平成21年度 地球シミュレータ利用報告会

乱流の世界最大規模直接計算とモデリングによる応用計算

発表資料 (2.4MB)

1. プロジェクト名

乱流の世界最大規模直接計算とモデリングによる応用計算

Direct Numerical Simulations of Fundamental Turbulent Flows with the World's Largest Number of Grid-points and Application to Modeling of Engineering Turbulent Flows

2. プロジェクト責任者名

金田 行雄 (名古屋大学大学院工学研究科)

Yukio Kaneda

3. プロジェクトの目的

地球環境問題に限らず, 自然・工学の多くの分野で現れる乱流は, 巨大な自由度を有する非線形なシステムである. このような巨大自由度の流動現象の予測技術向上のためには, 乱流の超多自由度系としての性質の物理・数理的な解明とその知見に基づく応用が必要不可欠である. 本プロジェクトでは, 地球シミュレータ(ES)を用いて, 乱流の規範的(カノニカル)な問題の大規模直接数値計算(DNS)を実施し, 高レイノルズ数乱流現象の解明を行うことを目的とする. また, 得られた高レイノルズ数乱流データベースおよび知見を共有して, 環境問題に寄与する流れを含む複雑流動現象の大規模LESや乱流現象に関連した応用問題の大規模DNSを行い, 現象解明とともに基礎的な知見の応用を目指す.

4. 今年度当初の計画

本プロジェクトでは, 高レイノルズ数(Re)乱流現象の解明を行うため, 地球シミュレータ(ES2)を用いて乱流の規範的(カノニカル)な問題の世界最大規模直接数値計算(DNS)を実施する. また, 得られた高Re乱流データベースおよび知見を共有・公開し, 環境問題に寄与する流れを含む複雑流動現象の大規模LESや乱流現象に関連した応用問題の大規模DNSを行い, 現象解明とともに基礎的知見の応用を目指す. 具体的には以下の研究を行う.

【基礎分野】

1) 非一様高レイノルズ数乱流の大規模直接数値計算とデータ解析

ES2用に最適化したコードを用いた平行平板間乱流の世界最高レイノルズ数DNSの実現の他, 非一様性乱流大規模DNSの実施により, 高レイノルズ数非一様性乱流のデータベースを作成する. またデータ解析により壁乱流における対数則とコルモゴロフの-5/3乗則を検証するほか, 非一様性乱流における乱流・非乱流のシャープな境界の統計法則を解明する.

2) 乱流境界層の大規模直接数値計算とその活用

昨年度までに実施した, 乱流境界層のDNS結果をまとめるほか, より大規模で信頼性の高い乱流境界層DNSデータベースを構築する. また, ES2用に開発したコードを用いた数値計算により, ビルを模擬した粗度の効果及び様々な汚染物質をターゲットとしてプラントル数依存性を調査し, 都市を想定した粗面モデリングに役立てる.

【応用分野】

3) 実都市・複雑地形を対象とした環境・防災問題に関する高解像度大規模LES計算

環境・防災問題での複合的な乱流場での信頼性が確保されているLESを用いて, 実際の都市あるいは複雑な地形を対象とした, 高解像度大規模計算を実施する. 研究項目としては, まず, 実際の建物群あるいは植生上の乱流境界層を解析し, 変動流入作成法を確立する. 続いて, メソ気象スケールと都市スケールの乱流場のハイブリッド解析から, 様々な特殊気象擾乱下での対象地域での強風・弱風の推定を行う. その推定値に基づき, 実都市あるいは複雑地形の地表被覆状態を再現した乱流場のLES解析を行うとともに, 高層建物林立地域での乱流場の経年変化を把握し, 当該建物への影響を明らかにする. さらに, 都市域の維持管理のための防災・環境に関わる乱流データベース作成し, 環境・防災問題の解決に向けたシミュレーション結果の実用問題への展開を実施する.

4) 界面活性剤水溶液を模擬した平行平板間およびオリフィス付複雑流路内乱流のDNSによる抵抗低減メカニズムの解明

大都市ビル群における地域冷暖房システムの省エネを目的として, 乱流摩擦抵抗の低減効果を有する界面活性剤水溶液(主に水)の利用が期待されている. しかし, 抵抗低減効果を引き起こすメカニズムについては十分に理解されていない. また, 抵抗低減流れは一般に熱伝達率の低下を伴うため, その詳細な熱伝達特性の評価や熱伝達促進を図ることが重要な課題である. そこで, 界面活性剤水溶液を模擬した流体において平行平板間乱流やオリフィスを有する複雑流路のDNSを行い, 抵抗低減メカニズムの解明と熱流動特性の評価を行い, 実規模のビル省エネ実験に貢献する. また, DNSデータベースを構築することで, 非ニュートン(粘弾性)流体を含めた熱流動現象の予測に用いられる乱流モデルの高度化に資する.

