平成24年度 地球シミュレータ利用報告会

海洋の渦・前線とそれらが生み出す大気海洋現象の解明

発表資料 (1.1MB)

1. プロジェクト名

海洋の渦・前線とそれらが生み出す大気海洋現象の解明

Understanding Roles of Oceanic Fine Structures in Climate and its Variability

2. プロジェクト責任者名

大淵 済 (海洋研究開発機構 地球シミュレータセンター)

Wataru Ohfuchi

3. プロジェクトの目的

これまで我々が地球シミュレータで推進してきた高解像度大気海洋シミュレーションや近年の高機能衛星観測などの研究から、黒潮等の西岸境界流に伴う海面水温前線や中規模渦などの海洋局所構造の変動が、大規模な大気循環の形成・変動に果たす役割が認識されはじめている。また、海洋の中規模渦よりも細かい数km程度の構造が、より大規模な海洋循環の形成や生態系の変動に与える影響も注目を集めている。そこで本プロジェクトでは、全球大気・海洋・結合大循環モデルおよび領域非静力学大気・海洋・結合モデルを用いて、従来の季節変動予測や地球温暖化予測では、ほとんど考慮されてこなかった海洋局所構造の変動とそれらが引き起こす大気海洋現象に対する知見を深め、地球気候の理解と予測技術の発展に貢献する。

4. 今年度当初の計画

(a) 海洋前線変動と大気海洋循環変動
 研究方針:
 海洋の自励変動に起因する不確定性を考慮した数年規模の黒潮続流予測実験を行うとともに、海洋前線に伴う膨大な熱・水蒸気供給変動に対する季節~数年スケールの大気循環応答を大循環モデルによる感度実験によって大気単体として、また大気海洋結合系として多角的に調査する。
 方法:
 北太平洋渦解像OFESを用いた黒潮続流アンサンブル予測実験、準全球渦解像OFESを用いた大気再解析・衛星風応力海洋再現実験、CFESを用いた海洋前線変動に対する大気海洋結合応答実験、AFESを用いた海面水温前線変動に対する大気応答実験
 見込まれる研究成果:
 海洋前線変動メカニズムの解明と予測可能性を評価するとともに、その海洋前線変動に起因する気候内部変動を解明する。

(b) 海洋サブメソスケール現象と海洋循環・生態系変動
 研究方針:
 サブメソスケール(数kmから数10km)構造を解像可能な海洋モデルに生態系および疑似トレーサを組み込み、上記構造に伴う流動場が物質循環、生態系変動に与える影響を調査する。また、さらに空間スケールの小さい現象である潮汐や密度混合などの局所的な非静力学過程が大規模場に及ぼす影響を、縁辺海を対象として調べる。
 方法:
 北太平洋サブメソスケール解像OFESを用いた生態系・疑似トレーサの過去再現実験、500m解像NHOESを用いた縁辺海潮汐・密度混合影響評価実験。
 見込まれる研究成果:
 サブメソスケール現象が励起する強い鉛直流が物質循環、生態系に及ぼす影響を解明する、更に局所的な非静力学過程が重要となる現象がより大規模な海洋循環に与える影響を解明する。

(c) 台風発達と大気海洋相互作用
 研究方針:
 波浪モデルを組み込んだ領域非静力学大気海洋結合モデルを用い、いくつかの台風事例に関して再現実験および海洋の取り扱いを変更した感度実験を行い、大気海洋相互作用が台風の強度や進路に与える影響を調査する。
 方法:
 台風事例のCReSS海面水温感度実験、波浪モデル搭載CReSS-NHOES実験。
 見込まれる研究成果:
 台風の維持発達過程の詳細を解明するとともに、台風予測の精度向上に寄与する。

5. 研究計画に沿った利用状況

(a) 海洋前線変動と大気海洋循環変動

渦活動に伴う海洋の自励的な変動が海流予測に及ぼす影響を調べるために、北太平洋域の解像度1/10度のOFESを用い、初期値を変えたアンサンブル予測実験を1994、 1998、 2002年から4年間にわたり3ケースずつ実施した。
 海面水温前線の大気応答を調べるために、T239(解像度50km)48層のAFESに衛星観測の高解像度海面水温データを与えた実験と、北西太平洋域、北大西洋域それぞれで海面水温前線を平滑化した実験を昨年度に引き続き実施し、各ケース20年分の積分を終了した。
ハワイ風下反流に伴う海面水温極大による大気海洋相互作用を調べるため、中解像度版CFESの標準実験とハワイ風下反流に伴う海面水温極大を平滑化した感度実験それぞれで、大気の初期値を変えたアンサンブル実験を115年目7月から5メンバーずつ実施した。
 観測で見つかった夏の北極海と冬のオホーツク海で相関する海氷の十年規模共変動のメカニズムを調べるために、研究計画に含まれていないが、中解像度版CFESで夏の北極海の海氷偏差を9月1日の海洋初期値に上乗せし翌年の3月まで積分する多・少氷ランそれぞれ10メンバーのアンサンブル実験を実施した。

