化学輸送モデルによる大気組成変動と気候影響の研究
Atmospheric Composition Change and its Climate Effect Studied by Chemical Transport Models
秋元 肇 (独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター 大気組成変動予測研究プログラム プログラムディレクター)
Hajime Akimoto
本研究では、全球物質輸送モデル及び全球化学輸送モデルを用いて、二酸化炭素等の温室効果ガス、及びオゾン等の大気汚染物質の大気組成変動のシミュレーションを行い、地球規模・地域規模でのそれらの収支や気候影響の解析を行う。
平成20年度の中期計画達成期間までに、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の主要温室効果ガスについて、高解像度大気輸送モデルによる順計算、逆計算により、グローバル・リージョナルスケールでの濃度・同位体組成変動要因の解明、収支の推定を従来以上の高精度で達成する。また特に二酸化炭素については、複数のモデル(NIES/FRCGCとJMA_CDTM)を用いてその結果を比較し、推定の精度を高める。
特に平成20年度は、逆モデルの精度を高めるため、誤差の原因となっている気象の年々変動、分解能依存性、大気力学のパラメタリゼーションなどについて検討し、逆モデル計算の精度を高める。また、一酸化二窒素についての計算に改良を加える。
平成20年度の中期計画達成期間までに、対流圏オゾン及びエアロゾル(特にブラックカーボン)による地域的気候影響を明らかにする。これら短寿命大気汚染物質は、長寿命温室効果ガスと異なって、その分布に大きな地域的な偏りがあり、全球平均で同じ放射強制力であっても、その地域的気候に及ぼす影響は両者の間に大きな違いが生ずるものと考えられので、それらの気候感度について研究する。
特に平成20年度は対流圏オゾンによる気候感度実験を行う。
本年度はCCSR/NIES/FRCGC化学気候モデルを用いて大気輸送診断を行った。大気中微量成分の対流圏内における輸送の時間スケールを理解するために、空気塊が熱帯域地表から各地域へ到達するまでの時間(空気年代)を見積もった。また、モデル中でのトレーサーの輸送を検証するために、世界6地点における六フッ化硫黄(SF6)の観測値およびモデル計算値を用いて半球間交換時間を計算した。その結果、本モデルが再現する大気輸送は様々な時空間スケールにおいて妥当であることが確認された。我々はまた、簡略化した光化学反応スキームと、現実的で代表性の高い地表フラックスを与えて、地表から中間圏までのメタンと一酸化二窒素(N2O)のモデル計算を行った。その計算結果を世界中でこれまで行われてきた様々な観測結果と比較し、両者は統計的に有意な一致を示すことが確認された。この比較から、本モデルがこれら大気成分の地上~対流圏~成層圏における再現に関して実用レベルでの適用が可能であることが示された。
複数の輸送モデル(FRCGC/NIESとJMA_CDTM)を用いた炭素循環解析相互比較結果の解析を行った。両モデルによる炭素循環解析結果は、全球規模で見ると陸域・海洋の炭素収支の位相が良く一致し、振幅も概ね一致していた。しかし、地域規模で見ると両者の解析結果に異なる部分も見られた。輸送モデルの結果を比較すると、FRCGC/NIESと比較してJMA_CDTMは鉛直輸送の違いなどから放出源近傍のトレーサーの寄与が大きいことが分かった。このことが解析結果の違いに影響を与えていた可能性が高い。輸送モデルの輸送過程は現時点でまだ未解明の部分があるため(特に鉛直輸送)、放出源や観測データの豊富なトレーサーを用いた比較実験の実施が必要である。この観点より、両モデルが参加した航空機観測データの相互比較実験等を現在実施中である。本プロジェクトから得られた知見は気象庁が今年度末に情報提供開始を予定している温室効果ガス監視情報の改良に活用する予定である。