平成23年度 地球シミュレータ利用報告会

AFES を用いた地球型惑星の大気大循環シミュレーション

発表資料 (336KB)

1. プロジェクト名

AFES を用いた地球型惑星の大気大循環シミュレーション

Simulations of Atmospheric General Circulations of Earth-like Planets by AFES

2. プロジェクト責任者名

林 祥介 (神戸大学 大学院理学研究科)

Yoshiyuki Hayashi

3. プロジェクトの目的

惑星半径に比べて薄い大気を持ち、 大気層下端が地面によって明確に定義されるという共通性のある地球、 火星、 金星といった惑星の大気大循環の特徴を統合的な枠組みの上に位置づけていくことを目指し、 地球シミュレータセンターで改良がなされてきた大気大循環モデル AFES に各惑星に適した物理過程モジュールを開発導入することで、 地球型の惑星大気を統合して扱える枠組みを構築するとともに、 各惑星大気の計算から各惑星の特徴の力学的理解を進めることをめざす。

4. 今年度当初の計画

1) 火星大気大循環実験

火星では、 常時大気中にダストが浮遊しており、 ダストストームが頻繁に発生している。 このダストは、 火星大気循環と温度構造に非常に重要な影響を及ぼしている。 しかし、 このダストの巻き上げと大気全体への供給に関わる物理機構はまだあまり明らかにはなっていない。 我々は、 観測によっては直接観測が困難な中小規模擾乱に伴う風の寄与に注目し、 高解像計算で中小規模擾乱を陽に表現することによって中小規模擾乱の描像と、 それらのダストの巻き上げへの寄与を明らかにすることを目指す。 昨年度までにダストストームが起こりやすいとされる北半球の秋の条件において調べた。 今年度は、 大規模なダストストームが起こらない北半球の夏の季節に注目し、 季節依存性について明らかにしたい。 昨年までと同様に、 計算に与える地形などの地表面条件を変更した実験を多数実施し、 それらの結果を比較する。

2) 金星大気大循環実験

金星大気大循環の大きな謎であるスーパーローテーションの維持機構を解明する。 これまでの研究によると、 金星の大気大循環を正確にモデリングするには、 大気安定度の低い雲層付近を適切に取り扱うことが必要であった。 そのため、 精密な放射モデルによる金星GCMの高精度化を達成し、 大気スーパーローテーションの生成・維持機構を解明するために、 低安定度層における大気スーパーローテーションの振る舞いを調べることが重要な課題となっていた。 今年度は、 ES2に最適化された新しいAFESの金星化を行うとともに、 雲層における大気運動の安定性に着目した高解像度数値実験を行うことにした。

5. 研究計画に沿った利用状況

当初予定通り、 高解像度実験も含む多数の大規模な火星計算に多くの計算資源を使用している。 金星計算においては、 上記計画のための新しい物理過程の導入や、 予備的な数値実験に時間を費やしている。

6. 今年度得られた成果、および達成度

成果

1) 火星大気大循環実験

昨年度に行った北半球の冬の実験に続き、 北半球の夏の条件で、 複数の解像度(水平格子間隔 ~10-90 km)で実験を行った。 また、 地形の起伏、 地面アルベド、 地面熱慣性といった地面特性が大気循環に及ぼす影響を調べるために、 一様な地表面特性を与えた実験も実施した。 モデルで評価される全球積分巻き上げダストフラックスの解像度依存性に注目して解析を行ったところ、 解像度に対してそれほど大きな依存性は見られなかった。 この結果は、 解像度が高くなるほど巻き上げダスト量が増える結果となった、 昨年度に得られた北半球の冬の結果とは明らかに異なっている。 火星の公転軌道は、 地球に比べて大きな離心率を持っており、 北半球の夏と冬では火星に届く太陽放射量が異なる。 このような要因が原因となって対流性の運動の強度が変わり、 それのモデル内での表現の違いがこのような季節による違いの原因となっている可能性が考えられるが、 詳細を明らかにするためにはさらなる解析が必要である。

2) 金星大気大循環実験

ES2に最適化された最新のAFESを金星大気用に変更した。 金星大気中には雲層付近(高度約45-70 km)に大気安定度の低い領域が全球的に広がっているが、 GCMを用いたこれまでの金星大気研究ではこの特徴が無視され、 全層にわたって安定成層した大気を基本場とする数値計算が行われてきた。 しかしながら、 子午面循環の構造や熱潮汐波の鉛直伝播が大気安定度の鉛直分布に強く影響されることは明らかである。 本研究では、 大気安定度分布に対する金星大気大循環の依存性を明らかにするため、 観測に基づく大気安定度分布を包含する、 広いパラメータ範囲で数値実験を行うための実装を行った。 次に、 大気安定度分布をコントロールした数値実験を実行し、 大気スーパーローテーションの力学的安定性に着目した研究を行った。 その結果、 大気安定度の弱い雲層付近で、 線形論で予想されていた傾圧不安定モードが見られ、 その成長率も線形論とおおむね一致することが示された。 金星大気中で傾圧不安定が観測された報告は未だないため、 本研究はその存在を示唆するものとして重要である。 今後はES2およびAFESの能力を最大限生かした高解像度計算を行い、 傾圧不安定波に伴う熱や運動量輸送を詳細に調べ、 大気スーパーローテーションの生成・維持に対する効果を明らかにする予定である。

達成度

(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100%として数値で示してください。複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で示してください。 )

達成度 75%
 火星計算においては、 予定していた計画の多くの部分を実行している。 金星計算においては、 傾圧不安定モードの存在に関する重要な知見を得たものの、 予定した高解像度の数値実験には至っていない。

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

4-9 月中にはなかなかまとまった時間を取ることができず、 利用が進まなかったが、 10 月以降利用を加速し、 予定通りのスケジュールに戻りつつある。

チューニングによる成果

(ベクトル化、並列化チューニング等、計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載してください。)

該当なし。

計画的に利用できていない場合、その理由

該当なし。

8. 新聞、雑誌での掲載記事

該当なし。