平成23年度 地球シミュレータ利用報告会

宇宙・地球表層・地球内部の相関モデリング

発表資料 (980KB)

1. プロジェクト名

宇宙・地球表層・地球内部の相関モデリング

Space and Earth System Modeling

2. プロジェクト責任者名

草野 完也 (海洋研究開発機構 宇宙・地球表層・地球内部の相関モデリングラボユニット)

Kanya Kusano

3. プロジェクトの目的

地球システムは内部(地殻、マントル、コア)、表層(大気海洋)および外部(宇宙)が互いに影響を及ぼしながら変動進化する相関システムである。本研究は、JAMSTECシステム地球ラボ「宇宙・地球表層・地球内部の相関モデリングラボユニット」研究の一環として、複合相関地球システムの変動をとらえる先進的なシミュレーションの開発を目指すものである。本プロジェクトの第1の目的は、太陽黒点活動と太陽フレア爆発の機構解明とその予測を行うと共に、地球環境へのそれらの影響を解明し長期的な環境変動の理解に役立てるための先進的なシミュレーション研究を推進することにある。このため、分子動力学モデル、超水滴雲微物理モデル、雲解像モデル、大気海洋結合全球モデル、電磁流体力学モデルを利用したシミュレーション研究を行うと共に、それらの成果を総合することによりマルチスケールシステムとして宇宙地球環境のダイナミクスを理解し長期的な環境変動の理解に貢献するシミュレーション研究を行う。第2の目的は、地球深部に取り込まれる水の影響を取り込んだマントル対流シミュレーションや先進的な地球ダイナモシミュレーション研究と協力し、宇宙・地球表層・地球内部を包括して理解する枠組みを構築すると共に、これらの研究を総合して全球凍結など地球史における大規模環境変動のメカニズムを明らかにすることである。

4. 今年度当初の計画

H23年度は以下の3つのモデル開発とそれらを用いたシミュレーション研究をそれぞれ実施することを当初の研究計画とした。

宇宙地球環境結合モデル

地球大気の様々なパラメタにおける雲核形成と宇宙線による電離のそれに対する影響を分子動力学とモンテカルロシミュレーションで評価する。さらに、雲核形成実験との比較を通して、モデル計算の検証を実現する。さらに、雲核形成の効果を含んだ積雲シミュレーションを超水滴法を用いて行い、雲核量の変化に伴う雲形成過程の敏感さを明らかにする。

太陽・太陽圏活動モデル

太陽表面磁場の観測データに基づいて太陽フレア爆発を再現すると共にその予測能力を高めるための電磁流体力学シミュレーションを行う。また、太陽表面磁場の長期変動のメカニズムを探るためのダイナモモデルの開発を行うと共に、太陽表面磁場から太陽圏全体の電磁流体環境を再現し地球における宇宙線量の変動をメカニズム探るシミュレーションを実現する。

多階層地球環境モデル

大気海洋結合大循環モデルCFESを使って、エアロゾル量の変化による輻射・雲寿命・降水などの変化を取り扱えるようモデルの改良を行う。これを用いて、宇宙地球環境結合モデルで調べられた雲核生成率の変化の気候に対する影響をシステマティックなシミュレーションによって明らかにする。

5. 研究計画に沿った利用状況

昨年度開発したCReSS超水滴モデルを研究計画に沿って改良し、超水滴の数を時間変動させることができる機能を付加した。これによりエアロゾル形成の雲影響を調べる長時間計算が可能になった。また、研究計画に従い太陽フレア爆発の再現シミュレーションを様々な条件で系統的に実施し、フレア発生条件を明確化することができた。さらに、大気海洋結合大循環モデルCFESを改良し、雲水滴径の効果を付加することにより、雲核数の気候影響を評価するシミュレーションのを研究計画に沿って実施した。

6. 今年度得られた成果、 および達成度

成果

宇宙地球環境結合モデル

本年度改良したCReSS超水滴モデルを利用して雲核が定常的に生成されるシステムにおける雲降水ダイナミクスの雲核生成率依存性を系統的に調査した。その結果、雲降水システムの平衡状態に双安定解が存在する傾向を捉えることに成功した。雲降水システムの双安定状態の存在についてはこれまで理論的考察に基づく論争が進められてきたが、精密な数値モデルによる検証はなされていなかった。最終結論を得るにはさらに計算と解析を続ける必要があるが、本研究の結果は気候システムがエアロゾル生成率に極めて敏感なパラメタ領域があることを示唆しており、宇宙線による大気電離誘起核生成の影響に関係して注目すべき成果である。

太陽・太陽圏活動モデル

人工衛星へのダメージや極域における成層圏オゾン層の破壊の原因にもなる大規模太陽フレアの発生機構はこれまで謎であった。本年度は太陽表面磁場の様々な磁場構造とフレア発生の関係を系統的にシミュレーションで調査することにより、特定の角度を持つ磁束の出現がフレア爆発のトリガとなることを発見した。またその結果をひので衛星の観測データと比較したところ、観測された全ての大規模フレアでシミュレーションで見出された磁場構造が出現していることを見出した。これはフレア発生機構の解明につながると共にフレア発生予測の実現可能性を強く意味するものであり、天文学と宇宙天気予報の発展に大きな貢献をする成果である。

多階層地球環境モデル

大気海洋結合大循環モデルCFESを改良し、これを用いて雲核密度の変化に伴う雲の放射影響を調べた。その結果、宇宙線の太陽変調に伴う雲の光学性質の変化は観測された気候変動を説明できるほど大きくないことを見出した。この結果は宇宙線の気候影響は光学性質の変化よりも雲の寿命と面積の変化を通して現れるべきであることを示唆している。

達成度

(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100%として数値で示してください。複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で示してください。)

95%

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

月別利用累積時間ノード積(下図)の通り計画に沿った利用を行っている。今後、超水滴雲モデルの長時間計算などを予定していることから年度末には配分資源(26,000ノード時間積)を使い切る予定である。なお、昨年度(H22)は配分資源の99%を利用した。

チューニングによる成果

(ベクトル化、並列化チューニング等、計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載してください。)

超水滴法を雲解像モデルCReSSに導入した先進的な雲モデルは地球シミュレータへの最適化が行われており、128ノードでベクトル化率 99.54%, 並列化率99.977%を達成している。

計画的に利用できていない場合、その理由

該当なし。

8. 新聞、雑誌での掲載記事

NHK コズミックフロント 「迫りくる太陽の異変」(2011年6月7日放送)
 プロジェクトリーダーである草野が出演し、太陽活動の気候影響について地球シミュレータによるシミュレーションの結果を用いて解説した。なお、本番組は圧倒的な映像と、太陽の磁力が地球の気候に影響を及ぼしている可能性という新しい視点を番組にしたことが評価され、優れた科学放送作品に贈られる科学放送高柳記念奨励賞を受賞した。