平成20年度 地球シミュレータ利用報告会

気候・海洋変動のメカニズムの解明およびその予測可能性の研究

発表資料 (5.3MB)

1. プロジェクト名

気候・海洋変動のメカニズムの解明およびその予測可能性の研究

Study on the mechanism of climate and ocean variability and their predictability

2. プロジェクト責任者名

山形 俊男

Toshio Yamagata

3. プロジェクトの目的

短期気候変動のメカニズムの解明とその予測可能性の研究を主たる研究目標として、その両者に関わる重要な研究ツールである先端的大気・海洋結合モデルによるシミュレーション研究をES上で展開する事が本研究の目的である。この研究を展開するに当たり、我々はエルニーニョ/南方振動(ENSO)研究等により次第に明らかになって来た日々の天気のカオス性に打ち消されない長期 (天気予報の視点から) のトレンドに関する"potential predictability"を研究の重要な焦点として、また現象のターゲットとしては我々のグループが最近の研究で明らかにして来たインド洋ダイポール(IOD)に注目して、その予測可能性と世界の気候に及ぼす影響についての先駆的研究を目指す。この研究推進に当たり、地球シミュレータを充分に活用して可能な限り高解像度のシミュレーションを実行し、社会的にも充分にアピールできる予測研究の推進を目指す。

4. 今年度当初の計画

  • 1) これまで用いてきた大気海洋結合モデル (SINTEX-F1モデル) を用いて、熱帯気候の典型的なモードとして知られているIOD、ENSO及び近年我々が発見した「エルニーニョもどき」現象を含むリアルタイム予測を昨年度に引き続き行う。但し、アンサンブルメンバー数を増やすことにより予測精度向上を目指す。
  • 2) また大気海洋結合モデル実験を用いた感度実験を行い、IOD及びENSOの予測可能性に対して果たすインド洋と太平洋の独特の役割について理解する。
  • 3) 更に、上記モードとそれよりも空間規模の小さい現象とのスケール間相互作用を調べるため、高解像度化した大気海洋結合モデルSINTEX-F2の開発を進める。

5. 今年度得られた成果、および達成度

成果

SINTEX-F1は昨年に引き続き、2008年の正のIOD現象を数シーズン前から予測することに成功した。この先行時間はアフリカ、アジア、オーストラリアのインド洋周辺域において洪水や旱魃といった気候災害に対処するために重要である。この成果はいくつかの全国紙に取り上げられた。この大気海洋結合モデルは最近3年間のENSOだけでなくIOD現象に対しても連続して予測に成功しており、特に2008年のIOD現象の予測に成功したことは、SINTEX-F1モデルがきわめて稀な現象である正のIODの連続発生すらシミュレート可能であることを示すものである。SINTEX-F1の過去予測再現実験の結果と他のモデル結果の比較から、その予測精度は世界最高のものであることが示された。その精度ゆえ、国際的共同研究CliPas (Climate Prediction and Its Application to Society) においてマルチモデル・アンサンブルの1メンバーとして予測精度向上に貢献している。

インド洋と太平洋のそれぞれにおいて大気海洋間を結合させない設定にした過去予測実験により、インド洋と太平洋のどちらもIODやENSOの発達やその強さに対して顕著な働きをすることが明らかになった。また、ソマリア半島沖の沿岸湧昇域における海面水温偏差の形成に対して海面熱フラックスは予想に反して2次的な役割しか持たず、風の変化は必ずしも水温偏差を伴わないことが示された。このことはこの海域の水温構造の正しい再現には、そこでのメソスケール現象を正しく表現することが必要であることを示唆する。別の解析においては、自己組織化マップ(SOM)手法を用いて、正のIODに伴うSOMのモードが赤道太平洋中央部に正の海面水温偏差を持ち、アフリカ東部に正の降水偏差を持つことが示された。この赤道太平洋中央部の昇温は近年我々のグループで発見された「エルニーニョもどき」にも関連する。

SINTEX-F1の新しいバージョンとして、T106解像度の大気モデルと0.5度解像度の海洋モデル(ORCA05)の結合で110年間の積分を行った。更に、海洋モデルの解像度を0.25度(ORCA025).に上げた結合モデルの積分も60年間行った。赤道太平洋の冷水の舌状構造や北大西洋に見られたモデルのバイアスはORCA025で減少した。また、春季のエルニーニョやIOD現象は著しく弱まり、観測により合致するようになった。T319の大気モデル(ECHAM5)とORCA025を結合したSINTEX-F2の開発も大きく進展し、7年間の実験的積分において熱帯域での台風やサイクロンの発生を確認した。顕著な海面水温変動(約5度の冷却)がサイクロン付近で見られ、このモデルが台風・サイクロンに伴う大気海洋相互作用や、台風・サイクロンとマッデン・ジュリアン振動、ENSO、IODやモンスーンとの相互作用の研究に適することが示唆された。

達成度

SINTEX-F1を用いた予測実験の成功、太平洋とインド洋のそれぞれがIODとENSOに及ぼす影響の解明などから1)、2) については100%以上の成果を得たと考える。また高解像度のSINTEX-F2結合モデルの開発も大きく進展し、全体として目標のほぼ99%が達成された。以下のリストに示されるように、多くの原著論文が発表され、更に幾つかが投稿中である。