フラグメント分子軌道法を用いた薬剤耐性メカニズムの解析
Theoretical Study of Drug Resistance Mechanism Based on the Fragment Molecular Orbital Method
田中 成典 (神戸大学 大学院システム情報学研究科)
Shigenori Tanaka
フラグメント分子軌道(FMO)法に基づくタンパク質等の大規模電子状態計算および分子間相互作用解析を行い、インフルエンザウイルスの感染や変異の予測、薬剤やワクチンの設計、ならびにアミノ酸変異による薬剤耐性メカニズムの解析等を行う。
計算創薬の重要なターゲットであるインフルエンザウイルスタンパク質とリガンド分子等に対するFMO計算を実行し、大規模第一原理計算のパフォーマンスを示すとともに、現実の薬剤設計や感染症対策等にとって有用な情報を引き出す具体的処方箋を提供する。具体的には、
1) 従来実行が困難であった数千残基レベル以上の大規模FMO計算をルーチン化し、しかも高速化すること。
2) 電子相関もMP3(3次摂動)あるいはMP4(4次摂動)レベル以上、基底関数も6-31G*レベル以上の高精度の計算を目指すこと。
3) ExplicitあるいはImplicit法により周囲の水溶媒の効果を取り入れること。
4) 従来多くの場合で用いられてきたペア近似(FMO2)を超えた、FMO3、FMO4などの計算を試み、相互作用解析などにおける有効性を検証すること。
5) 静電場等の計算に関する多重極子展開等を用いた高速化を試みること。
6) 以上の計算を、地球シミュレータのマシン構成に合った並列化技術(MPIとOpenMPを組み合わせたハイブリッド並列化など)で効率的に実現すること。
などの目標を掲げ、地球シミュレータの能力(ベクトル計算演算、メモリ等)をフルに引き出す超大規模並列計算を実現することを目指す。これまでの計算実績から、様々な系でピーク性能の20%を超えるパフォーマンスを実現する目途も立っており、今年度はこれを種々の実応用系において実証する。
インフルエンザウイルスの膜タンパク質であるノイラミニターゼ(NA)と、その阻害剤であるタミフルの結合系の他に、他のリガンドに対する計算、さらには、ナノ-バイオ系の先行研究として、SiO2クラスターのイオン吸着に関しても試行的計算を行った。
インフルエンザウイルスの膜タンパク質であるノイラミニターゼ(NA)と、その阻害剤であるタミフルについて、FMO4-CDAM-MP2/6-31G計算を行った。高精度計算(FMO4)を行うことにより、通常よりもフラグメントをさらに細かく分割することができ、特に、リガンドを官能基ごとに分割、また、アミノ酸残基を主鎖と側鎖分割することで、高解像度の相互作用(IFIE)解析が可能となった。さらに、数種類のリガンド(タミフル、リレンザ)を用いて、リガンドごとの相互作用メカニズムを解析することに成功した。これらの計算結果は、論理的創薬へ有益な情報を与えることが期待される。
また、ナノ-バイオ系の先行研究として、SiO2クラスターのイオン吸着についてFMO4-IFIE解析を行った。
(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100% / 複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で記載)
全体として70%程度。
前期 : ソースコードの改良によるテスト計算(全体の1/5使用)
後期 : 本計算の実施(全体の4/5使用)
計画通りに利用を進めている。
(ベクトル化、 並列化チューニング等、 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載)
まず最初に記すべきなのは、ESセンターのご厚意によってFMO4計算の前処理として必要な有効テトラマーのタスクリスト生成が並列化されたことである。この改良により、昨年度のソースでは64ノード(512コア)使用して12時間以内に完走出来なかったNA-タミフル複合体(約360残基)のリガンド分割、及び、主鎖側鎖分割(707フラグメント)のFMO4-CDAM-MP2/6-31G計算を11.6時間で完走させることが出来た。
機能面では、FMO4計算がMP3レベルで可能になったことが大きい。MP3はMP2に比べるとメモリ要求が大きく、OpenMPによる省メモリ化が本質的だが、演算カーネルはDGEMMなので、ES2ではMP2に対する計算コスト増は1.3倍ほどで済む。また、スケーリング修正したMP2.5はCCSD(T)に匹敵する実用的信頼性を有するので、今回FMO4-MP3がOpenMP/MPI複合並列で実装されたことは応用上の価値が高い。
もう1つ追記すべきは、FMO4計算が扱えることになったことで、モデリング手法の高度化により大型のクラスターを使った計算も出来るようになった。今年度は、石英などの鉱物の基本骨格を形成するシリカ(SiO2)を例に取り、シリカ表面へのペプチドやイオン(ナトリウムや塩素)の吸着相互作用のシミュレーションを行った。FMO法はこれまでは、創薬などの生化学や生物物理化学の文脈で使われてきたが、今後は地球科学分野での応用も期待される。
該当なし。
該当なし。