新粘性制御法による超並列ビット演算流体シミュレーション手法の開発
Development of a Fluid Simulation Approach by Massively Parallel Bits-operations with a New Viscosity Control Method
松岡 浩 (東北大学 電気通信研究機構)
Hiroshi Matsuoka
大規模並列ベクトル計算機上において高速計算性能を効率よく発揮できると考えられる“格子ガス法超並列計算手法”について、有限長円柱の後流に発生する3次元うずの数値シミュレーションを行い、既に先行研究で得られている実験結果やナビエ・ストークス解法によるシミュレーション結果等と比較することにより、実用的な大規模問題への適用可能性を評価する。 特に、これまで自主開発してきた超並列ビット演算による格子ガス法流体シミュレーションコードに対して、仮想粒子の衝突規則を変化させることによって格子点数を増やさずに流体粘性を変化させる新しい粘性制御法を組み込み、粘性が非常に小さい場合の高レイノルズ数(高Re数)大規模問題をどこまでシミュレーション可能かその限界を追求する。
新しい粘性制御法を組込んだコードで「有限長円柱の後流に発生する3次元渦」の模擬計算を行い、ナビエ・ストークス解法で模擬可能なRe数領域を超えたRe数領域を目指して、高Re数化の限界を追求する。
平成24年度は、本プロジェクトの最終年度であるので、シミュレーション可能な事象の高Re数化を大きく前進させるため、これまで流体粘性の制御法を組み込んでいたベースになる「格子ガス法超面心立方体(FCHC)格子 “24速度モデル”」を、“54速度モデル”に改良した。この改良により、流体粘性を小さくしてRe数を大きくすることができ、かつ、ナビエ・ストークス方程式との関係を理論的に考察しやすくなったので、Re数の定量的評価が可能になった。
具体的には、平成24年度の前半に、“54速度モデル”に関する調査・コード化・小規模な試計算を行い、年度後半から、改良モデルを用いて、有限長円柱後流の大規模計算を実行した。これまでに2000ノード時間積以上を消費し,研究計画を達成するという観点からは,十分ではないが必要最小限の計算結果を得ることができた。
これまで流体粘性の制御法を組み込んでいたベースになる「格子ガス法超面心立方体(FCHC)格子 “24速度モデル”」を,“54速度モデル”に改良した。この結果,仮想粒子の衝突パターンが多様化し流体粘性が小さくなってシミュレーション可能な事象のRe数を上げることができ,また,ナビエ・ストークス方程式の再現性をより高精度なものにして正確な粘性評価(従って,Re数評価)を行うことが可能になった。なお,この改良及び評価では,テキシャラ(C. M. Teixeira)が,彼の論文[※1] “Continuum Limit of Lattice Gas Fluid Dynamics, MIT, 1992”の中で示した方法を用いている。
高精度な流体シミュレーションを実現する方法のひとつとして,できるだけ人工的なモデルに頼らずに最小限のパラメータで直接的にシミュレーションを行うという考え方がある。この場合,注目している現象に影響を与えうる最小渦まで解像する必要があるので,非常に多数の格子点の配置が必要になる。従って,格子点の状態を特徴づける状態変数の時間発展計算が膨大なものになり,計算機能力の今後の飛躍的な向上を見込んでも,このような直接的な計算の実現は当面困難だと考えられている。他方,テキシャラによれば,「格子ガス法超面心立方体(FCHC)格子“54速度モデル”」を用いたシミュレーション計算では,状態変数の記憶とその更新をビット単位で行うため,ナビエ・ストークス方程式を差分法で解く通常のCFD解法と比べて,全ての状態変数を1/10程度の記憶容量で記憶でき,かつ,それらの時間発展計算に伴う状態変数の更新を100倍程度の速さで実行することが可能になる。従って,細部まで解像する必要がない低Re数状態の流れでは,格子ガス法による直接的なシミュレーションが近々実行可能になると期待でき,今後は,この手法を実用的な流体シミュレーションに適用すべく,シミュレーション可能な事象の高Re数化を追求する必要がある。
格子ガス法による高Re数化の第1の方法は,格子点のメッシュを細かくすることである。“54速度モデル”では,仮想粒子の平均自由行程がほぼ格子点間隔に等しくなり,Re数は代表長さを格子点間隔で除した値で大雑把に与えられる。今回,この値が192になる条件で,無限長円柱後流のシミュレーションを行い,カルマン渦の再現を確認した。
