平成24年度 地球シミュレータ利用報告会

地球環境変化に伴う海洋生態系変動の診断と予測に関する研究

発表資料 (1.4MB)

1. プロジェクト名

地球環境変化に伴う海洋生態系変動の診断と予測に関する研究

Study on the Diagnostics and Projection of Marine Ecosystem Change Associated with Global Change

2. プロジェクト責任者名

岸 道郎 (海洋研究開発機構 地球環境変動領域 物質循環研究プログラム)

Michio Kishi

3. プロジェクトの目的

空間解像度や複雑さの異なる複数の海洋生態系モデル、海洋大循環モデルを用いて、現在の気候条件における生態系変動再現実験、及び、温暖化気候における将来予測実験を行う。これら実験を通して、

  • 中規模海洋現象の生態系への影響
  • 季節~年々変動に対する生態系変動の変動特性の定量化
  • 現在気候から温暖化気候における生態系の将来予測
  • 海域による海洋生態系の違いや卓越種の再現を目指した生態系モデル開発
  • を実施する。
     観測データによる結果の検証、モデル間相互比較を通じて、将来予測の高精度化を目指すとともに、沿岸域から外洋まで含んだ水産資源の将来予測へのデータ提供を目指す。

    4. 今年度当初の計画

    平成24年度は、OFESによる高解像度の優位性を生かし、物理変動が生態系・物質循環に及ぼす影響に着目した研究を進め、また、革新プログラムによる現在気候再現、温暖化気候予測研究の進展を受け、海洋生態系変動実験を実施する。北極海を対象とした領域海洋生態系モデルのさらなる開発も進める。

    (i) 高解像度海洋大循環モデルを用いた海洋生態系・物質循環研究

    OFESモデル(1/10度)を用いて化学トレーサー分布や海洋生態系が物理変動、特にメソスケール(数km)の海洋現象に対しての応答を中心に調べるとともに、海氷過程を含む渦許容解像度OFESモデル(1/2~1/4度)を用いて、化学トレーサーに加え、生態系、栄養塩循環を含む物質循環モデルの開発を進める。更に、北太平洋における観測データを用いて、これまでの物質循環モデルの改良、生態系・物質循環に関するパラメータ依存性を調べる。

    (ii) 海洋生態系プロセスモデリング

    海洋生態系構造の海域による違いや植物プランクトンの卓越種、さらにその卓越時期などといった生態系の指標となる事項の再現などを目指した数値実験を、COCO-NEMURO, COCO-MEMモデルをベースとして実施する。これにより、海洋生態系モデルの改善を試みながら、生態系変動のプロセスを研究する。平成23年度に引き続き国際プロジェクトであるMAREMIPに参画・連携しながら、今年度は特に全球規模の海洋低次生態系の将来予測実験の相互比較を実施し、IPCC第五次報告書に貢献を目指す。また、昨年度、近過去~温暖化気候における生態系変動予測実験に着手したが、今年度は実験を継続し完了するとともに、予測精度向上についてパラメータ実験を実施する。さらに食物連鎖構造に重点を置いた生態系モデルを開発するために、窒素安定同位体比(SI: Stable Isotope)を組み込んだ北太平洋亜寒帯域の生態系モデル(COCO-NEMURO_15N-SI)の開発を進める。

    (iii) 北極海を対象とした海洋生態系モデルの開発と北極気候システム研究

    既存の海氷海洋結合物理モデルCOCOに現在開発中である北極海仕様の生態系モデル(Arctic Marine Ecosystem Model)を組み込み、海氷縁後退に伴う海洋生態系の応答を物理的側面と生物化学的側面の両方から明らかにしていく。平成23年度までに、西部北極海を対象とした渦解像版と北極海全域を対象とした中解像度版にそれぞれ現実的な大気境界条件を与えた予備的な実験を行っており、平成24年度はさらなる高精度化に着手する予定である。区分4で採択された場合は北極海全域を対象とした水平解像度約25 kmの海洋生態系モデルでハインドキャスト年々変動実験を行い、植物プランクトンの動態(基礎生産/サイズ組成)の海盆スケールでの変動過程を明らかにしていく。また、メソ動物プランクトン(カイアシ類)に着目した各種感度実験を行い、季節的な鉛直移動など固有の動態が植物プランクトンを底辺とするボトムアップコントロールに及ぼすインパクトを見積もる。区分3で採択された場合は区分4での実施内容に加えて、西部北極海を対象とした水平解像度約2.5 kmの渦解像モデルを駆動し、ベーリング海峡から流入する太平洋起源水が陸棚海盆間の渦輸送を介して生物生産に及ぼすインパクトを評価する。平成23年度までに暖水渦が海盆域の基礎生産を促進することを明らかにしており、引き続きこの解析を進めるのと並行して、冷水渦が陸棚海盆間の物質輸送に果たす役割にも着目する。

