平成23年度 地球シミュレータ利用報告会

気候変動に適応可能な環境探索のためのマルチスケールシミュレーション

発表資料 (3.5MB)

1. プロジェクト名

気候変動に適応可能な環境探索のためのマルチスケールシミュレーション

Simulations of Adaptation-oriented Strategy for Climate Variability

2. プロジェクト責任者名

高橋 桂子 (海洋研究開発機構 地球シミュレータセンター)

Keiko Takahashi

3. プロジェクトの目的

地球温暖化に伴ってエルニーニョやインド洋ダイポールなどの気候変動現象が変化し、さらにそれらに影響を受けて、台風や豪雨、都市環境などのメソスケールあるいは局所的な気象や気候変動がどのような影響を受けるのかについての予測は、社会的な関心が非常に高い。加えて、これらの気候変動に対する適応策の検討には、近い将来の身近な環境変化についての定量的な予測が必要不可欠である。このための予測シミュレーションは、気候変動現象から都市スケールの環境変化までの複数の異なる時空間スケール間を対象とするシミュレーションが必要であり、学術的にも意義が大きく、また、積極的な研究開発が世界的に展開されようとしている。
本プロジェクトは、この社会的要請および学術的意義から、地球シミュレータ上で計算性能最適化を施した全球/領域に対応可能な非静力学大気海洋結合モデルMSSGを使用して、全球規模の気候変動とそれらの変化が、日本近海域や港湾、および都市域の環境にどのような影響を与えるかを、マルチスケールシミュレーションを実施して検証、予測および評価することを目的とする。さらに、気候変動による環境変化に適応するための施策について具体的な事例を想定し、その施策がより広域の環境にどのように影響を与えるかについてのアップスケーリングシミュレーションについても挑戦する。本プロジェクトは、マルチスケールシミュレーションにより予測の科学技術の新たな可能性を切り拓くものである。

4. 今年度当初の計画

本年度の研究計画は、以下のとおりである。

(1) 22年度において選定した超高解像度領域に対する予測シミュレーションの短期テスト計算を、MSSG-A, MSSG-O, MSSGそれぞれに対して実施し、物理的性能評価を行う。
 (2) 新しい雲物理過程、放射過程、高速計算アルゴリズム、高精度アルゴリズムの物理的性能評価および、上記選定条件へのインパクト評価を目的としたシリーズシミュレーションを実施する。
 (3) 上記(1)、(2)の結果を基盤に、MSSGを用いて、季節から年々変動の現実可能な問題規模と物理的性能評価および検証を目的とするシリーズテストシミュレーションを実施する。
 (4) MSSG-A、MSSG-Oを用いた都市・臨海・港湾域の超高解像度テストシミュレーションを実施し、その物理的性能評価を行う。
 (5) (4)の結果を基盤に、新たなモデル(樹木モデル、汽水域モデル)を導入し、それらの物理的インパクトを評価する。

5. 研究計画に沿った利用状況

上記5. (1)~(5)に対する地球シミュレータの利用状況は、当初計画の配分で計画的に使用している。しかしながら、本年度当初は、電力不足に対する地球シミュレータの運用施策から、大規模計算を控えたため、大規模計算の開始時期が当初の研究計画より遅れた。11月末より、大規模計算を本格的に準備、開始し、現状では、年度末までに当初計画通りに仕様完了する予定である。

