第一原理計算による転位、粒界を含む鉄材料中の水素挙動
First Principles Calculation on Hydrogen Diffusion Behavior in Iron Containing a Dislocation and Grain Boundary
蕪木 英雄 (日本原子力研究開発機構 システム計算科学センター)
Hideo Kaburaki
鉄鋼材料の水素脆化機構をミクロレベルから解明することを目指し、BCC(体心立方格子)鉄(α鉄)中の水素状態、拡散挙動を第一原理計算により求める。この問題を解決するための本質的な現象として、結晶格子中水素原子の転位及び粒界における「パイプ拡散」機構の解明を行い、最適拡散経路の探索、鉄欠陥中水素の移動エネルギーを決定する。
H23年度では、H22年度に実施した鉄中転位、キンクの高精度第一原理計算を基にして、水素の存在下における、転位の移動エネルギー障壁とパイエルス応力及び転位キンクの生成エネルギーの決定を行う。これらの結果を基に鉄系材料の水素脆化の原因解析へ役立てる。
今年度は、計画に従い第一原理計算を基にしたらせん転位キンクと水素の相互作用の現象解明を実施した。
鉄鋼材料の水素脆化のメカニズムとして現在色々な説が提案されているが、これらの説に共通する基本的課題として水素が塑性変形、即ち転位の運動、を助長するか否かという未解決問題がある。今年度はこの問題を解決するため、鉄の塑性変形の基本的な担い手であるらせん転位の移動が水素の存在によりどの様な影響を受けるかの第一原理計算を実施した。鉄のらせん転位は移動のエネルギー障壁が高いので、その一部が1原子距離だけ折れ曲がりキンク対を形成して移動する。昨年度は水素がない場合についてキンク対の移動エネルギー障壁を評価した。今年度は、水素が存在する場合の鉄中らせん転位のキンク対による移動エネルギーを第一原理計算の結果に基づき評価した。転位芯近傍に移動する水素濃度の影響を調べるため、昨年度とは違い、転位軸方向に5原子層を取った新たな体系を用いた。この結果、1原子層当たり0.2個の水素の吸着でらせん転位がキンクを生成し、高濃度でより強く水素を吸着することが明らかになった。これらの結果から、鉄中に水素原子が存在すると、一般的にらせん転位の移動の障害となり、転位の運動を助長することはないことが明らかになった。
(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100%として数値で示してください。複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で示してください。)
60%
計画的に使用できなかった。
(ベクトル化、並列化チューニング等、計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載してください。)
第一原理計算(VASP)において、ベクトル演算率99%を達成している。
今年度は震災による被害のため研究の開始が遅れたこと、及び震災に伴う原子炉事故の影響により福島関連の支援等に担当の研究者が対応しなければならなかったため、計画に遅れが生じた。
該当なし。