古環境研究のための多階層数値実験
Numerical Experiments with Multi-Models for Paleo-environmental Problems
阿部 彩子 (東京大学大気海洋研究所 気候システム研究系)
Ayako Abe
気候モデル(大気海洋結合大循環モデル:MIROC3/4m、MIROC5)を用いて古気候数値実験を行い、現在とは異なった条件下でのモデルの性能と信頼性を評価する。この気候モ デルは、20世紀再現実験や将来予測シミュレーション結果が世界気候研究計画(WCRP)結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP3/5)に提出され、気候変動に関する政府間パネル (IPCC)による第4 次・第5 次評価報告書に貢献している。また、過去の気候変動メカニズムの解明を通して、気候システムの振る舞いを過去・現在・未来について統一的に理解 する。地球史上の温暖期、氷期・間氷期サイクル、過去千年の気候、の3つの時期について研究を進める。
まず、地球史上の過去の温暖期に注目して気候の再現実験を行い、その気候形成メカニズムの理解と将来の温暖化に関連した知見を得る。特に、新モデルMIROC5 を用いて、完 新世中期(約6千年前)と最終間氷期(約13万年前)について、国際プロジェクトである第3 次古気候モデリング相互比較プロジェクト(PMIP3)で設定された共通の境界条件を与 えて積分を行う。また同様に、鮮新世中期(約300万年前)についても感度実験を行う。氷期サイクルについては、MIROC5を用いて最終氷期最盛期(約2万1千年前)の再現実験 とその関連実験を行い、その他の時期についても、高解像度の大気モデルを用いて、氷期大西洋への淡水流入の気候影響などを詳細に調べる実験を行う。また、寒冷期と温暖期の 気候感度の違いなどを検証するため、CO2の4倍増実験も行う。さらに、MIROC4mを用いて過去千年の気候について、境界条件や初期条件に対する感度実験も含めた複数の実験を 行い、その影響を評価する。
全13,000 ノード時間中、5,640ノード時間利用 (2012年1月5日現在)
新モデルMIROC5 を使用して最終氷期再現実験を行った。積分時間の関係でまだ気候が平衡状態には達していないため、最終的な目標の一つである気候感度パラメータの推定な
どはまだ行われておらず、同様の理由でMIROC4m の結果との比較も詳細には行われていない。現在までのシミュレーション結果では、定性的には概ね先行研究に似た傾向が見ら
れるが、全球気温の下がり具合はMIROC4m の平衡状態に比べて小さい。一方で、大西洋子午面循環は強くなっており、古気候指標が示している結果とは異なり、現在診断解析中
である。また、温室効果ガスだけを氷期状態にした実験も実施した。
MIROC5 を用いて完新世中期と最終間氷期の再現実験を行った。鮮新世中期については、MIROC4m を用いて様々な境界条件に関する感度実験を行った。気温変化が極域で増幅される傾向と
それによって赤道と極域の温度勾配の減少が見られ、それらは氷床と植生の変化を通したアルベドの違いによることが要因の切り分け実験により定量的に示された。高緯度での帯状平均気温は産業革命以前よりも約10℃高くなり、古気候間接指標データとの整合性が一般的には見られたものの、北部北大西洋などでは間接指標データとの間に大きな相違が見られた。
過去千年の気候については、境界条件の異なる3 つの実験を行った。古気候間接指標データとの比較が行われ、2 種類の火山フォーシングではそれぞれの結果と間接指標との整合性も大きく
異なることが見られた。また、グリーンランド周辺の気温変動と太陽活動の間に弱い関係が見られた。しかし、日々の時間スケールでの北大西洋振動やブロッキングパターンの発生頻度などと
太陽活動の関係については統計的に有意な関係は見つからなかった。これらの実験には、太陽活動、火山噴火、温室効果ガス、軌道要素などの効果が入っており、現在行われている太陽活動の
効果のみを入れた実験などによってより明確な結論が得られることが期待される。
(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100%として数値で示してください。複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で示してください。)
43%
実験数としては、多くの実験が行われ、2012年1月初旬現在、グループの全資源13,000ノード時間中、5,640ノード時間を利用した。しかし、下記に詳述するが、一番多くの資源 を消費する予定の一つであった最終氷期最盛期などMIROC5を利用した古気候実験で、その境界条件の作成に時間が予想以上にかかり、現在のところ、当初予定より大幅に少ない消費となって いる。高解像度モデルを用いた氷期サイクル中の気候再現実験についても最近になってほぼ準備が整ったため計算を開始するところである。このため、残り年度内に多くの資源が活用される ことが期待される。
(ベクトル化、並列化チューニング等、計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載してください。)
使用した気候モデルはすでに地球シミュレータ用にチューニングされた実績のあるモデルであるため、本プロジェクトとして独自のチューニング等は行っていない。
節電等の理由による東日本大震災の影響も少なからずあるが、それ以外にも新モデルMIROC5を用いて、現在とは大幅に異なる境界条件下での古気候実験経験がなかったため、 その境界条件作成等に予想以上に時間がかかった。特に、古気候実験特有の海水準の変更のために(緯度経度ではない不規則なメッシュ構造の)海洋地形や初期条件の準備、陸面 では河川網の調節など細部において多くの時間がとられた。これにともない、全球の水収支の非保存など技術的な問題が発生しこの対応に時間を費やされた。しかし、これらの問 題は全て解決し、今後このモデルを用いた古気候実験において非常に有効なノウハウが得られたことも事実である。また高解像度モデルについても、初年度故の理由により、実験 整備等に時間がかかったこともその要因であると分析される。継続年度ではこれらに費やされた時間は大幅に縮減すると考えられる。
該当なし。