カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション
Large-scale Simulation on the Properties of Carbon-nanotube
手島 正吾 (高度情報科学技術研究機構)
Syogo Tejima
ナノテクの基幹材料であるカーボンナノチューブ(CNT)等のナノ炭素類を対象として、熱伝導、機械の特性、新奇な炭素物質であるマッカイ構造体の生成パス、次世代CPUのCNT配線における電磁作用の影響など、実験では得がたい物理現象、新物質創成法、新機能発現法を大規模な第一原理・強結合近似分子動力学シミュレーションによって明らかにし、その成果を学界、先端産業へ提供するとともに、地球シミュレータの性能を実証する。加えて、ナノ炭素類の新奇特性を人類的課題である温暖化対策としての環境技術・新エネルギー開発に役立てる大規模シミュレーション研究を実施する。
1) 拡張した強結合近似分子動力学法による、高精度化したグラフェン電子伝導計算
2) 第一原理計算法による、マッカイ結晶の太陽電池応用を見極めるための、格子サイズを変えた場合の電子状態の計算
3) 時間依存第一原理計算法による、CNTをナノ試験管として利用した場合のアセチレン分子の光励起ダイナミックスの計算
4) 有限温度における電子状態と熱力学ポテンシャルの計算を可能にするLCAO法の開発
テーマ3) が予想以上の計算リソースを必要としたので、他のテーマより資源を優先した。
テーマ4) のコード開発・チューニングが計画より時間を要したが、今後、資源を利用予定。
現在の利用ペースでは残りの計算資源はすべて消費する。
1) 昨年度は、グラフェンの電気伝導を調べるために、グラフェンの側面の影響を無視できるように電極を両端中央に小さく付けたシミュレーションを実施した。本年度は、グラフェンの側面がジグザグ、アームチェによる影響を調べる為に電極を両端すべてに付けた状態で、グラフェンの電気伝導を調べた。その場合、 微視的に各原子位置での電子の流れは、グラフェンの内部でなく端を流れやすいことが明らかになった。また、ジグザグ、アームチェ端のバンド構造の違いによる電子伝導への影響は小さく、CNT同様、電極との接合ではπ結合が電子伝導を良好にする効果があった。よって、グラフェンの電気伝導では、電子が端を流れることから、グラフェン幅を必要としない良好な電子伝導が期待できる。
2) 昨年度までにマッカイ結晶はサイズによりバンドギャップが異なることから、積層マッカイ結晶からなる多接合型太陽電池応用を提案した。本年度は安定状態の近傍で外力により結晶を歪ませて格子定数を変化させた場合、バンドギャップに及ぼす効果を調べた。その結果、格子定数を小さくすれば電子軌道が重なりバンドギャップは小さくなると予想されたが、あるサイズのマッカイ結晶では逆に大きくなる結果を得た。これは、外力によりバンドギャップを制御することを意味しており、そのメカニズムを今後明らかにする。
3) アセチレン分子は燃料などに含まれる分子である。CNTをナノ試験管として内部にアセチレン分子ダイマーをいれてレーザーパルスを照射した場合と、直接照射した場合との反応を比較した。直接照射の場合、ダイナミクスに分子間干渉が生じた。CNT内部照射の場合、CNTによる光電場変調により直接照射の場合とは反対方向に水素原子は運動し、CNTの大きな伸縮運動に伴って2個のアセチレン分子は協調的な回転運動が始まる。この反応は重合反応に有利に働くと期待できる。
4) 有限温度における物理量を予測できる形へLCAO法を拡張した第一原理計算コードを作成した。その結果、スレーター型軌道を用い、少ない数の基底関数で高い精度の第一原理計算が可能にし、有限温度下にある分子のさまざまな状態において、スレーター型軌道の軌道指数を自動的に最適化することができた。その応用として、有限温度におけるフッ素分子の結合解離ポテンシャルの問題へ適用した。現在、さらに拡張し電子相関を考慮した第一原理計算コードへ展開中である。
(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100%として数値で示してください。複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で示してください。)
1) グラフェンの高精度化した量子伝導計算 : 70%
2) マッカイ結晶の電子状態の計算 : 80%
3) CNTをナノ試験管として利用した場合の分子光励起ダイナミックスの計算 : 90%
4) 有限温度におけるLCAO法の開発 : 70%
テーマ1), 2), 3)では 計画前半に資源の多くを使った。テーマ4) の資源利用が遅れているが、期間内に使いきる予定である。
(ベクトル化、並列化チューニング等、計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載してください。)
当初、テーマ4) では、分子軌道に関するパラメータ(数十個)を変数として最内DOループ計算を行なった為にベクトル長が十分でなく、計算スピードが低かった。そこで、FFTを使った展開式を導入した結果、十分なベクトル長となり、計算スピードが上がり、資源有効利用へとつながった。
テーマ4) は新規開発コードであり、ベクトル化、並列化に予定以上の時間を要した。
該当なし。