更新:2004年11月01日
大淵 済(大気・海洋シミュレーション研究グループリーダー)
この研究は、地球シミュレータセンター、地球環境フロンティア研究センター、そして世界中の大学との共同で行われています。
図1: 10kmメッシュ全球大気大循環シミュレーションから得られた、降水量の3時間平均値。上は全球、下は日本から東アジアにかけての拡大図。(クリックすると大きな図が見られます。)
図2: 0.1°メッシュ準全球海洋大循環シミュレーションから得られた、水深100mにおける流速の瞬間値。上は全球、下は北大西洋域の拡大図。寒色ほど遅く、暖色ほど速い。(クリックすると大きな図が見られます。)
2004年は、天気予報の100周年記念です。1904年にノルウェーの気象学者ビヤクネス (V. Bjerknes) が、“Das Problem von der Wettervorhersage, betrachtet vom Standpunkt der Mechanik und der Physik”(力学及び物理学から見た天気予報の問題について)を発表しました。方程式が一つも書かれていないこの論文には、次の事が分かっていれば天気予報は可能であろうと記述されています。1) ある時間において、十分な精度の大気の状態を把握している事。2) 十分な精度で大気状況の進化の法則を把握している事。この記述は、100年後の今もまだ参考に出来る正しい理論で、現業予報センターでは精度の改善をしています。
第一回目の天気予報はリチャードソン (L. F. Richardson) により、電子計算機、数値積分法に関する重要な理論及び、大気のデータの初期化技術の出現以前である、第一次世界大戦中に行われました。リチャードソンの試みは完全に失敗に終わりましたが、彼はその結果を1922年に発表し、気象予測はいつの日か可能になるであろうと記述しました。その彼の観点は『リチャードソンの夢』と呼ばれました。
初めて成功した、数値を用いる天気予報は、1950年に“ENIAC” (Electronic Numerical Integrator and Computer) と呼ばれる電気計算機を使って、チャーニー (J. G. Charney) とフヨルトフト (R. Fjörtoft)、そしてフォン・ノイマン (J. von Neumann) によって行われました。その後、1956年にフィリップス (N. A. Phillips) が初めてコンピュータを使った大気大循環の再現に成功しました。それ以来、『数値実験』は現代の気象学にとっては必要不可欠となり、天気と気象システムのよりよい理解を深めるため、貢献することとなりました。
現在、私たちは地球シミュレータを使用することにより、大気と海洋循環についてのどのような事が分かるようになるのでしょうか?私たちは、AFES(大気大循環)、OFES(海洋大循環)、CFES(大気・海洋結合)と呼ばれる、超高解像度の大循環モデルを使用しています。おそらく、私たちが行った10 kmメッシュの大気循環の地球規模シミュレーションは、計算気象学の歴史において初めてのものです。他の機関では、若干解像度が高いものの、数年間に留まるシミュレーションが行われていますが、我々は、0.1度メッシュの全球規模の100年間の海洋循環シミュレーションを行っています。このような長期の数値実験により、表面近辺の海洋循環の気候や統計状態を高い確信をもって研究することがついに可能となりました。
より高い解像度が、必然的により良いシミュレーションや深い理解につながるわけではありません。超高解像シミュレーションの結果図を見て、人々は「綺麗で素晴らしいです。けれど、現実を再現していますか?」とおっしゃるでしょう。実際には我々も、常に同じ事を自問しております。シミュレーションにおいて何が起こっているのか理解するために、データ分析や観測の結果を用いて実証することは非常に困難な仕事であります。しかしながら我々は、この超高解像シミュレーションが、観測よりもより多くの情報をもたらすと実感しています。大気と比較して海洋の場合はその情報の差はもっと大きいと思われます。我々の海洋シミュレーションの図には、海流の微細構造が表れています。
海流についての4次元(経度、緯度、深さ、及び時間)観測は海洋内部、特に亜表層(海面下)では非常に困難なので、我々のシミュレーションが真実かどうかを証明することは非常に難しいのです。しかしながら我々は、現時点ではシミュレーションが海洋循環の4次元構造の詳細を得る最新の手段の一つであろうと思っています。
大気シミュレーションの1つの図は、人工衛星のイメージのように見えるかもしれません。しかし、これらの図は私たちの超高解像シミュレーション結果です。けれども、これらのシミュレーションにより私たちは、鉛直速度や非断熱加熱などの、実際には観測することが困難な変数を含む、大気循環の4次元構造の詳細を得る事が出来ます。人工衛星を使ったとしても、これほどの量の情報を得ることはおそらく非常に難しいでしょう。
我々は、これらの超高解像度大気・海洋シミュレーションが、きっと仮想大気・海洋となり得ると考えています。地球シミュレータの仮想大気・海洋シミュレーションでは、実際の観測よりも多くの情報が得られる可能性があります。観測によるシミュレーションの実証を行いながら、大気と海洋循環についてより理解を深めるために、我々は超高解像シミュレーションの結果から新たな観測が必要になるということを推定したいと思っております。我々は、観測とシミュレーションの間にある情報のフィードバック・プロセスが大気・海洋科学において、より深い理解につながる突破口への糸口だと信じています。
大気と海洋シミュレーションは100年もの歴史があります。我々は今、地球シミュレータを使う事により、シミュレーションが観測と同一かそれ以上の情報をもたらすという段階にいます。現在我々は、仮想の大気と海洋を地球シミュレータで作り出せると信じています。観測とシミュレーションは相互的であり、気象と海象さらには気候システムでのより深い理解へとつながると信じております。地球シミュレータは大気・海洋科学において、次世代へのドアを開きつつあります。