平成22年度 地球シミュレータ利用報告会
1. プロジェクト名
実地球環境でのマントル・コア活動の数値シミュレーション
Simulation study on the dynamics of the mantle and core in Earth-like conditions
2. プロジェクト責任者名
浜野 洋三 (海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)
Yozo Hamano
3. プロジェクトの目的
マントルとコアからなる地球システム全体の活動の実態解明を目的として,グローバルな観測や地球の変動史に合致するモデルを構築するためのシミュレーション研究を行う。具体的には, (1) コアでの磁場生成に寄与するダイナモ過程の高精度シミュレーション,(2) プレートや大陸の移動を再現するマントル対流のシミュレーション,(3) 地球磁場変動による電磁誘導過程のシミュレーションに基づくマントルの電気伝導度構造の解明,を相互に参照しつつ進める。これらにより,地球内部の動的状態を把握し,将来的な変動の予測にもつなげる。
4. 今年度当初の計画
(1) コア対流と地球ダイナモ: これまでに用いてきた地球ダイナモモデルの高解像度化の実現可能性を検証する。その結果をもとに,エクマン数10-7,磁気プラントル数 0.1 程度の低粘性ダイナモのシミュレーションを,可能な限りのノード数で実施する。またマントル最下部の熱的構造および電気伝導度構造を加味したモデルの開発をおこなう。 (2) マントル対流: 従来もちいてきたコードのチューニングをおこない,水平 7.5 km まで解像度をあげた計算を実行し,高いレイリー数の実現をめざす。マントル対流の時間的変動を見るために,長期間の時間積分をおこなう。 (3) 電気伝導度構造: 従来のコードのチューニングをおこない,地磁気変動データをもちいた電気伝導度構造のインバージョンをおこなう。
5. 研究計画に沿った利用状況度
(1) コア対流と地球ダイナモ: 従来コードの性能確認をおこない,それをもちいた,比較的中規模 (8〜16ノード) のダイナモシミュレーションをおこなった。 またさらにモデルを高解像度化するために,計算コードの抜本的改良を試み,テスト計算をおこなった。 (2) マントル対流: コードのチューニングを進め,比較的中規模 (8〜16ノード) の計算を実施した。解像度は水平15 km 程度にとどまった。 (3) 電気伝導度構造: 新システムに移行するための準備がとどこおり,本格的な利用はおこなえなかった。
6. 今年度得られた成果、および達成度
成果
(1) コア対流と地球ダイナモ:従来の計算コードは新システムでも比較的良好な実効性能を示した。それを用いて,エクマン数2.5x10-7,磁気プラントル数0.2の低粘性ダイナモの数値シミュレーションをおこなった。今年度はとくに系のレイリー数依存性,温度および速度の境界条件依存性などについて調べた。これまで知られていない,低粘性のパラメータ領域での地球型ダイナモの性質について,基礎的な知見を得た。また新システムの計算能力を最大限に引き出し,さらにモデルを高解像度化するために,従来地球シミュレータ上でおこなってきた球面スペクトル法を改良する試みもおこなった。ひとつは,並列化のための領域分割法,およびスペクトル変換にともなう全対全通信をおこなうタイミングを変えたもので,理論上は通信量が減るが,実装についてはまだ調整中である。もうひとつの試みは動径方向の離散化を高精度のコンパクト差分を用いておこなう方法で,磁場なしの熱対流問題について有効性を確認した。 (2) マントル対流: 新システムでのコードのチューニングを完了した。われわれのモデルでは,実際の地球に見られるような大きいプレートと小さいプレートとが共存する表面パターンが自然に形成される。今年度はさらに億年スケールの長期間の時間変動を解析した。深さ660 km の相転移と下部マントルで粘性率が高くなる効果を与えることによって,沈み込んだプレートが大規模に滞留し,それが間欠的に崩落すること,また滞留の過程で沈み込み帯の位置の急速な移動が見られることを確認した。これらの結果は,地震波トモグラフィーで見えているスタグナントスラブの形成やプレート運動の復元結果などと整合的であり,これまで人為的に与えていた海溝の移動を,自己完結モデルで自然に再現することに成功したことを意味する。
達成度
コア対流と地球ダイナモについては,新システムに最適化した高解像度モデルのコードのチューニングが未完了である点で達成度は低いが,従来コードでもこれまでと同程度の空間解像度で計算が可能であったため,これを用いたパラメータスタディをおこなうことができたことを鑑みると,達成度は50%程度と考えられる。マントル対流については長期間のシミュレーションをおこなうに足るコードのチューニングを終え,一定の研究成果を得たが,高解像度シミュレーションを実施するためにはさらなるチューニングが必要であり,達成度は60%程度と考えられる。また電気伝導度構造については新システム移行に関する準備がじゅうぶんでなく,本格的な数値計算がおこなえなかったため10%以下とせざるを得ない。
