平成20年度 地球シミュレータ利用報告会
1. プロジェクト名
連結階層シミュレーションアルゴリズムの開発
Development of Macro-Micro Interlocked Simulation Algorithm
2. プロジェクト責任者名
草野 完也
Kanya Kusano
3. プロジェクトの目的
ミクロスケールにおける第1原理的詳細モデルに基づきながらマクロスケールのシステムダイナミクスを計算するための連結階層アルゴリズムを、ミクロモデルとマクロモデルの連結を通して開発する。さらに、流体、プラズマ、固体ダイナミクスに関する典型的なマルチスケール問題を設定し、連結階層シミュレーションの応用性を実証する。
4. 今年度当初の計画
ミクロスケールにおける第1原理的詳細モデルに基づきながらマクロスケールのシステムダイナミクスを予測計算するための方法論を確立することは、様々な分野に共通する重要課題である。本研究ではミクロモデルとマクロモデルの連結によって、こうしたマルチスケール問題に対応することができる連結階層アルゴリズムを開発し、その応用性を実証すること目指す。2008年度はこれまでに開発した流体、プラズマ、固体に関する粒子流体連結手法をさらに拡張すると共に、現実の問題に適用した大規模応用研究を展開する。具体的研究内容は以下の通りである。
- (1) PIC法とHall-MHDおよびハイブリッド粒子流体法を用いた連結階層プラズマシミュレーションのアルゴリズムを利用した無衝突衝撃波の多次元シミュレーションを実施し、衝撃波粒子加速のメカニズムを考察する。また、その成果を宇宙天気MHDモデルに連結し、現実の太陽爆発における太陽高エネルギー粒子(SEP)の再現を目指す。
- (2) 太陽面、コロナ、惑星間空間、地球磁気圏のモデルを相互に連結した連結階層宇宙天気モデルを完成し、現実の太陽地球結合擾乱の再現を目指す。
- (3) 粒子モデルに基づく初めての雲微物理モデルである「超水滴法」を非静力領域モデルCReSSに導入すると共に、これを利用して本格的な雲形成シミュレーションを実施する。さらに、超水滴モデルをマクロスケールの大気力学過程に埋め込み、超水滴法を大域的領域に拡張する新たな方法の開発を開始する。
- (4) 大規模な分子運動論(MD)モデルによる摩擦シミュレーションと分子クラスタ生成シミュレーションを実施する。特に、電荷変動MDモデルを確立し、クラスター生成におけるイオン効果を明らかにする。また、パッチダイナミクスと呼ばれる方法を使ってMDモデルをマクロモデルに取り込む方法論を開発する。
- (5) DSMCモデルと流体モデルの境界連結を用いた燃焼流体の連結階層アルゴリズムを、解適合化格子を使ってさらに進化させ、デトネーションに関する実験装置スケールの本格的な連結階層応用シミュレーションを実現すると共に、実験との比較研究を開始する。
- (6) 粒子流体連結手法をagent-basedモデルとequation-basedモデルの連結に拡張し、経済など社会科学的現象の連結階層シミュレーションに関する可能性を探る。
5. 今年度得られた成果、および達成度
成果
計画された各項目について研究を進め、以下に示す成果を得た。
- (1) 連結階層シミュレーション手法をプラズマ無衝突衝撃波に適用し、これまでに無い大規模長時間の衝撃波粒子加速計算に成功した。このモデルは衝撃波構造を粒子系手法(HYBRID法)で計算し、上流域を流体系手法(Hall-MHD+高エネルギー粒子)で計算し、連結するものである。その結果、これまで別個に研究されていた、衝撃波面での粒子注入問題と衝撃波粒子加速問題を、同時に計算することが可能となり、非加速粒子のエネルギースペクトルの時間発展や空間分布などを定量的に検証することができた。また、(2)に示した太陽地球結合システムのマクロシミュレーションの結果を利用した衝撃波粒子加速の実データ連結階層シミュレーションにも着手した。
- (2) 太陽観測データに基づく電磁流体シミュレーションによる世界で最初の太陽面爆発の再現シミュレーションに成功すると共に、連結階層シミュレーション手法を応用することで太陽爆発の結果として生じる宇宙プラズマダイナミクスを惑星間空間、地球磁気圏まで連続して計算するモデル開発を行った。また、磁気圏と電離圏を流体及び粒子モデルを用いて連結したオーロラ連結階層シミュレーションモデルによる大規模計算により、オーロラアーク形成過程における微視的不安定性の効果を、定性的に理解するに至った。さらに、オーロラ発光の再現も可能となり、その傾向は、現実に観測されるものとよく一致した。
- (3) 我々が独自に開発した雲微物理モデルである超水滴法を雲分解モデルCReSSに実装する作業を進め、特定のパラメタ設定では両者が連結して動作する事を確認した。また、海洋上の浅い積雲の2次元計算において、予言される粒径分布への数値的収束の検証から超水滴法の有効性を評価した。さらに、不変集合の概念に依拠した新しい連結階層シミュレーション手法の、雲微物理過程への応用可能性を検討いた。
- (4) 分子動力学モデルを利用して摩擦融解が起きる場合に見つかった摩擦係数の圧力・速度依存則を詳細に調べ、摩擦ミクロ計算の境界条件やシステムサイズへの依存性について議論することで、マクロモデルとミクロモデルの動的連結による摩擦シミュレーションの実現可能性を議論した。
- (5) デトネーション伝播の連結階層モデルの精密化およびコードの改良を行い、波面の構造を詳細に調べることが可能となった。その結果、波面近傍における非熱的状態の詳細およびそれが化学反応に与える影響を明らかにした。
- (6) 異なるモデルの連結に利用することができるライブラリの開発をランカスター大学との共同研究として開始し、そのプロトタイプモデルを開発した。
達成度
約80%