平成24年度 地球シミュレータ利用報告会

全球モデルを用いた寒冷圏プロセス高度化と北極気候再現性検証による北極気候変動メカニズムの研究

発表資料 (1.6MB)

1. プロジェクト名

全球モデルを用いた寒冷圏プロセス高度化と北極気候再現性検証による北極気候変動メカニズムの研究

Research on the Climate Change Mechanisms in the Arctic Regions Based on Improvements of the Cold-region Processes and Validations of the Arctic Climate Reproducibility Using Global Climate Models

2. プロジェクト責任者名

小室 芳樹 (海洋研究開発機構 地球環境変動領域)

Yoshiki Komuro

3. プロジェクトの目的

全球の気候変動における北極域の役割を解明し、北極域における温暖化増幅メカニズムを解明するために、全球大気・海洋・陸面結合大循環モデル(全球気候モデル)を用いて、寒冷域プロセスを高度化するとともに、さまざまな感度実験を行って、北極域の気候再現性向上を検証し、20世紀の温暖化や近年の海氷急減、過去の気候や氷床変化など、北極における気候変動の原因特定・メカニズム解明の研究を進める。

4. 今年度当初の計画

本プロジェクトでは、ベースとなる全球大気・海洋・陸面結合大循環モデル(CGCM)として、MRI-CGCM(気象研究所)及びMIROC(東大大気海洋研/国立環境研/海洋研究開発機構)を用い、地球シミュレータによる数値実験を行って以下の研究を進める(複数年計画)。

1) 寒冷域プロセスの高度化と北極気候再現性の評価

CGCMにおける主要な寒冷域プロセスである海氷・積雪・凍土を中心に要素モデルの高度化を進めるほか、水同位体の分別過程を組み込んで水同位体の動態解析を行い、水循環過程の解明を目指す。
海氷過程については、海氷分布を決める要因を調べるために、CGCMによる感度実験を行い、その結果を海洋・海氷単体モデルによるオフライン実験結果等と比較して、現行のCGCMにおけるバイアス評価を行うとともに、融解期における海氷上で生じる諸過程や側面融解過程、成長期におけるフラジルアイス生成やリッジング過程、海氷・海洋間の熱交換過程等の開発・改良の必要性について検討する。また導入済みのサブグリッドスケールの海氷厚表現が熱収支に及ぼす影響について評価する。
積雪過程については、積雪表層のダストによるアルベド低下の影響を評価し、簡便に考慮する方法を検討する。また、サブグリッドスケールでの被覆率の算定手法の高度化を進めるほか、積雪の密度や熱伝導率などの物理定数の推定方法を検討する。これらについて感度実験を行い、北極気候再現性へのインパクトを調べる。凍土過程については、土壌の凍結・融解を考慮した物理定数の評価方法を導入するほか、凍土域に特有な物理的性質(有機層など)の組み込みに着手し、感度実験を行って、凍土域や地表面状態の再現性に対する影響を調べる。 水同位体の分別過程の導入においては、CGCMの各構成要素(大気・海洋・陸面・河川等)について、降水・土壌面蒸発・植物の蒸散・土壌水分の凍結融解・融雪・海面蒸発・海氷生成消滅などにおける同位体分別過程の組み込みを進める。
 20世紀後半から現在までの気候値及び季節変化の再現性を検証するために、現行のCGCMおよび高度化したプロセスを組み込んだCGCMを用いた再現実験を行う。それらの結果について、気温、降水量、海氷、積雪などの基本的な気候変数のバイアスを評価するとともに、その要因を推定するために、気候変動要因の切り分け実験などを行う。また、広域での地表面熱水収支の再現性について、気候湿潤度を用いた再現性評価を試みる。

北極における気候変動の原因特定・メカニズム解明

気候変動における北極域の役割の解明を目指して、パラメタ感度実験や物理アンサンブル実験などを行い、1)のバイアス評価の結果も参考にしながら、気候フィードバックなどに関する解析を行う。特に、大陸上や北極海氷域での北極域温暖化増幅メカニズムに着目し、陸面モデルのオフライン実験や、海洋海氷オフライン実験などの結果も参照しながら解析を行って、必要なプロセスの改良点を明らかにする。
また、20世紀大気再解析データを用いたナッジング実験のテストを行い、スペクトルナッジングについても検討しながら、気候変動研究へのナッジング実験の適用性を検討する。ナッジング実験では、同位体を導入したCGCMも用いて、降水や水蒸気・土壌水分・積雪・河川等の水素酸素同位対比が、吸収・交換・輸送といった様々な物理的・生化学的過程を踏まえて、生態系や氷床等の一部として固定される際の挙動を調査し、過去100〜150年間における海氷や陸面熱水収支・放射収支とともに、同位体解析を行う。

