大規模科学計算向け汎用数値ソフトウェア基盤の開発
Development of General Purpose Numerical Software Infrastructure for Large Scale Scientific Computing
西田 晃
Akira Nishida
高速ネットワーク環境の発展に伴い,今後は大規模アプリケーションについても,PC から演算サーバ,スーパーコンピュータに至る多様な資源をネットワーク上で共有し,オープンな環境で研究開発を行う機会が増えてくるものと予想される.本研究では,科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業の一環として,従来それぞれの分野において別個に進められてきた並列アルゴリズムや実装に関する知見をもとに, 大規模化が予想される今後の計算環境に対応したスケーラブルなソフトウェア基盤を整備することを目指し,反復解法,高速関数変換,及びその効果的な計算機上への実装手法の三分野を中心に,研究を進めている.これらは日本発の汎用数値解析用基盤ソフトウェアとして多くの優れた特徴を持つとともに,地球シミュレータを含む多数の計算機アーキテクチャに対応し,修正 BSD ライセンスにより無償で配布されるソフトウェアとして,様々な分野で使われるようになってきている.本研究では地球シミュレータ上での大規模実問題を用いた評価を通じてライブラリの性能を検証し,その機能を強化していく予定である.
本研究では,反復解法,高速関数変換,及びその効果的な計算機上への実装手法の三分野を中心に,大規模化が予想される今後の計算環境に対応したスケーラブルなソフトウェア基盤を整備することを目指し,多様な計算機環境に対応したライブラリの開発を進めている.
反復解法に関する研究では, 共役勾配法,共役残差法系の線形反復解法を中心に研究を進め,これらの拡張について多数の提案,発表を行うとともに,オブジェクト指向型の並列反復解法ライブラリ Lis (A Library of Iterative Solvers for Linear Systems) を開発し,既に MPI 版,OpenMP 版を含むバージョンを公開し,140以上の国内外の研究機関・企業を含む多くのユーザに利用されている.また,高速関数変換に関する研究では,オートチューニング機能を備えた高速フーリエ変換ライブラリ FFTSS を開発し,多様なアーキテクチャ上で高い性能を得ており,Intel, IBM 等の商用ライブラリ,MIT の開発する FFTW 等より優れた性能を記録している.これら2ライブラリについては地球シミュレータ対応版の開発を完了し,実問題を用いた性能評価の段階にある.また,Lis については昨年10月より地球シミュレータ対応版を公開している.
実装手法に関しては,数値ライブラリの利用を容易にするための高い抽象度を持つユーザインタフェース SILC (Simple Interface for Library Collections) を開発し,並列環境で使用可能なスクリプト言語として,国内・国際特許の出願を行なうとともに,複数の国際会議でその成果を発表している.SILC については平成20年度中に地球シミュレータを含む並列ベクトル計算環境に対応したバージョンを完成し,配布を開始する予定である.