    5. 研究計画に沿った利用状況

    今年度は区分3の利用申請を行ったが、区分4で採用されたので、申請書に記載した通り北極海モデルに重点を置いて計算を行った。当初の利用計画案では

    • 北極海全域を対象とした中解像度モデルによる年々変動実験 (約1,600ノード時間)
    • COCO-NEMURO_15N-SIモデルによる実験 (約500ノード時間)
    • OFES-物質循環モデルに炭酸系を組み込みテスト計算(約500ノード時間)
    • であったが、北極海全域モデルの高解像度化に着手したこともあり(後述)、OFESテスト計算用の約500ノード時間も北極海の実験に割り当てた。動植物プランクトンの動態に関する研究の一部は別途ボックスモデルを開発することで利用資源の節約を行った。これは本課題でも深く関わっている科学研究費補助金・基盤(S)「北極海の海氷激減 –海洋生態系へのインパクト-」のプロジェクトにおいて、北極海カナダ海盆域に設置しているセディメントトラップの時系列観測結果を早急に検証するための戦略であり、当初区分3で予定していた実験をさらに拡張する形で試験的に実施した。但し、区分4で行える実験はかなり限定的であり、画期的な成果を創出するにはやはり区分3以上の資源が必要である事情は否めない。また本課題では、国際的枠組みで行われている海洋生態系モデル比較プロジェクトMAREMIP phase1 (MARine Ecosystem Model Intercomparison Project)に提出するデータを作成するために、約500ノード時間を利用して全球温暖化実験も行った。

      6. 今年度得られた成果、および達成度

      成果

      本課題では、北極海の海氷縁後退に伴う海洋生態系の応答を物理的側面と生物化学的側面の両方から明らかにするために、北極海を対象とした物理生態系結合モデルの開発を行っている。今年度は特に沿岸流・渦活動・湧昇などの背景物理場が低次生態系に果たす役割を明らかにするために、北極海全域を対象とした水平5-km格子の高解像度大循環モデルを整備し、陸棚海底起源の栄養塩の海盆域への拡がり等を議論できる体制を整えた。それに関連して、西部北極海に多く存在する中規模渦が基礎生産に及ぼす役割について論文や複数の学会で報告した。他国で運用されている3次元生態系モデルの殆どは背景物理場の水平解像度が数十kmと粗く、海盆スケールの循環場でさえ再現性が十分とは言えない。その点、本研究で用いる北極海モデルは世界最高レベルの解像度で実装されており、渦から大循環に至るまで幅広い空間スケールで物理場と生態系の関係を議論することができるため、今後より多くの成果が期待される。 一方、海洋生態系プロセスモデリングにおいては海洋生態系モデルMEMを用いて、海洋低次生態系の過去再現実験(1985年~2006年)を行った。 この結果を踏まえて、MAREMIPの枠組みの中で、全球規模で海洋クロロフィル極大層、ならびにその表層クロロフィル量との関係を、他のモデルと比較した。時間変動は多くのモデルで同様な傾向を示したが、空間変動においてはモデル間でばらつきが見られた。また、国際学会であるASLO (Association for the Sciences of Limnology and Oceanography)による2012 Aquatic Sciences Meeting(7月8日、大津)において、セッション”Modelling Biogeochemical and Ecological Functions in Aquatic Ecosystems”を提案および開催することで、上記の結果を国際的に報告した。

      達成度

      (年度当初の研究計画を全て達成した場合を100% / 複数の目標があった場合は、それぞれについて達成度を数値で記載)

      上述したように、本課題の全体計画を少し見直し、区分3で予定していた実験を一部区分4の資源で可能な限り実施することで、区分4の範囲内では100%達成できたと言える。

      7. 計算機資源の利用状況

      計算機資源の利用状況

      区分4で割り当てられた資源を年度内に使い切る形でほぼ予定通り利用できた。

      チューニングによる成果

      (ベクトル化、 並列化チューニング等、 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載)

      本課題は継続課題であり、昨年度までにベクトル化、並列化チューニングなどの作業はほぼ終えているので、今年度は各ソースプログラムを引き継ぐ形で実験を行った。

      計画的に利用できていない場合、その理由

      該当なし。

      8. 新聞、雑誌での掲載記事

      JAMSTEC機関誌ブルーアース120号「温暖化に直面する北極域生態系の急変」(2012年12月刊行)
       において本課題で行った計算結果を紹介した。