8. 研究成果一覧 (投稿中の論文、予定講演の場合はその旨記載のこと)
a. 原著論文 (査読あり)
- • Sakuraba, A. and Roberts, P. H. (2009), “Generation of a strong magnetic field using uniform heat flux at the surface of the core”, Nature Geoscience 2, 802-805.
- • Yanagisawa, T., Yamagishi, Y., Hamano, Y. and Stegman, D. (2010), “Mechanism for generating stagnant slabs in 3-D spherical mantle convection models at Earth-like conditions”, Physics of the Earth and Planetary Interiors (投稿中).
- • Nakakuki, T., Tagawa, M. and Iwase, Y. (2010), “Dynamical mechanism controlling formation and avalanche of a stagnant slab”, Physics of the Earth and Planetary Interiors (投稿中).
- • Takahashi, F. (2010), “Implementation of high-order combined compact scheme in a problem of thermal convection in a rotating spherical container” (準備中).
b. 原著論文 (査読なし、および雑誌等寄稿)
- • 櫻庭 中 (2010), “コア表面の温度境界条件が地球ダイナモにあたえる影響”, 月刊地球 (投稿中).
c. 学会等発表 (ポスターセッションの場合はその旨記載)
- • Yanagisawa, T., Yamagishi, Y. and Hamano, Y. (2009年2月), “The effect of phase transition and viscosity layering on the slab stagnation”, Final SSP International Symposium on Deep Slab and Mantle Dynamics, 京都.
- • 櫻庭 中 (2009年5月), “Magnetic field variations of short timescales in a numerical geodynamo model”, 日本地球惑星科学連合2009年大会, 幕張, 千葉.
- • 中久喜伴益 (2009年5月), “沈み込むスラブが引き起こす流動と背弧海盆の形成”, 日本地球惑星科学連合2009年大会, 幕張, 千葉.
- • 柳澤 孝寿, 山岸 保子, 浜野 洋三 (2009年5月), “The effect of phase transition and viscosity layering on the slab stagnation in spherical shell mantle”, 日本地球惑星科学連合2009年大会, 幕張, 千葉 (ポスター発表).
- • Sakuraba, A. and Roberts, P. H. (2009年8月), “Large-scale flow and magnetic field structures in low-viscosity geodynamo models: The effect of the thermal boundary condition”, International Association of Geomagnetism and Aeronomy (11th Scientific Assembly), Sopron, Hungary.
- • 櫻庭 中 (2009年9月), “地磁気短周期変動の数値シミュレーション”, 地球電磁気・地球惑星圏学会 (第126回総会・講演会), 金沢.
- • 中久喜伴益 (2009年10月), “沈み込むスラブの伴流と背弧側プレートの応力場”, 日本地震学会 (2009年秋季大会), 京都.
- • Sakuraba, A. (2009年12月), “Characteristics of low-viscosity models for planetary dynamos”, American Geophysical Union (Fall Meeting), San Francisco, USA.
d. 講演
e. 新聞、雑誌での掲載記事