6. 今年度得られた成果、および達成度

成果

MSSG-A(大気大循環モデルコード), MSSG-O(海洋大循環モデルコード), MSSG(大気海洋結合モデルコード)にそれぞれに対して、短期の事例再現シミュレーションを実行し、特に豪雨については、再現性を飛躍的に向上した。この再現性の向上は、移流スキーム、雲微物理過程スキーム、放射過程スキーム、境界層スキームそれぞれのスキームとモデルの高度化とそれらの検証結果の積み上げが基盤となっている。MSSG-Aには、樹木モデル、汽水域モデルの導入を完了し、樹木の有無による都市計画への影響評価を開始している。樹木および淡水の影響を評価することが可能となった。
MSSG-Oにおいて、水平Biharmonic粘性・拡散を新たに導入し、高解像度かつ長期シミュレーションが安定して実行できるようにモデルを高度化した。その結果、潮汐・黒潮・親潮等、強い流れの影響を受ける海域でも安定に実験が可能となり、東京湾・日本海・オホーツク海と外洋の相互作用が再現可能であることを示した。さらに、領域モデルからはIOD、ENSO、インドネシア通過流が経年変動を引き起こす季節と領域が限定されていることが明らかになった。
 これらMSSG-A, MSSG-Oの安定で、精度のよい長期積分が可能であることが示されたことを基礎に、高解像度・全球結合、かつアジア域の超高解像度の結合ネスティング設定において、IOD、ENSOが顕著であった年に注目した大気海洋の大規模相互作用と、領域スケールのイベントの再現可能性を検証するための実験を継続している。
 モデル開発においては、世界にも着目される異なる物理過程の連成モデルの開発に注力している。特に、乱流と降雨過程の関連性は、予測精度に大きな影響を与えることを明らかにしたとともに、雲乱流を扱えるハイブリッドビン法を提案し、高い信頼性と精度で積雲を再現できることを示した。
 ダウンスケーリングの技術開発は、事例予測シミュレーションとして様々なスケールで実施し、MSSGの有用性を明らかにした。対象は、都市を対象とした微気象現象、メソスケール気象現象、低高気圧の生起から消滅までの総観スケール現象を対象とした系統的実験を実施し、現在、その統計的解析と検証を行っている。また、都市スケールにおける気象現象への海洋の影響について、MSSGを用いて理想実験を実施し、海面温度、海陸風の影響によって、都市域の気象が数時間スケールで影響を受ける可能性を明らかにした。
 計算最適化については、計算性能をどのような最適化指針に基づいて実施してゆくべきか、という課題に取り組み、この指針を与えるための新たな計算性能指標を提案した。この新しい指標は、従来から用いられてきたメモリアクセス負荷と計算負荷の混在を許容する指標とは異なり、メモリと計算負荷のいずれに起因する計算コスト負荷であるかを解析した、実機上のハードウェア動作に即した指標である。この指標に基づいて、実アプリケーション(MSSG)の計算性能最適化を行った結果、計算性能を効率的に向上可能であることを示した。

達成度

(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100% / 複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で記載)

大規模計算が進行中であることを考えると、全体としては、1月末の推定で、約75%の達成度である。

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

運用における震災対応を考慮して、大規模計算実施計画と研究計画を変更したため、11月までの計算機使用量は、当初計画の3分の1であった。11月以降、大規模計算の準備を行い、11月下旬より大規模計算を開始している。1月末までにほぼ60%の使用を計画しており、年度末までに、当初研究計画における予定通りの使用を見込んでいる。

チューニングによる成果

(ベクトル化、 並列化チューニング等、 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載)

計算最適化に対するチューニングについては、MSSGの計算コストの約50%を占める流れ場を解くダイナミカルコアにおいて、地球シミュレータのほぼ限界に近い計算性能最適化を、ベクトル化による最適化、アセンブラ言語による計算順序制御、計算隠蔽、メモリ構造最適化、情緒演算の削除などに計算性能最適化を完了した。その結果、MSSGを使用した台風強度予測を対象とするシミュレーションにおいて、並列化率99.9915%、ピーク性能比32.2%の性能を達成した。

計画的に利用できていない場合、その理由

上記6. および<計算機資源の利用状況>にも表記したように、大規模計算を要する実験を、当初の予定より遅れて開始した。開始の遅延は、運用体系を考慮してのものであることは一因であるが、ディスクの不足と所内ネットワークによる他ディスクへのデータ転送に時間がかかったことにもよる。現時点までに、大規模計算を実施しながらデータ転送を併行して行える状況が当初予定していた状態に整ったことから、計画通りの大規模計算を進めている。

8. 新聞、 雑誌での掲載記事

該当なし。