(b) 海洋サブメソスケール現象と海洋循環・生態系変動

北太平洋域の解像度1/10度の簡易生態系モデルを組み込んだOFESを用い、気候値シミュレーションを5年間、それに引き続き1979-2010の過去再現シミュレーションを実施した。さらに、サブメソスケール現象が海洋循環場、生態系に及ぼす影響を調べるために解像度1/30度で2002年1月〜3月のシミュレーションを実施した。

(c) 台風発達と大気海洋相互作用

大気海洋間の各種フラックスのパラメタリゼーションを、海上風速だけではなく波浪による海面の粗度や波齢(風速と波浪の位相速度の比)にも依存する現実的な手法を取り入れ、その手法を評価するためにMellor et al. (2008, JAOT)とDonelan et al. (2012, JGR)の波浪モデルを組み込んだ非静力領域大気海洋波浪モデル(CReSS-NHOES-波浪モデル)で台風の再現実験を行った。
 領域非静力大気海洋結合モデルCReSS-NHOESを用いて2011年の台風の4事例を結合、非結合で実行した。

6. 今年度得られた成果、および達成度

成果

(a) 海洋前線変動と大気海洋循環変動

北太平洋渦解像OFESを用いた黒潮続流アンサンブル予測実験を計画通り実施し、海洋生態系にも大きな影響を及ぼす黒潮続流の流速変動は、非線形性が強く非常に強い初期値依存性を持つことが明らかにされた。これを加味した予測可能性を統計的に示すためには更に異なる時期での実験を重ねる必要がある。この成果に加え、これまでに行った単数積分での予測実験結果の解析を進め、黒潮続流の流速変動に3年程度の予測可能性があることが示された。
 CFESとAFESで異なる梅雨前線の季節進行の再現性を解析し、対流圏中層ジェット気流の季節進行に伴って梅雨明け時期が変動し、海面からの蒸発量が少ない海面水温前線の冷水側まで梅雨前線が北上すると降水帯が衰退することが明らかとなった。また、CFESで得られた海面水温を与えたAFES実験から海面水温がジェット気流変動の違いをもたらしていることが確認された。さらに、CFESの150年標準実験を解析し、海洋前線近傍の海面熱フラックスの影響が梅雨前線の十年規模変動にも影響を及ぼすことが明らかにされた。CFESでは日本東方沖の亜寒帯海洋前線の十年規模南北変位により冬季に顕著な海面水温偏差が生じるが、その影響は続く初夏の海面水温に影響を残し、海面から大気への潜熱フラックスに変動をもたらし、梅雨前線に伴う降水率が変動する。
 北西太平洋、北大西洋それぞれで海面水温前線を平滑化した感度実験がそれぞれ20年分終了し、低気圧活動への影響について解析を開始した。冬季は太平洋、大西洋ともに海面水温前線に沿って低気圧活動が集中していた。一方、夏季は北太平洋域だけに低気圧活動の海面水温前線への集中が現れ、その下流では降水や上昇流の応答も見られた。今後、この夏季の低気圧集中メカニズムについて解析を進める予定である。
 中解像度版CFESの標準実験とハワイ風下反流に伴う海面水温極大を平滑化した感度実験それぞれで大気場初期値が異なる5メンバーずつのアンサンブル実験を比較解析した。その結果、海面水温極大による大気応答がさらに海洋に及ぼす力学的フィードバックがハワイ風下反流の流速増加とそれによる暖水移流をもたらすことが明らかになり、ハワイ風下反流を加速、維持、さらに流軸を南下させている可能性を示唆した。
 CFESを用いた北極海海氷感度実験の多氷ランと少氷ランのアンサンブル平均の差の時間発展を解析し、9月1日の初期値の北極海海氷面積偏差の影響は10月まで持続し、海氷厚偏差の影響は2月まで続くことを確認した。しかし、この海氷偏差に対する秋から冬のユーラシア極東域の大気循環偏差は、アンサンブルメンバー間のばらつきが大きく、北極海海氷変動に対する大気応答は大気の内部変動の影響が大きいことが明らかになった。一方、CFESの長期積分結果の解析より、夏の北極海から冬のオホーツク海に海氷変動を伝えるメカニズムとして、ユーラシア極東域の大気循環偏差とそれによる高緯度から中緯度への寒気移流が重要であることが示唆された。今後、アンサンブルメンバーを増やした実験により、夏の北極海海氷変動と秋のユーラシア極東域の大気循環偏差の関係を調べる予定である。