5. 研究計画に沿った利用状況

1) 非一様高レイノルズ数乱流の直接数値計算とデータ解析

ES2用に最適化した平行平板間乱流のコードを用いてより大規模なDNSを実施し, 高レイノルズ数非一様性乱流のデータベースを作成した. またデータ解析により壁乱流の対数領域においてコルモゴロフの-5/3乗則を検証するほか局所等方性についての定量的なデータ解析を実施した. また, 世界最大規模の乱流DNSデータを用いて乱流・非乱流のシャープな境界の条件付き統計解析を実施した. 加えて, 乱流場の巨大な自由度を縮約する手法を開発するため, 異なる非等方一様磁場の強さの大規模DNSデータを作成し, ウェーブレット解析を適用することで, 乱流場の間欠性等を定量化した.

2) 乱流境界層の大規模直接数値計算とその活用

昨年度までに実施した乱流境界層のDNS結果を用いて, 壁近傍のヘアピン渦の挙動解析を実施するとともに, より大規模で信頼性の高い乱流境界層DNSデータベースの構築・整備を実施した. また, 粗面の効果を考慮した乱流境界層のES用のDNSコードをES2用にチューニングする(ベクトル化率99.501%, 並列化率98.433%, 使用可能ノード数8)とともに, 最も基礎的な粗度である正弦波状壁面のパラメータのうち, 未評価である波長の影響を調査した.

3) 実都市・複雑地形を対象とした環境・防災問題に関する高解像度大規模LES計算

ES2で計算可能な実際の都市を対象とした, 高解像度大規模計算モデルを作成した. まずは, 建物粗度群上を発達する乱流境界層を解析し(ノード数:10, 計算時間:500ノード時間, メモリ:100GB, ディスクサイズ:20GB), 変動流入作成法を確立した. さらに, メソ気象スケールと都市スケールの乱流場のハイブリッド解析(ノード数:20, 計算時間:1000ノード時間, メモリ80GB, ディスクサイズ:40GB)により, 強風・弱風を推定した. 続いて, 実都市の地表被覆状態を再現した乱流場のLES解析を行い, 乱流場の評価(ノード数:15, 計算時間:1000ノード時間, メモリ:50GB, ディスクサイズ:50GB)を行い, 高層建物林立地域での乱流場の経年変化の把握と当該建物への影響評価(ノード数:20, 計算時間:1500ノード時間, メモリ:50GB, ディスクサイズ:50GB)を進めた. 環境・防災問題の解決のためにLES結果(ノード数:20, 計算時間:1000ノード時間, メモリ80GB, ディスクサイズ:50GB)を展開させた.

4) 界面活性剤水溶液を模擬した平行平板間およびオリフィス付複雑流路内乱流のDNSによる抵抗低減メカニズムの解明

前年度までに開発してきた粘弾性流体による平行平板間乱流の計算コードに, オリフィス流路を再現するための埋込境界法を導入し, 並列計算のためのチューニングを行った. その結果, プログラム性能はベクトル化率99.62%, 並列化率98.17%(使用ノード数4)となった. 従来からの問題として, 界面活性剤を模擬するための構成方程式は数値安定性が悪く(Hadamard-type不安定), レイノルズ数やワイゼンベルグ数などのパラメータを大きく変化させることができない. しかし, 高い空間分解能を採用しつつ, 小さいパラメータ変化率(反面, 計算時間は増大)に設定することでパラメータ・スタディが可能になる指針を得た. そのため, ES2による大規模並列計算を利用し, 大きなパラメータの変化を実現する.

6. 今年度得られた成果, および達成度

成果

1) 非一様高レイノルズ数乱流の直接数値計算とデータ解析

平行平板間乱流の大規模DNSの実施し, 高レイノルズ数非一様性乱流のデータベースを作成した. またそのデータ解析の結果, 壁乱流の対数領域においてコルモゴロフの-5/3乗則を確認したほか局所等方性が壁から離れレイノルズ数が高くなるにつれ満たされていく様子を定量的に示した. また, 世界最大規模の乱流DNSデータを用いて乱流・非乱流のシャープな境界の条件付き統計解析を実施し, 高レイノルズ数乱流中に存在する, せん断層の構造を明らかにした. 加えて, 大規模DNSによって得られた一様磁場下の電磁流体乱流データのウェーブレット解析により, 非等方な一様磁場が間欠性の増加に重要な役割を果たしていることを示した.

