平成24年度 地球シミュレータ利用報告会

高解像度気候モデルと南極大型大気レーダー(PANSY)を用いた中層大気の観測・モデル統合研究

発表資料 (1.5MB)

1. プロジェクト名

高解像度気候モデルと南極大型大気レーダー(PANSY)を用いた中層大気の観測・モデル統合研究

Model-observation Integration Study of the Middle-atmosphere Dynamics Using a High-resolution Climate Model and the Antarctic PANSY radar

2. プロジェクト責任者名

渡邉 真吾 (海洋研究開発機構 地球環境変動領域)

Shingo Watanabe

3. プロジェクトの目的

既存のT213L216高解像度気候モデル(水平解像度約60km、鉛直解像度500m、モデル上端150km)をベースに、とくに極域や高度50km以上で卓越する小規模な大気重力波を解像するために、水平解像度を3倍したT639L216のモデルを開発する。小規模な大気重力波の発生・伝播・散逸過程と、その散逸に伴う大規模な流れの場への影響を詳細に調べる。平成25年度も研究を継続し、南極大型大気レーダー(PANSY)等の新しい観測データとの比較を通じて気候モデルの重力波パラメタリゼーションの改良に寄与する情報を引き出す。

4. 今年度当初の計画

本年度は、目標解像度であるT639L216版を用いた本格的な実験を行うとともに、観測との統計的な比較を通じて、論文発表等が行えるレベルの研究成果を得る。区分3の計算機資源は13,000ノード時間であるが、そのすべてをシミュレーションにあてた場合、およそ7-8週間の実験が可能である。季節変化に関する観測との比較を優先した場合、10日間程度の実験を各季節に分けて数例行うこととなるが、別のオプションとして、2カ月程度積分を続けて大気重力波の統計的性質に注目することも検討する。

5. 研究計画に沿った利用状況

本年度は、初めてT639L216版モデルの本格的な実験を実施した。後述のように、地球シミュレータセンターとNECスタッフによる、ES2への最適化チューニングの恩恵があり、当初計画よりも長期間の実験が可能になった。計算機資源の消化ペースは早く、11月末時点で割り当て13,000ノード時間のうち、残り270ノード時間を残すのみである。

6. 今年度得られた成果、 および達成度

成果

T639L216版モデルを用いて最初に行った1週間積分の実験結果は、「モデルの水平解像度を上げれば再現される大気内部重力波のリアリティが向上して、大規模場も改善される」という従来の中層大気モデリングの経験則を覆すものであった。そこでは、解像度向上によって新たに出現する「水平短波長&高周波数」の重力波の散逸に伴う、大規模場への運動量の受け渡しが(従来解像度のモデルおよび恐らくは現実大気中で生じるものに比べて)過剰に生じており、結果として、中間圏のジェットの構造が非現実的なものになってしまった。「小規模重力波の特性およびそれらの中間圏高度での散逸に関する、観測に基づく統計的理解が、現状では不足しており、それがモデルの開発・改良に際して大きな障壁となる」という問題意識を、観測コミュニティに対して提示できたことが、本年度の主要な成果であり、結果として(最初からモデリングが「なぜだか分からないけど見掛け上うまくいく」のに比べて)、「観測・モデル統合研究」として良いスタートを切れた。上記の問題をクリアするためには、地点は限られる反面、風や気温等の鉛直プロファイルを鉛直高分解能で連続観測できる、レーダーやライダーといった観測機器によるデータを、本研究独自の視点で統計的に活用することが肝要である。2013年春季にフル稼働開始予定の昭和基地PANSYレーダーや、他地点で過去に蓄積されたデータの準備を観測研究者らとともに進めており、本年度中にも具体的な成果が得られる見通しである。
(また、本年度の実験結果を受けて、モデルの力学フレームワークとして、静力学近似では表現し得ない重力波の全反射や不安定領域からの二次放射の中層大気力学における重要性を調べるため、全球非静力学モデルNICAMの成層圏・中間圏への延伸を中心とした共同研究を開始しており、本研究の延長として、今後はそちらからの成果も期待できる。)

達成度

(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100% / 複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で記載)

75%
 (モデル実験に関する成果は100%、観測データとの比較解析は11月末にモデル実験が終了したのちに開始する必要があったため、12月末時点では進捗60%程度、年度末に向けて観測研究者らと協同中。)

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

当初の計画通り、年度の前半に大半の実験を行い、11月末時点で割り当て13,000ノード時間のうち、270ノード時間を残すのみである。

チューニングによる成果

(ベクトル化、 並列化チューニング等、 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載)

本年度開始当初、地球シミュレータセンターの担当者より、NECのスタッフによるチューニングのサービスを本プロジェクトのモデルに対して行いたいとの旨を申し出て頂き、その結果、モデル全体の実効性能がES2のピーク性能比で約6%から約12%へと、飛躍的に向上した。並列化効率の見積もりでは、仮にES2の120ノードを使用しても50%を割らないレベルに達したが、コストパフォーマンスを勘案した結果、40ノード(320 MPI並列)で主な実験を行うことにした(=上記実効性能)。最終的に、当初の実験可能期間の見積もりが約2モデル月であったところ、約3モデル月の実験を実施することができた。
具体的にはモデルの中で最も高負荷であるルジャンドル正変換・逆変換の中で、ベンダーであるNECが提供している行列演算サブルーチンを明示的に使用するようにしたことと、配列の並べ替え等によるメモリアクセスの低減が奏功し、それらのサブルーチンの性能が従来の2-3倍に向上した。

計画的に利用できていない場合、その理由

該当なし。

8. 新聞、雑誌での掲載記事

該当なし。