テラヘルツ発振超伝導素子に関する大規模シミュレーション
Large-scale simulation for a terahertz resonance superconductors device
飯塚 幹夫 (財団法人 高度情報科学技術研究機構)
Mikio Iizuka
本研究は, 電波と光の間の未利用周波数帯域であるテラヘルツ波応用の開拓を目指し, 連続波テラヘルツ波を周波数可変に発振する高温超伝導体素子及びその利用システムを大規模シミュレーションにより設計することを目的とする.
高出力かつ周波数可変な透過性を有する連続テラヘルツ波は, 例えば, 水分吸収帯域を避けて透過観察できる等の利点があり, 環境センシング, 医療, 物質科学などへの応用が急がれている. このような光源としては, 半導体や非線形光学材料を使ったものがあるが, 原理的には外部磁場を印加した高温超伝導体素子が最も有望である. しかし実用化へ向けた克服すべき課題としては, テラヘルツ波を素子内部から効率的に放射させ, それを対象物に自在に照射するための導波技術がある. 具体的には, テラヘルツ波の効率的な導波を行なうための反射, 減衰を生じない(a) 素子内部と外部空間との接続法, (b)導波路の構造, 形状, 媒質などを, ナノからミリスケールまでのテラへルツ波の挙動を3次元空間で扱う大規模マルチスケールシミュレーションで明らかにし, 最適設計条件を求めることが必須となる.
平成21年度までに, 高温超伝導体の特性を基に連続波テラヘルツ波を発振させる原理, その最適発振条件, さらに周波数制御法を地球シミュレータの計算力を生かした大規模シミュレーションより世界で始めて明らかにし, 学界・産業界に公開した. これを参考に, 筑波大, 米アルゴンヌ研究所などがその発振原理を確認した. さらに実用化へ向けた開発が始まり, 米, 欧, 中, 韓などとの競争となっている. また, 本研究成果に基づき日本の防衛特許として申請した「連続波テラヘルツ波の発振素子および発振法に関する特許」(特許第4558350号)を平成22年7月に獲得した.
このように本研究は, 大規模シミュレーションにより本素子の実用化を目指すものである.
本年度は, 高温超伝導素子の実用化を目指し, 性能を向上した地球シミュレータの計算能力を活かし, 3次元テラヘルツ波の発振, 伝播, 制御に関わる統合シミュレーションを目指す2年度目である.
高温超伝導素子から反射, 減衰を生じさせず効率的にテラヘルツ波を取り出す, 素子と導波路の接続法を, H21, 22, 23年度の3年間で設計する.
H21年度は, 高温超伝導素子内部から外部へのテラヘルツ波放射を正確に解析するための理論シミュレーションモデルの高度化を行ない, テラヘルツ波の反射, 減衰を生じない素子と外部空間との接続法の研究を行うための大規模モデル(2D版)の整備を実施した. 3D版はH22年度に整備する.
H22,23年度では, 2D版を主に用い, 素子の加工を考慮したリアルなモデルを対象にした素子内部と外部空間の接続法を検討する. 具体的は, 電極, 誘電体配置がどのようにテラヘルツ波の放射に影響するかを検討し, 効率的な放射を達成するための素子内外の接続条件を明らかにする.
ナノスケールの素子外部へ発振されたテラヘルツ波を, 如何に反射や減衰がなく効率的に照射対象物に導くかの研究を行う. H22年度は, 素子表面をテラヘルツ波源境界条件とし外部空間のみで3D解析により導波路設計を行なう. 扱う導波路スケールがナノから数mmのスケールに渡り, 計算が大規模となるため, 超伝導部分は境界条件として扱い, TERAPAHSER3D のMaxwell方程式ソルバー部を用いた解析を行う. H23年度は, 3次元の高温超伝導素子モデルを使い, 素子内部・外部相互作用効果を取り入れた素子近傍外部空間の3D解析により導波路設計を行なう計画である.
本研究項目は, 計画していたよりも計算資源を必要としたため, 本項目に計算資源を重点的に配分した. 3月までには予定の計算資源を使い切る予定である. また, 3Dの素子と外部空間との接続モデルの開発にも利用した.
上記(1)の研究へ計算資源を重点配分し, モデル整備程度の計算資源を配分した.
リアルな素子と外部空間の形状, 物性値のテラヘルツ放射への影響を検討し, 効率的な放射を行なう素子設計条件を得た. 例えば, (a)電極は素子内部のジョセフソンプラズマ励起を安定化させる, (b)上限非対称な電極は素子内励起を不安定化させる, (c)上下対称電極は外部への効率的なテラヘルツ波の放射を促進する, (d)誘電率の高い外部誘電体配置は, 放射効率を高める等である. 外部磁場を印加した高温超伝導体素子は光源として最も有望であるが, 現在実験的には理論的に推定された放射強度は得られていない. 本成果は, 実験での素子設計に適切な示唆を与える. H23年度は, よりリアルなモデルで最適な条件を検討する予定である. また, 3Dの素子と外部空間接続の理論シミュレーションモデルを整備した.
上記接続法の設計を進めるうちに計算資源不足が予想されたため, 本研究は次年度としてモデルの整備に留めた. 現在計画以上に(1)の研究が進んでおり, 高温超伝導体の高度化された3次元モデルを使った素子端面からのテラヘルツ放射を考慮した導波路の解析, それによる効果的な素子利用法の開発がH23年度は期待できるようになった.
※年度当初の研究計画を全て達成した場合を100%として数値で示してください. 複数の目標があった場合は, それぞれについて達成度を数値で示してください.
※計画的に計算機資源を利用できているか, 状況を記載してください.
計画では, 年度始めにリアルなモデルの整備・設定を行ない, 7月頃から計算を始めて2月頃までに計算資源を使いきる予定であった. 現在, H22年12月で9,830ノード時間/13,000ノード時間=76%を消費した. 後2ヶ月で全ての計算資源を使いきる予定である. このように, 計算機資源を計画通りに利用している.