平成20年度 地球シミュレータ利用報告会

カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション

発表資料 (4.6MB)

1. プロジェクト名

カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション

Large-scale simulation on the properties of carbon-nanotube

2. プロジェクト責任者名

手島 正吾

Syogo Tejima

3. プロジェクトの目的

カーボンナノチューブ(以下、CNT)はナノテクノロジの基幹材であり、その特性把握は激しい国際競争となっている。本研究は、技術的に難しいナノスケール実験に代わり、地球シミュレータを利用する大規模シミュレーションにより、産業界などが必要とするCNTの機械的、熱的、電子的な諸特性を明らかにする。さらに高品質CNTの生成、改質・加工などの応用プロセスシミュレーションを通じて新物質・新機能創製に関する基本情報を提供し、しかもそれらを戦略的知的財産として我が国のナノテクノロジの国際競争力の維持確保を支援することも目的としている。

4. 今年度当初の計画

(1) 高品質ナノチューブ生産プロセスの制御因子の特定 :

カーボンナノチューブ生成における触媒金属原子、炭素原子の相互反応挙動を分子運動論的に解析する多原子、長時間解析が可能な古典分子動力学手法を地球シミュレータに最適化し、大規模、長時間シミュレー ションし、生成メカニズムに及ぼす制御因子を明らかにする。また、第一原理計算を導入して、制御因子を電子論の立場から詳細に把握する。螺旋度制御等による金属、半導体の選択的生成法を提案する。

(2) 素材特性の把握及び新奇構造、機能発現の探索:

カーボンナノチューブの機械特性に関し、単体の引張、座屈、曲げ強度などの基本的特性の把握を完了し、本年度に論文として求める。これらの基礎特性に基づき、バンドル複合体の熱、機械、電子的特性等について大規模シミュレーションを拡大し、産業応用素材としての要素特性、製作プロセス過程の大規模シミュレーションを目指す。

大規模シミュレーションから最適生成パスを発見したマッカイ型炭層構造材について、その生産過程、この構造の強度、電子特性、磁性等の応用物性シミュレーションを行う。

さらに、新ダイヤモンド複合構造における高温超伝導ならびにナノチューブ高分子接合などの新奇機能物質についての原子数約数千個の大規模シミュレーションを行い、その産業応用性を明らかにする。加えて、新しい機能性探索シミュレーションとして、ナノチューブと高分子(DNA等)との電子伝導性に着目した第1原理輸送モデルによる原子数数百個の中規模シミュレーションを行い、特性とそのセンサ応用性を明らかにする。

(3) 次世代電子デバイスへ応用:

エレクトロニクス材料、デバイスのナノ加工技術に繋がるナノ炭素構造の転換を念頭に置き、グラファイト構造のAr多価イオン照射による転換のシミュレーションを実施すると同時に前年度までに実施したCNTとチタン金属界面の電子状態計算を発展させ、電気伝導のシミュレーションを実施する。

(4)モデル開発:

引き続き、オーダN法第一原理計算手法等のアルゴリズム改良、高速最適化に向けたモデル高度化・大規模化研究を進行する。

5. 今年度得られた成果、および達成度

成果

(1) 高品質ナノチューブ生産プロセスの制御因子の特定 :

第一原理計算により電子論の立場から触媒金属原子鉄による炭化水素の分解を確認し、また古典分子動力学計算により、分解で生じた炭素が触媒内部に拡散、飽和を経て触媒表面から析出しナノチューブ生成が開始される過程を確認した。

(2) 素材特性の把握及び新奇構造、機能発現の探索:

カーボンナノチューブ単体の基本的特性についての論文、投稿準備中である。エネルギー機能性素材への応用として、カーボンナノチューブに結合させた遷移金属の水素吸着のシミュレーションでは、遷移金属間相互作用を考慮し遷移金属のクラスター化を取り入れた水素吸着に関わる特性を明らかにした。マッカイ型炭素構造材については、大きさやタイプの異なるマッカイ構造を系統的にシミュレーションし、カーボンナノチューブから変形していく際の結合エネルギーの変遷を調べ、実現の可能性を示す結果を得、さらに、マッカイ構造の機械特性、電子構造特性を明らかにした。ボロンをホールとして含有させたダイヤモンド複合構造(薄膜構造)の高温超伝導体に対して、電子間のクーロン相互作用に内挿式を用いて改良した結果、前年度よりも高精度のTCを得ることに成功した。分子を流れる電子の量子伝導を解析するために、電荷ゆらぎ,分極および電磁場の効果をパイエルス位相として取り入れた強結合分子動力学法を構築した、膨大な計算量を必要とする2電子積分を行わず分極の効果までを考慮したクーロン相互作用で近似することによって計算量を大幅に軽減し,大規模な分子動力学計算を可能にした。新規シミュレーションとして、磁性を有する機能的分子である酸素をカーボンナノチューブ円筒空洞内閉じ込めることによる酸素磁性体の創製を試みた結果、第一原理電子状態計算により、CNT内部に酸素分子が1次元的に配列しCNT直径が小さくなると酸素分子の磁性が消失する傾向を示した。オーダーN法第一原理計算ではモデル開発が完了し、ナノ構造物質に関しては約5千原子を含む系に対してセルフコンシステント計算による構造最適化、生体系に関しては、多数の水分子を含むDNAの系や膜タンパク質に対して構造最適化などを実現することに成功した。

(3) 次世代電子デバイスへ応用:

ナノスケール加工にかかわるシミュレーションでは、パルス発生の効果を入れたTDDFT(時間依存密度汎関数理論)を利用した分子動力学計算にて、グラファイトのバルクにパルス電場を与え、グラファイトの最表面の1層のグラフェンがはがれていく過程が得られ、界面活性剤に変わる技術を提案した。光電場の半導体ナノチューブのシミュレーションに対し、印加電場の振動周期とナノチューブ励起エネルギーの共鳴増大効果により壁の局率が負になるナノチューブ内部ですらも、電界増大を見ることができることができた。

(4) モデル開発:

オーダN法第一原理計算手法等のアルゴリズム改良:高速最適化に向けたモデル高度化が完了し、(2)に適用した。

達成度

  • (1) 高品質ナノチューブ生産プロセスの制御因子の特定:50%
  • (2) 素材特性の把握及び新奇構造、機能発現の探索:150%
  • (3) 次世代電子デバイスへ応用:50%
  • (4) モデル開発:100%