平成19年度 地球シミュレータ利用報告会

1700℃級ガスタービン燃焼器開発のための乱流燃焼の予測シミュレーション

発表資料 (1.4MB)

1. プロジェクト名

1700℃級ガスタービン燃焼器開発のための乱流燃焼の予測シミュレーション

Numerical Prediction of Turbulent Combustion Flows for 1700°C Class Gas turbine Combustor

2. プロジェクト責任者名

大島 伸行

Nobuyuki Oshima

3. プロジェクトの目的

CO2削減、サステナブル社会の実現はエネルギー産業に課せられた21世紀最大の責務であり、この目標に向けての技術開発促進が喫緊の課題となっている。一般に燃焼機関の高効率・低エミッションの実現には希薄高温予混合燃焼が理論的に優れており、経産省PJとして開発研究される1700℃級ガスタービン燃焼器もその代表的事例である。そこでは、逆火や燃焼振動などの流動不安定などの技術的課題を克服することで実用化を目指しており、乱流燃焼場の非定常予測シミュレーションの果たす役割が大きい。

 一方、燃焼は「流れ」と「化学反応」の時間的、空間的スケール比が1000倍以上にも異なる典型的なマルチスケール・マルチフィジックス問題であり、それらに特徴的な間欠性、フラクタル性が現象を支配している。近年、乱流にはラージ・エディ・シミュレーション(LES)、燃焼には火炎片近似(flamelet approach)、また、スプレーなどの粒子流には離散粒子法(Discrete Droplet Model)などの研究が精力的進められ、実用問題への適用にも注目が向けられつつある。本申請者らは、flamelet近似を用いた乱流燃焼により火炎の流体力学的な発達過程を計算したのち、それを初期条件として詳細素反応解析により化学反応過程を計算する、ハイブリッド計算手法を考案して、基礎的な非定常燃焼流れのNO予測解析にて成功を収めた。本申請では、この考え方を1700℃級ガスタービン燃焼器の実機乱流燃焼場シミュレーションに適用して、定量的な精度評価とともに、実用化検証を行うことを目的とした。

4. 今年度当初の計画

本申請では、以下の研究課題を実施することを計画している。

  • 1) 1700℃級ガスタービン燃焼器のflameletモデルによる非定常現象解析
  • 2) 1700℃級ガスタービン燃焼器の素反応モデルによるNO予測解析
  • 3) 1700℃級ガスタービン燃焼器の熱損失を考慮した温度解析

解析プログラムは、実績のあるFrontFlow/red ver.2.8を基に開発、改良して用いる。今年度の研究スケジュールは以下を予定した。

H19年4-6月
1)、2)のための小規模予備計算(500万要素規模)によるプログラム改良、3)のための基礎検証解析(100万要素規模)によるプログラム改良
H19年7-9月
1)のための大規模計算格子(3000万要素規模)等作成、 2)の小規模計算(500万要素,100反応)の実行、実機試験データとの比較
H19年10-12月
1)の大規模計算格子(3000万要素規模)の実行、実機試験データとの比較
H20年1-3月
3)の小規模計算格子(500万要素規模)の実行、実機試験データとの比較

5. 今年度得られた成果、および達成度

成果

1700℃級ガスタービン燃焼器の小規模予備計算を実施した。解析対象は、三菱重工業株式会社において試作された燃焼試験機であり、上流旋回ベーンを通して流入する希薄予混合気とサイド3方向より流入する過濃予混合気の混合率を制御することで燃焼最適化を図っている。ここでは、リーン・リーンモード(L.L.モード)とリッチ・リーンモード(R.L.モード)の2つの典型的な運転条件を取り上げてLES解析を行った。数値解析に用いた解析格子の概観図を図1に示す.解析格子はすべて非構造6面体セルで構成されており,総節点数は6,085,954点,総セル数は5,942,466セルである。図1

数値解析には、文科省次世代IT基盤構築のための研究開発「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」で開発されたFrontFlow/red Ver.2.7を元に改良したソフトウェアを適用した。 解析に用いる熱化学的な条件として,以下の条件を設定した.