2) 乱流境界層の大規模直接数値計算とその活用

昨年度までに実施した乱流境界層のDNS結果を用いて, 壁近傍のヘアピン渦の挙動解析を実施し, ヘアピン渦の成長や合体過程のシナリオを提示した. また, 大気境界層に関連して, ビルを模擬した粗度の効果を含めた乱流境界層のDNSコードをES2用に最適化した(8ノードまで使用可能). さらに, 最も基礎的な粗度である正弦波状壁面のパラメータのうち, 未評価である波長の影響を調査した. その結果, 波長が短くなるにつれて, 壁面摩擦抵抗はほとんど変化しないが, 圧力抵抗が増加する結果, 壁面抵抗係数が増加することが分かり, 都市を想定した粗面モデリングに役立てた.

3) 実都市・複雑地形を対象とした環境・防災問題に関する高解像度大規模LES計算

基礎科学的研究における知見を有効に利用しつつ, より国民・社会生活と密接に関連する都市環境を適切にするための大気を対象にした信頼性の高い大規模シミュレーション(LES)を行った. 都市生活での大気環境問題, 強風災害問題を解決する上では, 都市地表近傍での生活空間スケールでの大気現象の把握を進めることが重要である. そのために, メソ気象スケールから都市スケール, さらには建物スケールへのダウンスケールに対して, これまで異なるメッシュ系での融合解析が行われているが, そのスケール間でのエネルギー移行が適切に表現されておらず, 必ずしも高い精度が確保されていない. 本プロジェクトでは, より小さいスケールで再現される乱流場のモデル方程式を導出し, 小スケール現象での高精度の解析を実施した. メソ気象モデル(WRF)の計算結果から都市スケールの乱流場を高精度で再現し, また都市における建物粗度上を発達する乱流境界層のLES-to-LESのハイブリッド法による解析から, 乱流エネルギーが高波数へ連続的に変化するスペクトル特性を示した. これら都市境界層の計算結果を都市中心部の高層建物が林立する特定地区に流入させ, 大気環境問題・強風防災の観点から乱流計算結果をまとめた. 特に, 都市形態の経年変化から, 既存の特定建物に作用する風外力が大きく影響され, 建物居住者に対して揺れによる日常的な生活環境の性能低下の可能性を示した. さらに建物の形状がデザイン的に近年自由度を増し, 建物の形態で曲面が構成させるといった傾向に配慮し, 曲面を有する建築構造物の代表的形状として塔状の円柱構造物を対象として, 実現象を想定したレイノルズ数(超臨界域)でのLES計算を実施し, 空気力の急減現象(ドラッグクライシス)の高精度シミュレーションに成功した.

4) 界面活性剤水溶液を模擬した平行平板間およびオリフィス付複雑流路内乱流のDNSによる抵抗低減メカニズムの解明

界面活性剤を添加した剥離乱流のDNSにおいては, 前年度までに開発してきた界面活性剤溶液(粘弾性流体)による平行平板間乱流の計算コードに, オリフィス流路を再現するための埋込境界法を導入し, 剥離渦の観察や抵抗低減効果の見積もりに成功した. 水と比較した場合, 界面活性剤溶液は剥離による渦の発達が大幅に抑えられる様子が見られた. それにより, 抵抗が約20%減少することがわかった. さらに, コードをES2に対応させ, より広範囲のパラメータ域における計算を可能とする指針を得た. 本解析は, 界面活性剤を模擬した複雑流路内乱流のDNSとしては世界初の試みである. 今年度までに構築されたDNSデータベースを利用し, 抵抗低減を伴う粘弾性流体に適用し得る乱流モデルを作成した. 平行平板乱流の平均流速分布や抵抗低減率の予測においては, 限られたレイノルズ数の範囲でDNSと良い一致を示すが, その他の乱流統計量や高レイノルズ数域における精度はまだ不十分である. 乱流モデルの高度化には, 今後, さらに大規模計算による高レイノルズ数抵抗低減流れや上記の複雑流路における流れのDNSデータベースが必要である.

達成度

※年度当初の研究計画を全て達成した場合を100%として数値で示してください. 複数の目標があった場合は, それぞれについて達成度を数値で示してください.

  • 1) 非一様高レイノルズ数乱流の直接数値計算とデータ解析 90%
  • 2) 乱流境界層の大規模直接数値計算とその活用 90&
  • 3) 実都市・複雑地形を対象とした環境・防災問題に関する高解像度大規模LES計算 70%
  • 4) 界面活性剤水溶液を模擬した平行平板間およびオリフィス付複雑流路内乱流のDNSによる抵抗低減メカニズムの解明 60%

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

※計画的に計算機資源を利用できているか, 状況を記載してください.

