平成20年度 地球シミュレータ利用報告会

AFESを用いた地球型惑星の大気大循環シミュレーション

発表資料 (660KB)

1. プロジェクト名

AFESを用いた地球型惑星の大気大循環シミュレーション

Simulations of atmospheric general circulations of Earth-like planets by AFES

2. プロジェクト責任者名

林 祥介

Yoshiyuki Hayashi

3. プロジェクトの目的

地球型の惑星や衛星の大気は, 自転速度が遅くスーパーローテーションする大気をもつ金星とタイタン, 湿潤過程が支配する地球に対しダスト過程が支配する火星, 温暖な地球に対し暴走温室状態にある金星・暴走凝結状態にある火星, といった多様な特徴を有している. 本プロジェクトでは, 大気大循環モデルの力学的枠組として, 地球シミュレータセンターで最適化と改良がなされてきた大気大循環モデル AFES を用い, これと各惑星に適した物理過程モジュールを組み合わせることにより, 共通の枠組での各惑星大気の大循環シミュレーションを実現し, それぞれの惑星を特徴づけている個別的な力学過程を明らかにするとともに, そのことを通して個別的な構造の存在をより広いパラメタ空間の上に位置づける足がかりにすることをめざす.

4. 今年度当初の計画

計算条件として, 火星と金星を考える. それぞれのシミュレーションの狙いは以下のとおりである.

1) 中小規模擾乱の実態とダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験

ダストの巻き上げと巻き上げられたダストの挙動を鍵として, 火星における中小規模擾乱の存在と構造を明らかにすること, ならびに, 中小規模擾乱の表現と大循環の表現の分解能依存性を掌握することを目指す. 平成 19 年度までに, 格子点間隔22-89 km程度の複数の空間解像度で北半球の秋の条件で, ダストの巻き上げ過程の解像度依存性について調べた. 平成 20 年度には, 同様の実験を異なる季節に対して行い, ダスト巻上げを鍵にした中小規模擾乱と大循環場の探索を徹底する.

2) 精密な放射モデルの開発と, それを用いて現実的な加熱率分布を与えた金星大気大循環実験

金星大気のスーパーローテーションは, 現実的な放射過程を用いた数値計算によって実現した例は未だ世界に存在していない. これに対し我々は, 平成 19 年度までに, 金星用簡易物理過程モジュールを用いた大気大循環計算を行いその計算可能性を確認しつつ, 同時に精密な金星大気放射モデルの構築を進めてきた. 平成 20 年度にはいよいよこれを AFES に実装し, 現実的な放射加熱分布による金星大気大循環計算の実現を目指す. 金星大気のスーパーローテーションの計算においては, 放射コードの実装が完了したとしても, 角運動量輸送に関与する波動構造と乱流構造の探求に時間を要すことが予想され, したがってその平成 20 年度内での達成は困難であると想定される. しかし, 平成21年度にはその探求を開始し, 金星のスーパーローテーションの数値的実現を達成, 地球型惑星大気のパラメタ空間を押さえる能力を確保することを目指す.

5. 今年度得られた成果、および達成度

成果

「4. 今年度当初の計画」 に挙げた各計画に対する成果は以下の通りである.

1) 中小規模擾乱の実態とダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験

北半球の夏の条件での中小規模擾乱の特徴と大気へのダスト供給過程に注目して, 実験および結果の解析を行った. 本実験では, 水平解像度 100 km 程度から水平解像度 20 km 程度まで複数の解像度で実験を行い, 中小規模擾乱がダストを巻き上げる上でどの程度寄与しているかについて, 定量的に評価することを試みた. 実験の結果, 北半球の夏の条件では解像度の向上とともに巻き上げられるダストの総量がほとんど変化しないことが示された. この傾向は, これまでに行ってきた北半球の秋の結果とは異なっている. これは, 異なる季節には大規模循環の向きが異なるため, 小規模循環との重ね合わせが必ずしも風速を強めるわけではないことに起因していると考えられる.

2) 精密な放射モデルの開発と, それを用いて現実的な加熱率分布を与えた金星大気大循環実験

今年度前半では correlated k-distribution 法に基づく放射伝達計算コードを開発し,単体での動作を確認した. この放射モデルの利用にはline-by-line 計算に基づく CO2 及び H2O の吸収係数が必要であるが, 金星大気の高温・高圧条件下での吸収線型は理論的に確定しておらず, 大きな不確定性が存在する. このため, 放射モデルを AFES に実装し, 詳細な数値実験を始める準備として, これまでに提案された代表的な吸収線型として Lorentz 線型を用いた場合, Pollack et al. (1993) の線型を用いた場合を比較検討した. その結果, CO2 の吸収線型として Lorentz 型を用いると大気が赤外線に対し不透明になりすぎること, Pollack et al. (1993) を用いると透明になりすぎることがわかった. 今後は Fukabori et al. (1986) の線型を用いた場合, Meadows and Crisp (1996) の線型を用いた場合についても比較を行い, 金星大気に適した吸収係数分布を確定させる予定である.

達成度

「4. 今年度当初の計画」 に挙げた各計画に対する達成度は以下の通りである.

  • 1) 中小規模擾乱の実態とダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験 : 75%
  • 2) 精密な放射モデルの開発と, それを用いて現実的な加熱率分布を与えた金星大気大循環実験 : 50%