体的には、ファン騒音の発生メカニズムおよび主要な音源の分布)を論文にまとめ国際学会で講演した(internoise 2007)。
  • (b)領域通信ルーチンの最適化により並列化効率を向上した。この結果、当初の目標(256ノード)を上回る500ノードの利用許可を得た。
  • (c) FrontFlow/blueをポンプ内部流れ解析に適用した。本研究では、ポンプ内部の翼表面に存在する渦の最小スケールまで解像するため1億点規模の計算格子を用いたLES解析を実施した。この結果、これまで予測が困難であった不安定特性を含めた全領域における流量特性を高精度に予測できることを確認した。今後、ポンプ、ファン等のターボ機械の設計では、“試作前の性能評価”のためのツールとして、LES解析技術の役割が大きくなることが期待できる。
(3) ガスタービンフィルム冷却の連成解析

FrontFlow/blueをガスタービン翼列における流れ及び熱伝達率解析に適用した。従来はRANSによりこれらの解析、予測がなされてきたが、十分な規模の計算格子を用いたLES解析により、より正確な熱伝達率の予測が可能であることを証明した。

(4) 大規模産業機械の高精度構造解析

FrontSTRを用いた1億自由度の構造解析(静解析)を行った。64CPUを用いて、約1時間の計算時間であったが、ベクトル化チューニングを施し、ピークパフォーマンスの50%を得ている(4GFlops/CPU)。 シリアル型の並列計算機では約30時間を要する計算規模である。この規模の解析をこの時間内で解析することにより、製造設計における部品ごとの解析を組み立てた状態(アセンブリ)でのまるごと解析を可能にする。また、メッシュ幅が、2メートル規模の解析対象の中でミリメートル以下の詳細さであるため、振動問題などで高次のモードを対象とできることになる。 更なる大規模化を目指し10億自由度のモデルを用意し640CPUでの計算を計画している。またこのソルバーミドルウェアの一機能として用いるために、疎行列の組み上げ、全体剛性の足し込み、境界条件設定とともに行列ソルバ本体を独立のモジュールとして使用できるように整備した。

(5) タンパク質の大規模電子状態解析

MP2計算の演算コアである積分変換ルーチンにlevel 3 BLAS (DGEMM)を導入することにより、電子相関まで考慮したタンパク質の量子化学計算の大幅な高速化を実現した。アルツハイマー型認知症治療薬であるアリセプトと、その標的タンパク質であるアセチルコリンエステラーゼの電子相関まで考慮したFMO-MP2/6-31G法を用いた相互作用解析を、従来は128ノード(1,024プロセッサ)を用い3.0時間掛かっていたところを、512ノード(4,096プロセッサ)を用い、わずか19.6分で実現した。これにより、医薬品の研究開発(ドラッグデザイン)に量子化学計算に基づいた相互作用解析が本格的に利用可能であることを実証した。

(6) ナノテクノロジー
  • (a) 第一原理計算シミュレータPHASEの並列化と高速化を実現することにより、従来不可能と考えられてきた半導体中のドナーの電子構造を明らかにすることができた。これにより、将来のナノサイズデバイスの動作特性を第一原理的に解析できる可能性を拓いた。
  • (b) ナノサイズ配線の候補であるDNAの電気伝導特性を明らかにした。これにより、赤血球より小さな医療用センサ開発への基礎を築いた。

達成度

  • (1) フォーミュラカーの非定常空力評価
    70%(適用がセダン型のみでフォーミュラカーへの対応は進行中)
  • (2) ターボ機械内部流れ解析
    100%
  • (3) ガスタービンフィルム冷却の連成解析
    70%
  • (4) 大規模産業機械の高精度構造解析
    80%
  • (5) タンパク質の大規模電子状態解析
    100%
  • (6) ナノテクノロジー
    (a) 100%
    (b) 100%