1) 非一様高レイノルズ数乱流の直接数値計算とデータ解析

11月末までに平行平板間乱流の約6000ノード時間(64ノード使用)のプロダクトランを実施し, 上述の結果を得た. また, 8月初旬までに電磁流体乱流の約1100ノード時間(16ノード使用)のプロダクトランを実施し, 上述の結果を得た.

2) 乱流境界層の大規模直接数値計算とその活用

10月末までに粗度の効果を含めた乱流境界層の約3700ノード時間(8ノード使用)のプロダクトランを実施し, 上述の結果を得た.

3) 実都市・複雑地形を対象とした環境・防災問題に関する高解像度大規模LES計算

計算機資源は, 流入変動風作成のための建物粗度群上を発達する乱流境界層の解析およびメソ気象スケールと都市スケールの乱流場のハイブリッド解析にほとんど使用(平成22年12月時点, 1000ノード時間弱). その他, 数10ノード時間を実都市の地表被覆状態を再現した乱流場のLES解析と建物形状を対象にした剥離を伴う複雑乱流場の解析に使用した.

4) 界面活性剤水溶液を模擬した平行平板間およびオリフィス付複雑流路内乱流のDNSによる抵抗低減メカニズムの解明

当初はオリフィス付複雑流路内乱流について, パラメータを変えて6ケースの解析を予定していたが, 1ケースのみの計算が行えている状況(2010年12月末現在)である. 今年度は, 複雑流路を再現するための埋込境界法を前年度までのコードに導入し, 並列化チューニングを行ったが, パラメータを変更しての解析に苦慮しており(後述), 他5ケースについては予備計算のみを行った(約23ノード時間使用).

チューニングによる成果

※ベクトル化, 並列化チューニング等, 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載してください.

1) 非一様高レイノルズ数乱流の直接数値計算とデータ解析

平行平板間乱流の開発済みのコード(ベクトル化率99.634 %, 並列化率99.9764 %, 使用可能な最大128ノード)を用いてより大規模な計算を実施した.

2) 乱流境界層の大規模直接数値計算とその活用

昨年度の報告書時の結果(ベクトル化率99.248%, 並列化率97.433%, 使用可能ノード数4)から, ベクトル化, 並列化のチューニングを行い, ベクトル化率99.501%, 並列化率98.433%, 使用可能ノード数8まで高効率化した.

3) 実都市・複雑地形を対象とした環境・防災問題に関する高解像度大規模LES計算

基本的に境界層タイプの流れの解析であったため, 配列寸法の長い流れ方向に対してベクトル化を行い, 乱流構造の特性が似ていて, 計算負荷がほぼ同様となるスパン方向に対して並列化チューニングを行った. その結果, 比較的効率的にチューニング成果が得られた. また, 塔状構造物(柱状体)まわりの乱流場の解析については, 高さ方向に対して並列化を実施した.

4) 界面活性剤水溶液を模擬した平行平板間およびオリフィス付複雑流路内乱流のDNSによる抵抗低減メカニズムの解明

オリフィス付複雑流路内乱流の解析について, プログラム性能はベクトル化率99.62%, 並列化率98.17%(使用ノード数4)となった.

計画的に利用できていない場合, その理由

3) 実都市・複雑地形を対象とした環境・防災問題に関する高解像度大規模LES計算

実都市の形態を再現した解析においては, 都市部の高層建物の散在のために乱流構造が複雑になり, 計算対象モデルでの計算負荷が一様でなくなっているため, 並列化効率の確保が困難となっている.

4) 界面活性剤水溶液を模擬した平行平板間およびオリフィス付複雑流路内乱流のDNSによる抵抗低減メカニズムの解明

元来, 界面活性剤を模擬するために解く構成方程式は, 数値安定性が悪いため(Hadamard-type不安定), 突如として流れが局所的に不安定化し, 数値が発散し易い. 比較的低いワイゼンベルグ数(つまり, 通常の水に近い流体)では, 首尾よく計算が行われるが, 顕著な抵抗低減効果をもたらすような高ワイゼンベルグ数流体では数値発散が起こりやすく, 流れが完全発達するまでに至らない. そのため, 小規模な計算機で試行計算を数多く繰り返す必要があり, ESによる本計算を多く行えていない. しかし, 今年度の成果としては, 数値発散を起こし難いパラメータ変化率の指針を得たことであり, 今後, パラメータ・スタディが進むものと見越している.