5. 研究計画に沿った利用状況

海氷・海洋モデルの開発・改良 : 1,000ノード時間
 積雪・凍土モデルの開発・改良 : 1,500ノード時間
 北極気候変動メカニズム解明に関する感度実験 : 500ノード時間

6. 今年度得られた成果、 および達成度

成果

1) 海氷・海洋モデルの開発・改良

海氷過程については、これまでのMIROCでの実験結果の解析を行い、また他要素モデルと過程の表現の整合性を考慮した結果、海氷上の特に積雪が関わる含む熱力学過程を、陸面過程での積雪過程の表現を参考に改良する必要性があるとの方針を得た。また、海氷・海洋単体モデルを用いた数値実験の結果をサブグリッドスケール海氷厚表現が無かったとした場合の仮想的な結果と比較した。その結果、もしサブグリッドスケール海氷厚分布を用いない場合、海洋から大気への熱フラックスを北極海年平均で 5.4 W/m2 過小評価するとの結果を得た。
MRI-CGCM3のCMIP5に提出した実験結果では、北大西洋から北極域にかけて、北半球冬季の海氷が張り出し過ぎており、このバイアスが海洋の熱輸送の不足と関係していることが分かった。熱輸送の不足が、海洋モデルの力学などによるものなのか、海氷が張り出し過ぎた結果として引き起こされたものなのかは判別できないが、少なくとも、ラブラドル海の低塩化が、この海氷バイアスの原因である可能性が高いことを感度実験により確認した。海洋モデルの混合層スキームを変更し、さらなる感度実験を行ったところ、海氷過多のバイアスは、相当程度改善された。これは、混合層モデルの変更により、海面付近の低温低塩分海水と亜表層の高温高塩分海水の混合が促進された結果、冬季に低温高塩の高密度海水が北太平洋の海面付近で形成され、北太平洋深層水の形成が活発に生じるようになったためである。その結果として、北大西洋における、子午面循環と海洋による極向き熱輸送が強化され、ラブラドル海やノルウェー海における海氷過多のバイアスが修正された。

2) 積雪・凍土モデルの開発・改良

積雪過程の高度化では、サブグリッドスケールでの被覆率に、融雪の非一様性メカニズムを考慮したスキームSSNOWDを、オフライン化したMIROCの陸面過程MATSIROに組み込み、積雪被覆や積雪水当量の再現性が向上することを明らかにした。また、積雪の熱伝導率や密度等の推定スキームや、アルベドや粗度などのパラメタ値による不確実性を評価するためにアンサンブル実験を行い、パラメタやスキームによる不確実性は融雪期に大きくなることを明らかにした。現在は、SSNOWDをGCMによる気候変動実験に用いるために、気温の気候値に基づいて与えている融雪パターンを、GCM内で診断できるように改良を行っている。MRI-CGCM3の積雪モデルでは、積雪表層のダストによるアルベド低下の影響の評価に着手した。
凍土過程については、凍結・融解を考慮した土壌物理定数の評価方法や表面有機層を組み込むために、既往研究で進められてきた改良スキームを、MIROCの陸面過程MATSIROに導入する方法についてプログラムレベルで検討している。MRI-CGCM3の土壌モデルでは、熱伝導係数や土壌密度などの値として、従来は鉛直方向に一様としていたのを、鉛直に変化する分布を持たせることを可能にした。これにより、有機層の異なる物性を取り扱うことが可能になる。また、無機層の上端を土壌深度ゼロとし、その上に有機層が存在しうるように、土壌深度が負のところにも層がとれるようにした。

3) 北極気候変動メカニズム解明に関する感度実験

海氷減少が北極域の気候へ与える影響を理解・分離するために、AGCMを用いて海氷減少時(CO2倍増時)の海氷分布と差し替える感度実験を行った。結果については現在解析中であるが、グリーンランドを含め、気温、降水量への影響が見られた。

達成度

(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100% / 複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で記載)

海氷・海洋モデルの開発・改良 : 80%
 積雪・凍土モデルの開発・改良 : 70%
 北極気候変動メカニズム解明に関する感度実験 : 50%

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

プロジェクト開始後まだ間もなく、海氷、積雪等、寒冷域における要素モデルの問題点の抽出、および改良方針の検討などに時間を要し、必ずしも計画的に計算機資源を利用できていない。

チューニングによる成果

(ベクトル化、 並列化チューニング等、 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載)

気候モデル、および海洋・海氷モデルは、既にベクトル化、並列化を十分に実施し、また地球シミュレータで利用実績豊富なモデルを用いているので、今年度は特にチューニングは実施していない。

計画的に利用できていない場合、その理由

海氷、積雪等、寒冷域における要素モデルの問題点の抽出、および改良方針の検討、パラメタ感度実験の準備などに、当初の想定以上の時間を要しているため。また要素モデルを改良しつつその効果を確認する感度実験が中心で、モデル改良の進捗状況と無関係に資源を利用できる状況でなかったため。

8. 新聞、雑誌での掲載記事

該当なし。