平成22年度 地球シミュレータ利用報告会

フラグメント分子軌道法を用いた薬剤耐性メカニズムの解析

発表資料 (1.1MB)

1. プロジェクト名

フラグメント分子軌道法を用いた薬剤耐性メカニズムの解析

Theoretical study of drug resistance mechanism based on the fragment molecular orbital method

2. プロジェクト責任者名

田中 成典 (神戸大学大学院システム情報学研究科)

Shigenori Tanaka

3. プロジェクトの目的

並列化計算に適した電子状態計算手法であるフラグメント分子軌道(FMO)法を用い, 地球シミュレータ(ES)上で従来にない大規模高速計算を実行する. 計算対象として, インフルエンザウイルスの表面タンパク質等を選び, 得られた結果からアミノ酸残基などのフラグメント間の相互作用エネルギーを算出し, それを基に, 抗体や薬剤に対する抵抗性・耐性発現メカニズムの解明や変異予測, 医薬品設計等を行う方法を確立する. また, 計算の高精度化を目指して, 電子相関の記述を従来のMP2レベルからさらに高次のMP3, MP4レベル等へ引き上げる試みも行う.

4. 今年度当初の計画

  • 1) インフルエンザウイルスタンパク質のリガンド結合反応
  • 2) インフルエンザウイルスタンパク質の薬剤耐性
  • 3) βアミロイドタンパク質の凝集メカニズム

3つの研究テーマを予定した. 上述した高次の電子相関効果だけでなく, 三体項の効果(FMO3), 構造変化の影響なども考慮し, これらのタンパク質に関わる疾患の発症・治療や耐性発現のメカニズムの解明等にとって有用な情報を分子レベルから提供することを目指した.

5. 研究計画に沿った利用状況

上記4.今年度当初の計画の1) および2) に関わる, インフルエンザウイルスHA(ヘマグルチニン)タンパク質(抗原抗体複合系)ならびにNA(ノイラミニダーゼ)タンパク質(タミフルとの結合系)のFMO計算を主に行った. HAタンパク質については, 単量体抗原だけでなく, より現実に近い三量体抗原に対する計算も実行した. 主にESの64ノード, 場合によっては128ノードを用い, MPI/OpenMPのハイブリッド並列化を試み, MP2レベルだけでなく, 高次のMP3およびMP4レベルのFMO計算も行った.

6. 今年度得られた成果, および達成度

成果

128ノードを用い, 基底関数として6-31Gを用いた場合, HA単量体のFMO-MP2計算が0.8時間, FMO-MP3計算が1.3時間で終了した. HA三量体の場合には, 対応するFMO-MP2計算が4.3時間, FMO-MP3計算が5.8時間で完了した. これらの結果は, 36000原子以上の巨大タンパク質系の高精度電子相関計算として世界最大規模のものである. NA-タミフル結合系に対しては, FMO-MP3計算が1.0時間で終了した. また, FMO-MP4(SDQ)/6-31G計算も64ノード上で実行し, HA単量体の計算が4.7時間, NA-タミフル系の計算が2.9時間で完了した. 得られたFMO計算の結果からアミノ酸残基間, あるいはアミノ酸残基と薬剤間の相互作用解析を行い, HAが抗体圧を逃れるための変異の予測や, NAが薬剤耐性を獲得するメカニズムの解明等を行った.

達成度

※年度当初の研究計画を全て達成した場合を100%として数値で示してください. 複数の目標があった場合は, それぞれについて達成度を数値で示してください.

上記4. 今年度当初の計画の1) および2) の課題に関しては, 当初計画に対して, ほぼ100%の達成度と言える. 高次電子相関効果の取り入れが当初の予定よりも進展したため, MP3レベル以上の大規模計算も次々と実行した. 一方, 課題3) に対しては, その分ESを使った計算はほとんど実行せず, 三体項(FMO3)の効果や構造変化の影響などの検討は手つかずであった.

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

※計画的に計算機資源を利用できているか, 状況を記載してください.

2011年1月5日現在, 11810ノード時間を使用(利用枠13000ノード時間の約90.8%). 残りノード時間は, 3月に計画している大規模計算に使用する予定.

チューニングによる成果

※ベクトル化, 並列化チューニング等, 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載してください.

計算コストの高い部分でDGEMM等のBLAS (MathKeisan)ライブラリ・ルーチンを利用することで演算性能の向上を図った. 64ノードを使用したFMO-MP4(SDQ)/6-31G計算では, HA単量体で9.12%, NAで8.13%の効率を達成した.