平成21年度 地球シミュレータ利用報告会
1. プロジェクト名
AFESを用いた地球型惑星の大気大循環シミュレーション
Simulations of atmospheric general circulations of Earth-like planets by AFES
2. プロジェクト責任者名
林 祥介 (神戸大学大学院理学研究科)
Yoshiyuki Hayashi
3. プロジェクトの目的
地球, 火星, 金星といった惑星の大気大循環の特徴は, 地球大気と同様の力学的枠組を用いて記述されると考えられるが, 金星大気のスーパーローテーション(超回転), 火星大気のダスト分布(ストーム)といった個別的な特徴を生む力学的構造の理解は未だ不十分である. 本プロジェクトでは, 地球シミュレータセンターで改良がなされてきた大気大循環モデル AFES に各惑星に適した物理過程モジュールを開発導入することで, 地球型の惑星大気を統合して扱える枠組みを構築するとともに, 各惑星大気の中小規模擾乱の探求と, それら擾乱とつじつまのあった大循環の計算を実現することにより, 個別的な特徴の力学的理解を進めることをめざす.
4. 今年度当初の計画
火星と金星の大気循環の計算を以下のように行う:
1) 中小規模擾乱の実態とダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験
火星の大気中に存在することが知られている, ダストの巻き上げと巻き上げられたダストの挙動を鍵として, 中小規模擾乱の実態を明らかにすることを目指す. 地球シミュレータの更新を機に これまでよりも高い解像度での実験も試み, 複数の空間解像度(11-89 km)でダストストームが起こりやすいとされる北半球の秋の条件の下, 擾乱の構造やそれらのダストの巻き上げ過程への影響について, 解像度依存性を調べる. また, 擾乱の構造やダスト巻き上げ過程は, 地形などの地表面条件の影響を強く受けていると考えられるため, それらに対する感度実験を行う. 実際には, 申請書で述べたように, 昨年の研究成果発表会後に発見されたモデルのコーディングミスを修正し, 昨年度までに行ってきた実験の確認から始める.
2) 精密な放射モデルを用いた現実的な加熱率分布を与えた金星大気大循環実験
金星大気中ではスーパーローテーションが形成されており, その維持には様々な大気波動による運動量輸送が寄与していると考えられる. そこでスーパーローテーションの維持機構を鍵として, 中小規模擾乱の構造を明らかにすることを目指す. 今年度はまず, 昨年度までに構築してきた精密な金星大気放射モデルのパラメータチューニングを行い, それを完成させる. その後, その放射モデルを AFES に組み込むことで, 現実的な放射加熱分布を与えた上での金星大気スーパーローテーションの再現実験を開始する.
5. 研究計画に沿った利用状況
昨年度までに構築したモデルそのままでは更新された地球シミュレータで高速に動作せず,問題点の特定に時間を要しており, 計算は計画通りには進まなかった.
我々のグループでは, AFES を基にして昨年度までに火星大気モデルを構築しており, さらにそれを用いた高解像度計算を行っていた. このため, 地球シミュレータの更新後はより高解像度の計算の実施を計画していた. しかし, 更新後の地球シミュレータへの最適化に要する時間を過小評価しており, 実際には最適化するべき部分の特定に時間を費やしてしまった. 現時点においては, 地球シミュレータセンターの AFES の開発者に助言を頂きつつ最適化作業を行っているにすぎない. 最適化に向けた作業と並行して昨年度に発見したコーディングミスの修正は完了し, その動作試験を兼ねて比較的低解像度もしくは中解像度での実験を行っており, 計算機資源は低・中解像度計算に充てている.
6. 今年度得られた成果,および達成度
成果
1) 中小規模擾乱の実態とダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験
低・中解像度モデルを用いた数値実験により, これらの解像度においては, 昨年度までに得られた計算結果が, モデルのコーディングミスに大きな影響を受けていないことを確認した.
中解像度モデルを用いた計算においては, 中小規模擾乱が大きな値の地表面応力の生成と結果としてのダストの巻き上げに寄与することを明らかにした.
2) 精密な放射モデルを用いた現実的な加熱率分布を与えた金星大気大循環実験
最新の吸収線データに基づく現実的な金星大気放射伝達モデルを開発した.
精密な放射モデルと3次元大気大循環モデル (AFES) を用いた金星大気数値シミュレーションの実施に先立ち, 軸対称 (平均子午面循環) モデルおよび灰色大気放射モデルを開発し, 光学的に厚い惑星大気における平均子午面循環の数値計算を実行した. 光学的に厚い惑星大気の循環構造には, 吸収係数の圧力依存性、定圧比熱の温度依存性がきわめて重要になることを示唆した.
