平成22年度 地球シミュレータ利用報告会

3次元不均質場での波動伝播と強震動のシミュレーション

発表資料 (1.7MB)

1. プロジェクト名

3次元不均質場での波動伝播と強震動のシミュレーション

Numerical simulation of seismic wave propagation and strong ground motions in 3-D heterogeneous media

2. プロジェクト責任者名

古村 孝志 (東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター/地震研究所)

Takashi Furumura

3. プロジェクトの目的

3次元的に不均質な媒質中の地震波動伝播と強震動生成そして津波発生伝播の数値シミュレーションを実施する. 陸海プレート境界地震や内陸活断層の地震に伴って放射される地震動が, 不均質な地殻・上部マントルを伝播し, 地殻表層部の軟弱な堆積層により強く増幅され, そして構造物に被害を引き起こす強震動が生成される一連の物理過程を, 運動方程式の大規模計算により理解する. 加えて, 海溝型巨大地震が引き起こす海底地殻変動と, 津波発生伝播を高精度に評価するための, 地震と津波の連成シミュレーションを実施する.

地球シミュレータによる計算結果を, 日本列島に展開された高密度強震・津波観測データ, そして過去の大地震の古記録と直接比較することにより, シミュレーションモデルを検証し, そしてモデル物性値の調整を進めてモデルの高精度化をはかる. こうして, 将来発生が予想される大地震の強震動と津波を高い精度で予測し, 災害軽減に活用するための強震動・津波予測シミュレーションを実現する.

4. 今年度当初の計画

(1) 地震―津波シミュレーションコードの高度化

大地震によりもたらされる地震と津波の高精度シミュレーションのために, H21年度にES2向けにコードチューニングを進めた地震動のFDMコードの最適化を今年度も継続実施する. 特に, キャッシュメモリ(ADB)の利用効率を上げ, かつメモリアクセスを低減化した計算コードの整備を行うために, アルゴリズムレベルでの見直しとコード修正を行う. 地震動シミュレーションと津波伝播シミュレーションの連成計算の強化のために, 運動方程式を用いて弾性体の波動伝播と流体の津波・音波の伝播を一度に計算できる新しい並列地震―津波シミュレーションコード?を新規開発し, 大規模並列計算向きのコードを整備する. メモリアクセスとノード間通信の効率化を考慮したコード開発を通じて, 次世代スパコンを意識した超並列計算の実用化に向けた準備を進める.

(2) 広帯域地震動シミュレーションのための, 不均質地下構造モデルの整備

周期1秒以下(周波数1 Hz以上)の短周期地震動~長周期地震動を含む, 広帯域の地震動シミュレーションの実現のために, 短周期地震動の伝播と散乱を強く引き起こす, スケールが数百~数km以下の短波長不均質構造を正しくモデル化した, 日本の地殻・マントル構造モデルを構築する. このために, 高密度地震観測網で記録した近年の大地震の波形の特徴(S波とそのコーダ波形の包絡線形状や, 上下・水平動の振幅分布, 距離減衰特性など)を正しく再現できるモデルを既往の研究を初期値として, 不均質パラメータ(物性揺らぎの標準偏差, 特徴的スケール, 不均質分布の特性など)を試行錯誤的に変化させながら最適解を求める. 地下構造モデルの不均質性と震源断層面上の不均質性が作り出す, 地震動の不確定性を不均質構造のランダム種を変えて数十通り計算し, アンサンブル平均を求めることにより予測結果のバラツキを含めた新しい地震動評価モデルを開発する.

5. 研究計画に沿った利用状況

(1) 地震―津波シミュレーションコードの高度化
  • (1) 平成21年度から継続して地震動のシミュレーションコード(Seism3D3)のコードチューニングを行った. 本年度の効果として, ループアンローリングとキャッシュメモリ(ADB)の併用により, 11%の高速化を達成した.
  • 本計算コードを用いて, 1605年慶長津波地震の強震動と地殻変動, 津波のシミュレーションを実施した.
  • 重力項を含む運動方程式を用いた3次元FDMにより, 地震波と地殻変動, 海中音波, そして津波を一度に計算することのできる新しい「地震―津波同時シミュレーションコード」を新規開発し, ES2を用いた大規模並列計算を行った.
広帯域地震動シミュレーションのための, 不均質地下構造モデルの整備
  • 周期1秒以下の短周期地震動(広帯域地震動)シミュレーションの実現に向けて, 日本列島下の短波長(数百~キロメートル)不均質構造のモデル化を, 高密度地震観測記録解析とES2による大規模地震波伝播シミュレーションの比較から進めた. 今年度は, P波が散乱によりTransverse成分に振動方向が変換される現象に着眼し, 3不均質地下構造モデルを用いたES2計算により散乱波動場を再現し, 観測を説明するモデルを探すことに主眼を置いた.

