平成24年度 地球シミュレータ利用報告会

テラヘルツ発振超伝導素子に関する大規模シミュレーション

発表資料 (1.7MB)

1. プロジェクト名

テラヘルツ発振超伝導素子に関する大規模シミュレーション

Large-scale Simulation for a Terahertz Resonance Superconductors Device

2. プロジェクト責任者名

飯塚 幹夫 (高度情報科学技術研究機構)

Mikio Iizuka

3. プロジェクトの目的

本研究の目的は、電波と光の間の未開拓波数帯域にあるテラヘルツ波の応用を目指し、地球シミュレータの大規模シミュレーションによりテラヘルツ発振超伝導素子の利用システムの設計を行なうことである。テラヘルツ波の特徴は高い透過性と生命分子や物質との強い周波数についての選択的な相互作用であり、このため環境、医療、物質・生命科学などの先端科学技術分野への応用の期待が高い。テラヘルツ波にはパルス波と連続波があるが、連続波はパルス波より大出力で周波数が揃うため、その利用価値はパルス波よりも遥かに大きい。このため、シリコン系半導体や非線形材料等を使う連続波発振が試みられているが未だにその性能は不十分で、新原理による連続波発振への期待は大きく、原理的に最も有力である高温超伝導体に外部磁場と直流電流を印加した方法が、立木らにより提案された(1994年)。この素子を実現しようとすれば、ナノスケールの素子内の超伝導電流や磁束量子等の動的で複雑な絡み合いを分析し、その発振の詳細な機構や条件を知る必要があるが、それらを実験的また理論的に解明することは困難である。またそれらの解明に必要なシミュレーレーションは、時間・空間スケールで10asから数ns、10Åから数百μmまで、タイムステップは数億、空間セルで数百万から数千万セルを扱う膨大な計算を必要とし、計算機性能では当時の数千倍の能力を必要とし不可能であった。2002年に利用が開始された地球シミュレータは、そのベクトルアーキテクチャよる高性能計算能力と高速化調整の効率性から、世界で初めてこのシミュレーションを可能とした。具体的には、従来に比べシミュレーションで探索できる空間、すなわち素子の層数・寸法、磁束量子の数、動的挙動を扱う時間、パラメータの組み合わせを扱うケース数等からなるシミュレーション空間全体の規模は数十万倍に拡大した。その結果、これまでに基礎研究として、H20年までにその発振原理、制御法を世界で初めて明らかにし、特許も取得し、また本研究を参考にしつつ発振実験が行なわれ、発振原理も実証された。
 現在、計測システム等としての実用化を目指し、素子で発振される連続波テラヘルツ波を反射・損失・減衰を最小限にして対象物に誘導するための素子内部と外部空間の接続法、外部空間での導波路構造・形状・誘電体などに関するシステム的な最適設計を目的に、地球シミュレータの高性能計算能力を利用し実施している。具体的には、正確な接続の解析を目指し、基礎研究での準2次元モデルを正確な多次元接続モデルに改良し、2・3次元コードを構築した。その2次元コードを用いて、素子の内部と外部の効率的な接続のためには上下対称電極配置が有利であることし示した。また層数を増加させることは効果的に素子の実効誘電率を下げて放射に有効である可能性があることを示した。このように本研究は、大規模シミュレーションにより本素子の実用化を目指すものである。

4. 今年度当初の計画

今年度は、a) 超伝導体から効率的に強いテラヘルツ放射を得るための電極や誘電体配置、層数、物性、外部磁場等の影響の詳細データを整備すること(H24,25実施予定)、b) 3次元の効果評価のためのモデル調整(H24,25実施予定)、c) ナノカーボンのテラヘルツ応答解析モデルの整備(H24~)を目指した。

5. 研究計画に沿った利用状況

今年度は、上記3項目の平行実施を目指したが、近年の実験結果の説明及び今後の実験の指針の観点から、実験グループ側よりa) を引き続き重点に特に集中すべきとの要望があり、a) に計算資源を集中した。具体的には、1) 実験的(外部磁場無し方式)には、超伝導体の総数が400~500層あたりから放射が観測されるが、その理由が知りたい、2) 400層と1000層では定量的にどの程度の放射強度の向上が期待できるのか、3) 超伝導体の層数の増加が放射強度へ影響するメカニズムはどのようなものか知見を得ることに重点を置いた。

6. 今年度得られた成果、 および達成度

成果

今年度1000層までの大規模シミュレーションにより、実験側からの上記3つの問いに答えを得た。具体的には、1) については、近接場光から放射光へ放射モードが変わることによるためと明らかにし、2) については、100倍程度であり、理論的な考察も合わせその効き方の変化も明らかにし、3) については、実効の誘電率の大幅な変化による素子端面での反射率の低下であると推定し、テラヘルツ放射への影響因子として層数の寄与が最も大きいことを突き止めた。これら成果は、実験側に有益な指針を与える。

達成度

(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100% / 複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で記載)

a) 100%, b) 20%, c) 20%
 上記成果のように、a) について十分な成果が得られた。他については、優先度を下げた。

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

現在、40%程度であり、利用が遅れ気味である。

計画的に利用できていない場合、その理由

この遅れは、今年度 超伝導体から効率的に強いテラヘルツ放射を得るための電極や誘電体配置、層数、物性、外部磁場等の影響の詳細データを整備すること、特に層数の影響評価に集中したが、1000層レベルのテラヘルツ発振条件を見つけることに、その非線形性のために手間取り時間が係ってしまったことによる。現在、1000層レベルの発振条件を掴みつつあり、今後、層数の影響の詳細データ整備のために縦断爆撃的なシミュレーションを実施し計算資源を消費する予定である。

8. 新聞、雑誌での掲載記事

該当なし。