(b) 海洋サブメソスケール現象と海洋循環・生態系変動

水平解像度が約3kmの北太平洋1/30度OFESの海面高度出力を用いた波数スペクトル解析で、どの海域でもサブメソスケール現象が大規模場に影響を及ぼしていることが示唆されたが、特に混合層が発達する冬季の黒潮続流付近でサブメソスケール現象が活発となっていた。このサブメソスケールは冬季に大気擾乱が通過する際に混合層内に起きる不安定現象で、現実的な設定の海洋シミュレーションではじめて再現された。また、3ヶ月間の海洋生態系実験では、衛星画像観測で捉えられているようなサブメソスケールの渦やフィラメント構造に影響を受けた植物プランクトン分布が再現された。

(c) 台風発達と大気海洋相互作用

CReSS-NHOES-波浪モデルを用いた台風の事例実験で、波浪モデルの変数(粗度や波齢)を用いた大気海洋間フラックスのパラメタリゼーションの評価を行い、Donelanの波浪モデルを組み込むことに決定した。また、海洋混合層の乱流モデルの改善も行い、砕波などによる波浪のエネルギー散逸によって混合層乱流の入力項を直接求めることが可能となった。このようにして各種物理過程のエネルギーや運動量収支の整合性を高めた大気・海洋・波浪結合モデルが完成した。  CReSS-NHOESを用いて2011年に災害をもたらした台風Talas(T1112)の海洋結合、非結合実験を実施した。その結果、海洋結合、非結合実験間でこれまでの事例では見られなかった台風の進路の違いが見られた。また、他の事例(T1105)では、海洋結合による台風強度の抑制が、表層のみを扱った1次元結合(抑制)と3次元結合(強化)で逆の傾向となった。これらの差異について観測と比較して検証中である。

達成度

(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100% / 複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で記載)

(a) 海洋前線変動と大気海洋循環変動 90%
(b) 海洋サブメソスケール現象と海洋循環・生態系変動 80%
(c) 台風発達と大気海洋相互作用 90%

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

割り当てられた26,000ノード時間積のうち、2012/12/26 時点で約24,500ノード時間積を使用し、計画通りに資源を利用できている。

(a) 海洋前線変動と大気海洋循環変動
 OFES北太平洋渦解像アンサンブル予測実験
  水平解像度1/10度(10km)鉛直54層4年3メンバー3ケース:3000ノード時間
 CFES中解像度版標準実験および海面水温極大偏差応答実験
  大気T119(100km)48/56層、海洋0.5度(50km) 3月5メンバー2ケース:200ノード時間
 CFES中解像度版予備実験および北極海海氷感度(風応力偏差応答)実験
  大気T119(100km)48/56層、海洋0.5度(50km) 延べ110年:5,500ノード時間
 AFES海面水温偏差応答実験
  T239(50km)48層 AFES延べ38年:3,800ノード時間
 小計:12,500ノード時間
(b) 海洋サブメソスケール現象と海洋循環・生態系変動
 OFES北太平洋サブメソスケール解像生態系シミュレーション
  水平解像度1/30度(3km)100層3ヶ月:1,800ノード時間
 OFES北太平洋渦解像生態系シミュレーション
  水平解像度1/10度(10km)54層36年:7,200ノード時間
 小計:9,000ノード時間
(c) 台風発達と大気海洋相互作用
 CReSS-NHOES-波浪モデル台風再現実験
  水平解像度4km、延べ80日、5事例:3,000ノード時間
 小計:3,000ノード時間
 総計:24,500ノード時間

チューニングによる成果

(ベクトル化、 並列化チューニング等、 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載)

F90コンパイラ比較によるCReSS-NHOESの性能向上
 CReSS-NHOES の実行性能が新しいF90のコンパイラを使用することにより少し向上した。理由としては、平均ベクトル長が少し長くなり、ベクトル化率が約0.01%向上したこととが考えられるが、ADBによるバファリングも効いているかもしれない(CReSSで66箇所、NHOESで518箇所)。

(計算性能測定例)
 台風Talas(T1112)の事例。日本近海太平洋域 128-148E,13N-44N (512x768) 0.04度解像度
16ノード利用、初期時刻2011/08/25 00Z より3時間積分した出力毎時(3回)の結果を比較。

 F90のバージョン:Rev.404 → Rev. 450(新バージョン 2012年4月1日リリース版)
 平均ベクトル長 : 190.646 → 190.691
 平均ベクトル時間: 99.164% → 99.170%
 実行時間 : 08分04秒 → 07分:56秒
 新バージョンを用いて10日積分をしたので、
 8秒/3時間×24時間×10日×16ノード=10240秒=約2.8ノード時間ほど短縮・効率化。

計画的に利用できていない場合、その理由

 該当なし。

8. 新聞、雑誌での掲載記事

 該当なし。