平成24年度 地球シミュレータ利用報告会

カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション

発表資料 (648KB)

1. プロジェクト名

カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション

Large-scale Simulation on the Properties of Carbon-nanotube

2. プロジェクト責任者名

中村 賢 (高度情報科学技術研究機構)

Satoshi Nakamura

3. プロジェクトの目的

ナノテクの基幹材料であるカーボンナノチューブ(CNT)等のナノ炭素類を対象として、熱伝導、機械の特性、新奇な炭素物質であるマッカイ構造体の生成パス、次世代CPUのCNT配線における電磁作用の影響など、実験では得がたい物理現象、新物質創成法、新機能発現法を大規模な第一原理・強結合近似分子動力学シミュレーションによって明らかにし、その成果を学界、先端産業へ提供するとともに、地球シミュレータの性能を実証する。加えて、ナノ炭素類の新奇特性を人類的課題である温暖化対策としての環境技術・新エネルギー開発に役立てる大規模シミュレーション研究を実施する。

4. 今年度当初の計画

1) 第一原理計算法を用いて、セシウム吸着に有利なCNT構造の探索及び真空中、水中、大気中等の様々な環境中でセシウムのCNTへの吸着性能を計算する。
 2) 昨年度に開発した有限温度第一原理計算法のアルゴリズムの改良し、電子相関を考慮したポスト-ハートリー-フォック法の開発を行う。
 3) 時間依存第一原理計算法を用いて、パルスレーザーによるCNTへのダメージの直径依存性を調べる。
 4) 第一原理計算を応用してヘリウムイオン顕微鏡(HIM)像のシミュレーション技術を開発し、HIMによる撮像原理の機構を解明する。

5. 研究計画に沿った利用状況

テーマ2) のコード開発、チューニングが計画より時間を要したが今後の資源使用予定。現在の利用ペースでは残りの計算資源はすべて消費する。

6. 今年度得られた成果、 および達成度

成果

1) 昨年度はCNTが持つ活発なπ電子軌道を利用して、真空中でのセシウム原子とセシウムクラスターのCNTへの吸着可能性を調べた。本年度は、セシウム吸着に有利なCNT構造の探索、水中での吸着を想定した水分子が存在する場合のCNTの吸着性能、セシウムが大気中で化合物を生成した場合のCNTの吸着性能を調べた。CNTの構造に関しては、半径の小さいCNTほど高いセシウム吸着性能を有する結果を得た。また、水分子はCNTへのセシウム吸着を妨げる働きをするが、大気中でセシウムが化合物を生成した場合よりも高い吸着性能を有する結果が得られた。環境面で考えた場合、CNTは水中で有効的に吸着材として使用することが期待できる。
 2) 計算律速となる2電子積分計算のアルゴリズムを見直し、高精度化を図るとともに高速化を行った。原子数が多くなると、4つの分子軌道の組み合わせが増えるために、2電子積分の計算量は膨大となる。そこで2つの分子軌道から構成される項を事前に並列計算して配列に格納し、その配列を計算に用いることで、高速かつ効率良く2電子積分を計算することが可能になった。また強相関電子系の電子状態を適切に記述するために、電荷揺らぎに基づく電子相関を考慮したポスト-ハートリー-フォック法の開発を行った。
 3) 昨年度は、CNTをナノ試験管として内部にアセチレン分子ダイマーをいれてレーザーパルスを照射した場合と、直接照射した場合との反応を比較した。本年度は、応用の限界を見極めるために、レーザーによる試験管たるCNTへのダメージの直径依存性を調べ、直径の細いチューブの方が耐性は高いという結果を得た。
 4) ヘリウムイオン顕微鏡(HIM)像を予測する計算技術を開発し、グラフェンの格子像を観測するために必要なHIMの解像度を求めた。シミュレーションを応用した結果、ヘリウムイオンのビーム径を小さくすることで高解像度のグラフェン格子像が観察できる可能性があることが判明した。

達成度

(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100% / 複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で記載)

1) セシウムのCNTへの吸着性能 : 70%
 2) 有限温度第一原理計算法の開発 : 40%
 3) ナノ試験管としのCNTの性能評価 : 90%
 4) ヘリウムイオン顕微鏡像の撮像原理の機構解明 : 80%

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

テーマ1), 3), 4)では、計画前半に資源の多くを使った。テーマ2) の資源利用が遅れているが、期間内に使いきる予定である。

チューニングによる成果

(ベクトル化、 並列化チューニング等, 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載)

当初、テーマ2) では、分子軌道に関するパラメータ(数十個)を変数として最内DOループ計算を行なった為にベクトル長が十分でなく、計算スピードが低かった。そこで、スレーター基底関数を使った展開式を用いた方式の採用や複数の分子軌道を同時に処理する手法などの導入により、DOループが十分なベクトル長でかつ多量な計算処理が可能になった。その結果、計算スピードが上がり、計算資源の有効利用へとつながった。

計画的に利用できていない場合、その理由

テーマ2) は計算手法の開発であり、コードの性能結果を計算モデルへフィードバックして開発を進めるため、「計算モデルの開発」と「ベクトル化、並列化コードの最適化」のとの一体作業に予定以上の時間を要した。

8. 新聞、雑誌での掲載記事

新聞等

2012年12月25日 : 日刊工業新聞「産総研など、ヘリウムイオン顕微鏡で見える像を予測する計算技術を開発」(宮本 良之)
 2012年12月28日付 : Physical Review Letters &Ldquo;AB initio simulation of helium-ion microscopy images: The case ofsuspended grapheme” (H. Zhang, Y. Miyamoto and A. Rubio,)

雑誌

2012年11月号 : 月刊「化学」(化学同人社) “CNTのセシウム吸着の可能性(スパコンを用いたシミュレーション)” (手島 正吾)