6. 今年度得られた成果, および達成度

成果

(1) 1605年慶長津波地震の再現

南海トラフで発生した1605年慶長津波地震による強震動, 地殻変動, 津波を再現し, この地震が南海トラフの海溝軸付近の浅部(10km以浅)滑りにより起きた, 通常のプレート境界(15~30km)地震とは別のタイプの地震であったことを明らかにした. 地震―津波シミュレーションにより, 慶長地震の特徴である,

  • 1) 断層破壊が通常の地震の断層滑り速度(Vr=3km/s程度)よりずっと遅い(Vr=1km/s未満)ことにより, 体感地震動(震度)が小さい,
  • 2) 陸から遠く(100km以上)離れ, 地震前後に地殻変動や井戸涸れ現象が起きやすい
  • 3) 浅い断層滑りによる大きな地殻変動が大津波を発生
  • について矛盾無く説明することに成功し, 海洋研究開発機構の深海掘削船ちきゅうによる熊野灘での掘削結果と合わせた統合的な議論を進めることができた.

    (2) 海底ケーブル津波計で記録された広帯域地震・津波記録シミュレーションの実現

    海洋研究開発機構や気象庁が現在設置を進めている, 海底ケーブル式津波・地震計記録で記録された, 2004年紀伊半島南東沖地震や2003年十勝沖地震記録を, 新規開発した「地震―津波同時シミュレーションコード」を用いて再現することに成功した. ES2を用いてシミュレーション結果から, 観測された水中音波の震幅が, 震源断層運動の時間(断層滑り速度)に依存して大きく変動することを明らかにし, 水中音波と津波震幅の比から, 震源断層運動の時間を見積もり, 加えて津波警報の高度化に向けた新たな手法の可能性を提唱した.

    (3) 地殻・マントルの短波長不均質構造の空間分布性状の把握

    周期1秒以下の短周期地震動を含む広帯域地震動シミュレーションの実現に不可欠な, 地殻・マントルの短波長(数百~キロメートル)不均質構造を, 平成21年度に引き続き防災科学技術研究所のHi-net高密度地震観測記録のデータ解析と, ES2による大規模3次元地震波伝播シミュレーションの両面から評価を進めた. 今年度の成果として, 地震波の散乱特性(P波のTransverse成分への染み出し)が震源距離150km以上で強く発生することに着目し, 下部地殻が上部マントルよりも2倍以上短波長不均質特性が強いことをES2シミュレーションから初めて明らかにした.

    達成度

    ※年度当初の研究計画を全て達成した場合を100%として数値で示してください. 複数の目標があった場合は, それぞれについて達成度を数値で示してください.

    • 1) 地震―津波シミュレーションコードの高度化 80%
    • 2) 広帯域地震動シミュレーションのための, 不均質地下構造モデルの整備 80%

    7. 計算機資源の利用状況

    計算機資源の利用状況

    ※計画的に計算機資源を利用できているか, 状況を記載してください.

    26000ノード時間積の割り当てに対し, 12784ノード時間積を使用した(1月5日現在). 年度末までに, 残りの計算資源を用いた研究を継続実施する.

    チューニングによる成果

    ※ベクトル化, 並列化チューニング等, 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載してください.

    • 地震動シミュレーションコード(Seism3D3)に関しては, ADBの利用とループアンローリングのチューニングにより11%の速度向上の成果を得た.
    • 新規開発した, 地震―津波同時シミュレーションコードに関しては, Seism3D3と異なるMPI通信パターンをとることから, その高速化のための集合通信の手順についてコード調整を継続実施中である.

    計画的に利用できていない場合, その理由

    CPU時間の使用ペースは年間を通じて昨年度と同程度であるが, 昨年度末よりES2の混雑が激しく, JOB待ち時間が2日~1週間を超えるようになった. このため, 以前のペースで大規模計算を進めることは難しく, 慢性的に計画の積み残しが出始めている. 次年度以降は年間計画を見直し, 申請する計算機資源を減らすなど再検討を行ないたい.