平成22年度 地球シミュレータ利用報告会

渦解像可能な領域大気モデルを用いた深い対流のシミュレーションとその検証

発表資料 (2.8MB)

1. プロジェクト名

渦解像可能な領域大気モデルを用いた深い対流のシミュレーションとその検証

Simulation and Verification of Tropical Deep Convective Clouds using Eddy-permitting Regional Atmospheric Models

2. プロジェクト責任者名

中村 晃三 (海洋研究開発機構 地球環境変動領域 次世代モデル研究プログラム 雲・降水・放射過程研究チーム)

Kozo Nakamura

3. プロジェクトの目的

現在の多くのGCMでは, 熱帯域における深い対流活動の空間構造や日変化の位相の再現性の低さが指摘されている. 本課題では熱帯域での対流活動の中でも, 個々の対流の振る舞いや海陸風・山谷風などの局地循環によって駆動される対流活動などの基礎的な現象の把握及び解明を目指し, 渦解像可能な領域大気モデルを用いて再現実験・感度実験・観測データとの比較・検証を行う. また, 領域モデルによるデータ同化手法を用いた解析研究に取り組み, 領域境界値の精度向上を目指す. 更に, 深い対流の乱流運動を含む詳細な振舞いを陽に計算する大渦解像シミュレーション(LES)データを活用することで領域気候モデルの高精度化を行う. そして, 熱帯域の深い対流を主としたLESによる詳細なデータを基に, 領域気候モデルの対流活動に関わる再現性向上を図る.

4. 今年度当初の計画

上半期では, LESに対応した領域版NICAMの開発を行うと同時に, 既存のモデルやNICAMにおいても可能な計算負荷の小さな高解像度実験(例えば, 小惑星実験等)を進め, 数値安定性や雲物理過程に関する基礎的なデータの取得を進め, また, 既存の領域気候モデルやストレッチ版NICAMを用いた熱帯海洋大陸周辺域を対象とした特定年の大規模擾乱や熱帯低気圧などの擾乱が顕著でない大規模擾乱の影響の少ない期間を対象として1ヶ月程度の期間を対象とした再現実験を行い, 再現性の検証などの基礎的なデータを収集する.
 そして, 下半期では開発した領域版NICAMによるLESによる熱帯洋上等を想定した深い対流雲の再現及び, 海洋大陸周辺域で起こる典型的な日変化を伴う対流活動の再現実験を行う. 更に, 観測との比較・検証では, LETKFをNICAMベースで導入し, 1~2週間程度の期間で解析を試みる.

5. 研究計画に沿った利用状況度

本プロジェクトでは, 渦解像可能な領域大気モデルの利用とその高精度化をめざしている. 新規の応募ということで, 「研究計画」には観測と比較した実験やその検証などを含め多くの課題を掲げたが, 実際にモデル開発に取り掛かると, 様々な問題点があり, 今年度, 実際に実施した課題は以下のようにまとめられる.

(1) LESに対応した領域版NICAMの開発

現在までのところ, この課題ではS系によるチューニングと実験のみ.

(2) 計算負荷の小さな高解像度実験による研究

格子平均乱流モデル導入に関わる試験計算を進めた. 更に, モデル開発と平行して, 特に, 熱帯域における雲の再現性向上に関する数値パラメータの適切化に関する試験も進めた. これらの課題推進のため2010年12月現在までに12300ノード積を消化している.

(3) 雲微物理モデルの改良

現在までのところ, この課題ではS系によるチューニングと実験のみ.

6. 今年度得られた成果, および達成度

成果

(1) LESに対応した領域版NICAMの開発

領域版NICAMを開発する際に, 全球版NICAMの配列の動的割当・通信・halo領域の扱い方などのフレームワークを変更することになる.

 フレームワークの変更が複雑であり多岐にわたるため, 全球NICAMを変更する前に, 全球NICAMと同一のフレームワークを用いた簡易なモデルである全球浅水方程式系モデル(全球SWM)から特定領域のみを計算するモデル(領域SWM)を開発した. Jacob et al. (1993)で提案された全球浅水方程式系モデルのテストケースの計算を行った結果, 領域SWMの結果は全球SWMと同じになり, 領域版SWMが正しく機能していることを確認した.

(2) 計算負荷の小さな高解像度実験による研究

研究計画に則り, LESに対応したNICAMのモデル改訂を進めた. その一環として平板格子導入に関する技術的検討と格子平均乱流モデルの導入を進めた. 更に研究計画を効率的に進めるため, これまでに開発されたNICAMモデルの枠組みを活用した小惑星環境・局所集中格子による水平解像度O(1km)からO(100m)に至る高解像度試験計算を予め実施した. その対象事例として, 熱帯域で発生する典型的な積乱雲システムを選定した. これは南半球夏季におけるオーストラリア・ダーウィン沖で実施された集中観測事例(May et al. 2008; Fridlind 2010)であり, モデル結果の評価を行う上で興味深いデータを提供し得る. 以上の進行状況より今年度の達成度は100%と評価している.

(3) 雲微物理モデルの改良

ALtixで稼働中のビン法を組み込んだCReSSをES2へ移植し, テスト計算を行った. ビン法の結果を使ってバルク法の改良を行うため, 雲が存在する各格子での様々なデータを各time-stepごとに保存するプログラムとなっており, write文を使っていたためか, 非常に時間のかかる計算になることがわかり, まとめて書きこむようにプログラムを変更している.

達成度

年度当初の研究計画を全て達成した場合を100%として数値で示してください.複数の目標があった場合は,それぞれについて達成度を数値で示してください.

  • (1) LESに対応した領域版NICAMの開発 70%
  • (2) 計算負荷の小さな高解像度実験による研究 100%
  • (3) 雲微物理モデルの改良 50%

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

※計画的に計算機資源を利用できているか, 状況を記載してください.

課題ごとに, 既に計算機資源を利用し本格的な計算を行い始めているものと, 未だチューニングの段階で, 本格的な計算機資源の利用は始まっていないものがある. 全体としては, 承認された計算機資源をほぼ使い切るペースで利用している.

チューニングによる成果

※ベクトル化, 並列化チューニング等, 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載してください.

領域版NICAMでは, 全球版NICAMと共通のフレームワークを用いているため, 全球版NICAMにおけるベクトル化・並列化チューニング等の高速化を新たな作業無しで, そのまま役立てることができた.
 雲微物理モデルの改良では, ビン法の結果を大量に保存し, それを利用してバルク法の改良を行う計画である. データの大量保存において, これまでのプログラムでは各格子で直接データを書きだしていたが, その方法では時間が非常に長くかかることが分かった. そのため, データを変数に保存しておき, まとめて書きだすことで時間の節約を図ることにした. また, ビンと空間のdo文の順序を交換することによってif文での判定の回数を減らすことで計算速度を上げることができた.