  • 静圧:104.35 [kPa]
  • 未燃混合気温度:890.3[K](617.15[℃])
  • 燃焼後出口ガス温度:1700 [℃]
  • 燃料組成:CH4:87%,C2H6:8%,C3H8:5%
  • 酸化剤組成:O2:13%,N2:75%,CO2:6%,H2O:8

実機燃焼試験において用いられる燃料組成にはC4H10が、酸化剤ゾ正にはArが若干含まれるが簡単のため上記組成により模擬した.flamelet approachでは化学反応を解く代わりに混合分率の輸送方程式を解き,その燃焼状態を表現する.混合分率ξと既燃状態の温度,密度といった変数を関連づける係数は,予め化学反応計算ソフトウェアCHEMKIN ver4.1を用いて化学平衡計算を行い,また反応に用いた物性データ,化学反応データはアメリカガス協会(GRI)によって公開されているデータベースGRI-MECH3.0を使用した.これらの熱化学的条件を元に,燃焼乱流場の解析に用いるためのflameletデータを構築した.

初期条件からL.L.モードでは20,000time-steps,R.L.モードでは60,000 time-stepsの緩和解析を経て,L.L.モードでは30,000 time-steps (0.075[sec])間,R.L.モードでは12,000 time-steps (0.03[sec])間の統計量を取得した.瞬時値はL.L.モードが50,000 time-step,R.L.モードが72,000 time-stepの計算結果である.

図2にX-Y断面の瞬時分布を示す.各流入部ではG=0であることより低い温度である以外は、ほとんどの領域で温度分布は混合分率分布と対応している. L.L.モードでは全体的に均一に1700度付近の温度分布を示しているのに対し,R.L.モードではスクープより下流の中心部で温度の低い領域が認められる.また両条件ともに,スクープの後流領域で温度の低い領域が存在する.図2

さらに、R.L.モードの混合分率に対して温度、密度、化学組成を算出して初期条件として、素反応を考慮した詳細反応モデルに切り替えてNO質量分率の予測計算実行した.図3は切り替える直前(72,000 step)における温度分布,および直後(72,050 step),さらに74,000 stepと76,000 stepにおけるNO質量分率分布である.切り替え直後の分布は,直前に対して急激な変化は見られず,詳細化学反応のための温度、密度、化学組成に対して精度の良い初期条件を与えていることが分かる.タイムステップが進むにつれて温度分布には徐々に変化が現れるが、NO質量分率分布における変化は小さい(この計算時間では流れ場の変化は微小である)。このことは、flamelet approachに基づいたNO質量分率分布の予測の実用性を示唆するものといえる。今後、より長時間の計算による流れ場変化を通した影響を評価したい。図3

なお、本計算を対象にプログラム並列化率向上のためのチューニング(FrontFlow Ver.3.0にバージョンアップ)を行った結果ベクトル化率は95%を充分超えていることを確認した。また、32CPUと80CPU使用時のRealTime(sec)計測による並列化率は1を超えており、この規模での並列化も十分なされていると考えられる。(ディスクアクセス時間の影響あり)

実験データとの比較では時間平均場での良好な一致を得ている。ただし、流入ベーンでの燃料噴霧などの詳細条件を解像していないことなどから、ベーン直後の温度分布などに差異が見られる。これに対して、大規模計算格子(3000万要素規模)によって形状および燃料流動条件の詳細再現によって予測精度改善を図っている。現在、計画に従って3000万要素規模格子作成および計算作業を進めており、ほぼ計画通り達成できる見込みである。

一方、熱損失を考慮した温度解析については単純なスプレーバーナーを対象とした小規模な解析モデル検証を行っている。本計算モデルの地球シミュレータへの導入は、当初計画よりやや遅れて来年度第1四半期ごろとなる見込みである。

達成度

12月時点での進捗状況および年度末までの達成見込みは以下のとおりである。

  • 1) 1700℃級ガスタービン燃焼器のflameletモデルによる非定常現象解析 70%(年度末まで100%)
  • 2) 1700℃級ガスタービン燃焼器の素反応モデルによるNO予測解析 80%(年度末まで100%)
  • 3) 1700℃級ガスタービン燃焼器の熱損失を考慮した温度解析 30%(年度末まで70%)