平成21年度 地球シミュレータ利用報告会

カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション

発表資料 (2.7MB)

1. プロジェクト名

カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション

Large-scale simulation on the properties of carbon-nanotube

2. プロジェクト責任者名

手島 正吾 (高度情報科学技術研究機構)

Syogo Tejima

3. プロジェクトの目的

ナノテクの基幹材料であるカーボンナノチューブ(CNT)等のナノ炭素類を対象として、熱伝導、機械の特性、新奇な炭素物質であるマッカイ構造体の生成パス、次世代CPUのCNT配線における電磁作用の影響など、実験では得がたい物理現象、新物質創成法、新機能発現法を大規模な第一原理・強結合近似分子動力学シミュレーションによって明らかにし、その成果を学界、先端産業へ提供するとともに、地球シミュレータの性能を実証する。加えて、ナノ炭素類の新奇特性を人類的課題である温暖化対策としての環境技術・新エネルギー開発に役立てる大規模シミュレーション研究を実施する。

4. 今年度当初の計画

[1]拡張した強結合近似分子動力学法により、高精度化したダイヤモンド超伝導体の長時間フォノン振動計算とカーボンナノチューブ量子伝導計算

[2]時間依存第一原理計算法により、半導体CNTに内包したロドプシン分子の光応答把握のための光学異性体化反応のシミュレーション

[3]第一原理計算法により、マッカイ構造体の太陽電池応用、水質浄化応用、水素貯留材料応用などの可能性を見極めるための電子状態計算

5. 研究計画に沿った利用状況度

 テーマ[2]が予想以上の計算リソースを必要とし、当初の資源割当を使い切った。チューニング推進期間のリソース追加分により他のテーマを実施し、テーマ[1]でノード拡張(96ノード)が達成できており、現在の利用ペースでは残りの計算資源はすべて消費する。

6. 今年度得られた成果、および達成度

成果

[1] 原子局在基底を用いた拡張した強結合近似分子動力学法により,カーボンナノチューブを流れる電子の微視的な電気伝導を効率的に精度良くシミュレーションできるオーダーNプログラムを開発した。これにより、単層、多層ナノチューブの伝導特性の評価を行った。オーダーNであることから大規模粒子系に適用可能で、ミクロンオーダーのナノチューブジャンクションからなる量子配線などの新しいナノデバイス構造の設計シミュレーションが現実味を帯びてきた。

[2-1] カーボンナノチューブと光の相互作用のシミュレーションを行い、 ナノチューブ内部への光電場浸透を明らかにした。これにより、ナノ チューブに内包された分子を光励起できることが第一原理計算で実証され、効率の良い光化学反応を起こすことが可能となった。更に、光 の波長がナノチューブの励起エネルギーに等しい場合には、ナノチューブ内部の光電場を増幅できるデバイスの機能を持つことが明らかになった。

[2-2] グラファイト表面にフェムト秒パルスレーザー照射することで、表面から グラフェン層を一枚一枚引き剥がすことができることをシミュレーションで発見し、グラフェンの効率の良い製造方法を提案した。現在実験による検証が国内外で始まり、少ない層数のグラフェンは、シリコンを凌駕する性能を有するトランジスタ応用が期待できる。

[3-1]アームチェア型、ジグザグ型のマッカイ結晶の電子状態計算を計算し、サイズにより異なる電荷分布、電子構造の性質を明らかにした。(111)方向には炭素の6員環のみからなるグラフェン構造が、(100)方向には8員環が出現することが明らかになった。また、サイズが大きくなるとバンドギャップ値が大きくなる傾向にあることが分かった。この性質を利用して、サイズの異なるマッカイ結晶を積層させることにより、異なったエネルギーギャップで異なった太陽光波長を吸収する多接合型太陽電池への応用が期待できる。

[3-2]  ドラックデリバリーシステム応用が期待されている、数百原子からなるダイヤモンドクラスターの安定構造(ナノダイヤ)の詳細構造を第一原理計算により明らかにした。ナノダイヤの(111)方向には炭素の6員環のみからなるもろい黒鉛層が現れ、(100)方向には閉表面となるための5員環とダイヤモンド結合が現れ、マッカイ結晶に類似した構造となることが分かった。ナノダイヤ内部に黒鉛とダイヤモンドが混在することにより生じる電荷の偏りが、分子修飾やミセル化などを引き起こす役目をしていることが把握できた。

達成度

  • [1]ダイヤモンド超伝導体、カーボンナノチューブ量子伝導シミュレーション: 70%
  • [2]光学異性体化反応シミュレーション: 120%
  • [3]マッカイ構造の特性シミュレーション: 80%

8. 研究成果一覧 (投稿中の論文、予定講演の場合はその旨記載のこと)

a. 原著論文 (査読あり)

  • Miyamoto,Appl. Phys. Lett. 95, 053109 (2009)
  • 手島,表面科学 Vol.30 No.12 pp. 673-679, (2009)
  • Miyamoto,Phys. Rev. Lettに投稿中

b. 原著論文 (査読なし、および雑誌等寄稿)

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c. 学会等発表 (ポスターセッションの場合はその旨記載)

  • 中村賢、日本物理学会、2009年秋季大会、熊本大学
  • Satoshi Nakamura, SC09, HCPNano09 Workshop, Oregon, November 15

d. 講演

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e. 新聞、雑誌での掲載記事

  • 日経産業新聞 2009年3月12日 「新構造の炭素物質 合成のヒント 数学で予言」
  • 日経産業新聞 2009年10月28日 2030年への挑戦 次世代産業技術 スパコン能力向上課題