平成24年度 地球シミュレータ利用報告会

全球雲解像モデルを用いた雲降水プロセス研究

発表資料 (2.9MB)

1. プロジェクト名

全球雲解像モデルを用いた雲降水プロセス研究

Study of Cloud and Precipitation Processes Using a Global Cloud-system Resolving Model

2. プロジェクト責任者名

佐藤 正樹 (海洋研究開発機構 地球環境変動領域/東京大学 大気海洋研究所)

Masaki Satoh

3. プロジェクトの目的

全球の雲・降水現象の正確な将来予測のためには、現在気候における全球的な雲降水現象のプロセス解明が極めて重要である。本課題では、全球雲解像モデルNICAMを用いた数値実験を行なうことにより、日から季節程度の時間スケールの降水現象における主要な雲・降水プロセスを明らかにすることを目的とする。この目的のために長期積分(半年程度)および最高解像度を用いた短期積分(数日から週)を複数ケース実施し、現在進行中の大規模な国際観測プロジェクト(YOTC[*1], AMY)と連携しつつ計算結果の定量的評価を行なう。また、雲・降水に関連する物理スキームの大幅な更新も実施する。得られた計算結果について、観測の他これまでに行なった計算結果も有効利用して比較検討することにより、プロセス解明およびモデルの精度向上を推進する。

4. 今年度当初の計画

今年度当初は以下の研究計画を立案した。計算は総て全球非静力学モデルNICAMを用いて行う。

1) gl11L40 3日積分 x 2ケース : 4,800ノード時間積

目的: 全球雲降水特性の衛星比較検証
 1) では昨年度までに台風の事例を対象とする計算を標準実験として行い、雲物理変数に関する感度計算も実施して、衛星観測データとのとの定量比較を行ってきた。本年度は感度計算を追加し(物理過程アンサンブル)、これまでに得られた知見を強化する。

2) gl10L40 2ヶ月積分 x 2ケース : 12,000ノード時間積

目的: 熱帯季節内変動(観測プロジェクト対象)

3) gl09L40 2ヶ月実験 x 5ケース , 1ヶ月実験 x 8ケース : 13,500ノード時間積

目的: 熱帯季節内変動(2.の参照実験および感度実験, 理想化実験)
 2), 3)では季節内振動/マッデンジュリアン振動(MJO)を対象とする国際集中観測(YOTC,CINDY)の推奨ケース・2004年夏季の比較実験ケースの中から選定した事例について行い、季節内変動の再現性の評価や解像度依存性の調査に用いる。MJOの進行のメカニズムを解明するための「水惑星実験」も昨年度に引き続いて行う。

4) gl09L40 3ヶ月実験 x 2ケース , 1ヶ月実験 x 5ケース : 8,250ノード時間積

目的: 物理過程に関する感度調査・精緻化
 4) では雲降水に関係する物理過程の全球的な影響を正しく評価しモデルの改善を行うために欠かせない一連の計算を行う。

5. 研究計画に沿った利用状況

今年度は、国際的に季節内振動/MJOを対象とする研究が例年にない盛り上がりを見せた。まず、JAMSTECが中心となって実施した国際集中観測プロジェクトCINDY2011[*2]期間中(2011/10/1-2012/1/31)に非常に良好なMJO事例が連続して発生し、国内外の学会で特別セッションが設けられ、初期解析結果が報告された。この観測を対象とする再現計算を早急に行う必要があった。また2008年~2010年にかけて行われた国際集中観測YOTC期間中に発生したMJOを対象とするモデル比較プロジェクトが実施され、提出用の計算データを年度初めに作成する必要があった。いずれも昨年度から準備計算を行っていたが、これらのプロダクト計算の質をより高めるために計算資源を集中投入し、雲物理過程に関する感度計算もこの中の1事例を対象として行った。以上の事情から、衛星観測データとの比較による雲物理の感度計算に関しては、これまでに行った台風事例に関する計算データを用いた解析を進めて論文化し(2本投稿、うち1本受理)、追加計算については上記を優先させることとした。「水惑星実験」に関する研究も昨年度に引き続き計画通り実施した。