高Re数化の第2の方法は,各格子点における仮想粒子の粒子数・運動量・エネルギー保存則を破らずに衝突パターンを多様化することである。これにより,流体中の隣接した2点における仮想粒子の速度分布に関する同時刻の相互相関係数を下げて,流体粘性を小さくしRe数を大きくすることができる。これまでに開発してきた“多段2体衝突法”は,この1例に該当するものであり,今回,格子ボルツマン方程式からナビエ・ストークス方程式を導出する過程を数式的に詳細に追跡し,“多段2体衝突法”を組み入れても“54速度モデル”がナビエ・ストークス方程式に高い精度で一致する必然性を確認した。
高Re数化の第3の方法として,“負粘性発現衝突法”を開発中である。これは,仮想粒子の粒子数・運動量・エネルギー保存則を,個々の格子点レベルでは破ったとしても,疎視化する範囲の大きさと同程度の局所レベルではこれらの保存則を成立させながら,衝突則に負の粘性を発現させる衝突パターンを追加する方法である。これによってゼロに近い正の粘性を発現させることができれば,格子点数を増やさずに高いRe数領域の事象までシミュレーションできる可能性が生まれると思われる。今回,「静止流体における3次元渦の自律的発生とその維持」をスパコンシミュレーションにより実現できた。しかし,現時点で,理論的な妥当性を確認できず,当該考察を続行中である。
有限長円柱後流のシミュレーションについては,L/D=5(L円柱の長さ,D円柱の直径)の場合について,格子点メッシュの細かさを3種類変化させてシミュレーションを行った。この結果,格子点メッシュが一番細かいケース(3次元格子点数:約26.8億)で,先行論文([※2]“Vortex shedding from a circular cylinder of finite length at low Reynolds numbers”, Osamu Inoue and Akira Sakuragi, PHYSICS OF FLUIDS 20, 033601 (2008))に示された高精度なCFDによる計算結果のパターンに似た特徴をもつパターンの出現を確認した。また,波型せん断初期条件の緩和シミュレーションを行い,流体粘性が格子点メッシュの細かさでどのように変化するかを定量的に評価することができた。
(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100% / 複数の目標があった場合は,それぞれについて達成度を数値で記載)
85%
“多段2体衝突法”を組み込んだ「格子ガス法超面心立方体(FCHC)格子“54速度モデル”」を用いて,「有限長円柱の後流に発生する3次元渦」の模擬計算を行い,先行論文[※2]に直接示されているシミュレーション結果のRe数領域と同等以上の高いRe数領域におけるシミュレーションを実行できた点では,目標を達成している。また,この計算が,CFDとの比較で妥当なことについては,数式変形の追跡により理論的に確認しているので理屈上は問題ない。しかし,ノード時間積が十分あれば,もっと多くのシミュレーションケーススタディにより,定性的な比較ではあっても,無矛盾性を追加的に確認できたと思われる。また,上記の“負粘性発現衝突法”のさらなる考察も進めたかった。
平成24年末までに,グループ全体で2,000ノード時間積以上の利用(24年度の利用可能資源量は,2,600ノード時間積)を終えている。上記6に記載したとおり,これにより,研究計画を達成するうえで必要最小限の計算結果を得ており,今後の利用に支障はない。
(ベクトル化、 並列化チューニング等、 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載)
「格子ガス法超面心立方体(FCHC)格子 “24速度モデル”」は,平成24年度に,128ノード(1024CPU)で約96.8%という高い並列化効率を達成している。その一部改良版である今回の“54速度モデル”は,平成24年12月に行った1024CPUによるMPI並列計算で,良好なロードバランスを示している(最長のランク計算時間20304.2秒,最短のランク計算時間20303.6秒,平均ベクトル長255.86,ベクトル計算時間率99.89%)。
該当なし。
該当なし。