AFES に灰色大気モデルを組み込み, 金星下層大気循環の数値シミュレーションを行った.東西平均した太陽加熱によって駆動される下層の平均子午面循環は弱く, 生成される平均東西流は弱いことが示唆された.
達成度
- 1) 中小規模擾乱の実態とダスト供給過程の解明を目指した高解像度火星大気大循環実験 25%
- 2) 精密な放射モデルを用いた現実的な加熱率分布を与えた金星大気大循環実験 15%
8. 研究成果一覧 (投稿中の論文、予定講演の場合はその旨記載のこと)
a. 原著論文 (査読あり)
- Takagi, M., K. Suzuki, H. Sagawa, P. Baron, J. Mendrok, Y. Kasai, and Y. Matsuda (XXXX), Influence of CO2 line profiles on radiative
and radiative-convective equilibrium states of the Venus lower atmosphere, (JGR に投稿中)
b. 原著論文 (査読なし、および雑誌等寄稿)
なし
c. 学会等発表 (ポスターセッションの場合はその旨記載)
- 高木征弘・松田佳久, 放射輸送を考慮した金星大気における平均子午面循環 の数値シミュレーション, 第11回地球流体力学研究集会「地球流体における 波動と対流現象の力学」, 九州大学応用力学研究所 (福岡県春日市), 2009 年12月21-22日.
- Takahashi, Y. O., Y.-Y. Hayashi, M. Odaka, and W. Ohfuchi, Medium and High Resolution Simulations of Martian Atmosphere, 2nd OFES International Workshop and ESC-IPRC Joint Workshop on Computationally-Intensive Modeling of the Climate System, Honolulu, Hawaii, USA, 9-10 December, 2009.
- 高木征弘・松田佳久, 金星大気の平均子午面循環, 日本気象学会2009年度秋 季大会, 福岡県福岡市 (アクロス福岡), 2009年11月25-27日
- 高橋芳幸, 林祥介, 石渡正樹, 森川靖大, 中島健介, 大気大循環モデルを用いた陸と海のある惑星の大気大循環計算, 日本気象学会 2009 年秋季大会, 福岡県福岡市 (アクロス福岡), 2009 年 11 月 25-27 日.
- 高橋芳幸, 林祥介, 石渡正樹, 中島健介, 大気大循環モデルを用いた惑星大気の数値計算, STE シミュレーション研究会:粒子加速と波動粒子相互作用&宇宙プラズマ波動研究会, 宮城県仙台市 (戦災復興記念館), 2009 年 10 月 28-30 日.
- 高木征弘・鈴木広大・佐川英夫・Philippe Baron・Jana Mendrok・笠井康子・松田佳久, 金星大気の放射伝達モデルの開発 ─ ハビタブル惑星の大気放射モデル開発に向けて, ハビタブル惑星ミニワークショップ, 東京都三鷹市 (国立天文台), 2009年8月18日
- 高橋芳幸, 林祥介, 石渡正樹, 森川靖大, 大気大循環モデルを用いた陸と海のある惑星の大気大循環計算, 地球電磁気・地球惑星圏学会 第 126 回総会及び講演会, 石川県金沢市 (金沢大学), 2009 年 9 月 27-30 日.
- Takagi, M., K. Suzuki, H. Sagawa, P. Baron, J. Mendrok, Y. Kasai, and Y. Matsuda, Development of a radiative transfer model for the Venus atmosphere, AOGS 2009, Singapore, 11-12 August 2009
- 高木征弘・鈴木広大・佐川英夫・Philippe Baron・Jana Mendrok・松田佳久・笠井康子・瀬田孝将, 金星大気の放射伝達モデルの開発 (2), 日本気象学会 2009年度春季大会, 茨城県つくば市 (つくば国際会議場), 2009年5月28-31 日
- 高橋芳幸, 火星の大気循環, 惑星大気研究会, 茨城県つくば市 (つくば国際会議場), 2009 年 5 月 27 日.
- 高木征弘・鈴木広大・佐川英夫・Philippe Baron・Jana Mendrok・松田佳久・笠井康子・瀬田孝将, 金星大気の放射伝達モデルの開発, 地球惑星科学連合 2009年大会, 千葉県千葉市 (幕張メッセ国際会議場), 2009年5月16-21日
講演
なし
e. 新聞、雑誌での掲載記事
なし