6. 今年度得られた成果、 および達成度

成果

熱帯では,東西数千キロスケールに組織化された雲群が30-60日程度かけて東進するMJO ( Madden and Julian 1971)が季節内の変動の大部分をもたらしており、またその影響が日本などの中緯度にまで伝播することが知られている。MJOの再現・予測が1ヶ月予報などの中期予報を行う上で重要であるが、現象の理解が不十分であるために世界各国の数値モデルによるMJOの予測スキルは未熟で、再現される変動の構造にも大きなばらつきがある。この問題に対処するために、世界のモデル機関が条件を揃えてMJOを再現する比較実験を行っている(YOTC のMJO非断熱加熱比較プロジェクト )。当研究課題では地球シミュレータを用いてこのプロジェクトへ参加することを当初から計画しており、計画通りに計算データを揃えて提出した。積雲対流を陽に解く全球非静力モデルとしては世界で唯一であり、特にオリジナリティの高い貢献を果たしている。また、本実験の結果は京コンピュータにおいて現在進行中のMJO予報実験の重要なたたき台となっている。 MJOに伴う対流活動の活発化(オンセット)はインド洋で起こることが知られているが、その過程やメカニズムはまだよく分かっておらず、MJOに関する最も本質的な課題の1つである。MJOのオンセットのメカニズムを明らかにする目的で行われた国際集中観測CINDY2011では、全球雲解像モデルを用いた観測後方支援・再現計算による共同体制がとられ、地球シミュレータを用いた高解像度計算は当初からプロジェクト計画に組み込まれていた。CINDY2011集中観測期間中には10月後半と11月後半に連続して顕著なMJO事例がインド洋で活発化し、歴史的な事例となった。その後も西太平洋において対流活動の活発な状態が持続し、科学的に貴重な観測データが取得された。当課題では、昨年度末からこれらのMJO事例の再現計算に取り組んできた。その結果、10月後半に発生したMJO事例について、MJOの国際標準の評価指標(Real-time Multivariate MJO Index, Wheeler and Hendon 2004)において極めて良好な再現性が確認された。しかし、シミュレートされた雲降水の振る舞いについて観測に照らして詳細に吟味すると、系統的なバイアスが見られた。そこで雲微物理過程に着目した感度計算を行い、大規模な雲集団の振る舞い(東進)とそれに付随して発生するメソスケールの擾乱(台風など)の応答を詳しく調べた。地球シミュレータの能力を駆使して多数の計算を行った結果、前者については雪・霰の量と落下速度、後者については雨(・霰)の落下速度が鍵となることが分かった。さらに、雲氷から雪、雪から霰への変換率の温度依存性、雲氷から霰の変換率などに敏感であることも分かり、これらに調整を加えてプロダクト計算を実施した。一連の計算から得られた知見により、雲降水過程や雲物理スキームの解像度依存性に関する理解が大幅に進展し、他の計算にも適用することができた。 熱帯域の雲降水は、上述のように大規模な集合体(MJO)やメソスケールに組織化された形で存在し、複雑な階層構造をなす。組織化した雲降水システム(降水系)を伝播性の観点から分類し、基本的なメカニズムを理解する目的で「水惑星実験」を行ってきた。東西方向に伝播する降水系は、(i) 速度15 - 25 m s-1で東進するスーパークラスタ(SC)、 (ii) 速度10 m s-1以下で東進する MJO、(iii) SCと同等の速度で西進する降水系、の三つに分けられる。SCやMJOに比べ、西進する降水系に関する研究は少ない。西進する降水系の形成機構については以下の2つの解釈がある。 (A) 東西にスプリットする降水系の片割れ (e.g., Yoshizaki 1991a, 1991b)、(B) 熱的に変形した赤道波動 (e.g., Wheeler and Kiladis 1999, Kiladis et al. 2009)。どちらが妥当かを調べるために、東西一様で南北分布をもつ理想化された海面水温を与え、地球の自転(Ω)の大きさを変える実験(現在の地球の自転の大きさを基準に0から3までの範囲)を行った。水平格子56kmのNICAMを用いて80日積分を行い、主に降水量や東西風など赤道に対する対称モードに着目した解析を行った。その結果、Ωを大きくすると東進する降水系はより組織化して大きなスケールの構造をもつが、伝播特性に関しては西進する降水系とSCに殆ど差異が見られなかった(15 - 25 m s-1)。この結果は、西進する降水系は東西にスプリットする降水系から作られることを示唆する。

達成度

(年度当初の研究計画を全て達成した場合を100% / 複数の目標があった場合は,それぞれについて達成度を数値で記載)

1), 2) 60%
 3) 100%
 4) 100%

7. 計算機資源の利用状況

計算機資源の利用状況

年度当初から順調に計画した計算を進め、2012年12月末現在で、31,000ノード積を利用済である。残りの計算資源は、CINDY2011対象のプロダクト計算について、よりよい結果を得るための調整を重ねつつ取り置いたものであり、年度内に使い切ることは確実である。

チューニングによる成果

(ベクトル化、 並列化チューニング等、 計算機資源を有効利用するために行ったこととその効果を記載)

昨年度より理化学研究所計算科学研究機構の複合系気候科学研究チームと共同でNICAMの計算効率のチューニングを実施している。これは計算科学研究機構の京コンピュータを主な対象とするが、その一部、例えばメモリアクセスの最適化(不要なメモリコピーの削減等)は地球シミュレータでも効力を発揮しうるものである。チューニングの計算結果への影響を精査した上で、地球シミュレータでの計算にも反映させることを計画している。

計画的に利用できていない場合、その理由

該当なし。

8. 新聞、雑誌での掲載記事

2012年9月18日 : 日本経済新聞「大気の渦重なり台風に」

略語

*1: YOTC: Year of Tropical Convection
 *2: CINDY2011: Cooperative Indian Ocean experiment on intraseasonal variability in the year 2011

引用文献

Kiladis, G. N., M. C. Wheeler, P. T. Haertel, K. H. Straub, and P. E. Roundy, 2009: Convectively coupled equatorial waves. Rev. Geophys., 47, 1-42.
 Madden, R. and P. Julian, 1971: Detection of a 40 – 50 day oscillation in the zonal wind in the convection sitropical Pacific. J. Atmos. Sci., 28, 702-708.
 Wheeler, M. and G. N. Kiladis, 1999: Convectively coupled equatorial waves: Analysis of clouds and temperature in the wavenumber-frequency domain. J. Atmos. Sci., 56, 374-399.
 Wheeler, M. C. and H. H. Hendon, 2004: An all-season real-time multivariate MJO index: Development of an index for monitoring and prediction, Mon. Wea. Rev., 132, 1917-1932.
 Yoshizaki, M., 1991a: Selective amplification of the eastward- propagating mode in a positive-only wave-CISK model on an equatorial beta plane. J. Meteor. Soc. Japan, 69, 353-373.
 Yoshizaki, M., 1991b: On the selection of eastward-propagating modes appearing in the wave-CISK model as tropical intraseasonal (30-60-day) oscillations. - Linear response to localized heating moving in the east-west direction on an equatorial beta plane. J. Meteor. Soc. Japan, 69, 595-608.