Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment (MSSG)

Last Update : 2012.01.10

大気・海洋大循環モデル

複雑性シミュレーション研究グループでは非静力学・大気大循環モデル、および非静力学、静力学のそれぞれに対応できる海洋大循環モデル、 および陸面、海氷モデルを結合した新しい結合モデルをスクラッチから開発しています。 高い計算性能と高い計算精度をもつ本結合モデルを用いて、自然災害を中心とした気象、気候変動現象を再現し、 または予測の精度を向上させることへの貢献をおおきな目的としています。
大気、海洋モデルとも、全球、あるいは領域を対象としたシミュレーションが可能です。全球シミュレーションには、 地球シミュレータセンターにおいて独自に開発されたYin-Yang(陰陽)グリッド(Kageyama and Sato,2004)を採用しています。 この格子系は二つの対称領域を重合して構成される格子系であり、従来広く用いられてきた緯度経度メッシュより面積の最大最小の差が小さく、 極点の特異性も回避できるという利点があります。また、全球と領域モデルともに、同一のシミュレーションコードとして実装できる利点があります。
大気、海洋モデルともに超高解像度でのシミュレーションを前提としていることから,雲微物理モデル,乱流モデルとしてスマゴリンスキータイプの Large Eddy Simulation model (LES)モデルを導入していることなどが,特徴として挙げられます. 加えて,さらに高度な雲微物理モデルを開発するために京都大学小森研究室と共同研究をすすめるとともに, 計算手法として,移流計算において非常に精度が高いことで知られるCIP法(Cubic-Interpolated Pseudo-Particle Scheme)の導入を,東京工業大学矢部研究室東京工業大学肖研究室との共同研究によって推進しています.
本グループにおいて開発した、この新しい大気、海洋、大気海洋結合モデルのそれぞれについて、 地球シミュレータの性能を最大限に引き出せるように、領域の分割のしかた、データ交換手法や情報交換の量やタイミング、 超並列計算に耐えうる計算性能を実現するための並列化手法、ベクトル化手法を駆使しています。

非静力学・大気大循環モデルおよび非静力学/静力学・海洋大循環モデルの主な仕様を次の表にまとめて示します。

大気モデル 海洋モデル
方程式 完全圧縮Navier-Stokes方程式 非圧縮Navier-Stokes方程式
鉛直方向力学バランス 非静力学バランス 非静力学バランス/静力学バランス
流体厚さ(深さ)近似 浅い大気
水平グリッドシステム Yin-Yangグリッド、Voronoi Reducedグリッド Yin-Yangグリッド
鉛直座標 Terrain-following (z*)座標 高度(z)座標
変数配置 水平 Arakawa-Cグリッド Arakawa-Cグリッド
鉛直 Lorenzグリッド配置 Lorenzグリッド配置
移流計算 5次有限差分、3次CIP-CSLR 5次有限差分
非移流計算 4次有限差分 4次有限差分
時間離散化 4次/3次Runge-Kutta 4次/3次Runge-Kutta,Leap-Frog
音波 HEVI (splitting explicit)
積雲パラメタリゼーション 修正Kain-Fritschスキーム
雲微物理過程 Reisner.et.al(1998):Qr,Qc,Qs,QciとQg
太陽短波放射と流体長波放射 簡易版
乱流輸送 Smagorinskyスキーム Smagorinskyスキーム
境界層モデル MRF PBL(Hong-Pan)
陸面過程 bucketモデル
ネスティング(※) 1-way,2-way 1-way,2-way
対象領域 全球,領域 全球,領域

(※)ネスティングは、大気大循環モデル、海洋大循環モデル、大気海洋大循環モデルとも、オンラインの計算で、 one-way、two-wayのいずれかを選択して用いることができます。大気海洋結合モデルとして、大気と海洋を全球同士で結合することが 可能であり、さらに、着目する領域として、細かい解像度の領域との結合モデルとしてシミュレーションすることも可能です。

海氷モデル

本研究グループでは、東京大学応用流体工学研究室(山口一教授)との共同研究を通して、 山口研究室で開発された海氷モデル:Distributed Mass/Discrete Floeモデル(以下DMDFモデル)を、 本研究グループで開発した非静力学/静力学・海洋大循環モデルと統合し、非常に高い解像度における気象、 気候変動現象のシミュレーションを通して、海氷がどのような役割を果たしているかを解明することを目的にモデル開発、 およびシミュレーションを進めています。

海氷モデルは、海氷の生成や消滅のプロセスを扱う熱力学モデルと、 移動や変形のプロセスを扱う力学モデルとの2つのモデルを連成させています。DMDFモデルの特徴は、海氷の力学モデルにあります。 力学モデルは、内部応力の表現によっていくつかのモデルに分けられます。 例えば海氷を粘塑性体(Viscous-Plastic)、または弾・粘塑性体(Elastic-Viscous-Plastic)とし、 内部応力を海氷の歪みあるいは歪み速度から求める連続体モデルと海氷を氷盤(Floe)の集合とし、 個々の氷盤の衝突や接触をモデル化して内部応力を扱う個別要素モデルです。連続体モデルは、広い領域を扱えますが、 海氷の離散的な特性が表現できません。一方、個別要素モデルは、海氷の離散的な特性は表現できますが、 計算機の能力によって扱うことができる氷盤の数が制限され、広い領域を扱うことが困難です。 そこで、連続体モデルと個別要素モデルの問題点を克服する海氷モデルとしてDMDFモデルが開発されました。 DMDFモデルでは、氷野を氷群に分割し、氷群内には同じ大きさの氷盤が均質に並んでいると仮定し、 氷群の衝突による力の伝達を運動量保存式から決定します。このモデルでは、海氷の離散的な特性を表現しつつ、 広い領域を計算対象とすることができます。

(東京大学応用流体工学研究室ホームページより引用)

UCSS都市キャノピーモデル

UCSS (Urban Climate Simulation System)都市キャノピーモデルは、 (独)建築研究所(足永靖信研究室) で開発された都市特有の熱的特性効果を取り入れたキャノピーモデルです。 都市域における熱的特性を示す要素を下図に示します。本研究グループでは、足永靖信研究室との共同研究を通して、 都市の熱的効果を取り入れた、全球とも統合可能なメソスケールモデルを開発しています。 さらに、このメソスケールモデルを本研究グループで開発している大気海洋結合モデルに統合し、 全球から都市スケールまでを扱えるようなモデル開発に繋げてゆきます。こうしたアプローチによって、 近年着目されている都市型集中豪雨の原因やなりたち、 また、防災対策などへの応用も視野に入れたシミュレーション予測を目指します。

UCSS都市キャノピーモデルを特徴付ける構成要素
(提供:建築研究所 足永靖信氏)

結合モデル

本研究グループで開発した非静力学・”大気大循環モデル”と非静力学/静力学・”海洋大循環モデル”を結合して、大気・海洋結合モデルとしてシミュレーションを行うことが可能です。

本研究グループの大気・海洋結合モデルで用いている大気・海洋相互作用のモデルの簡略図を示します。

大気の熱・風・降水による影響が海洋へ、海洋の表面温度が大気へ、というように大気と海洋は相互作用情報を交換します。 大気は熱や風によって海水の温度や流れに影響を与え、 また、降水によって塩分濃度に影響を与えます。 その結果、海洋表面の混合過程が影響を受けて流れが変化する、などが考えられます。 さらに、この影響を受けて海洋の表面温度 が変化すると、その変化が直接大気へ伝わる、あるいは、海面から蒸発する水蒸気量が変化することによって大気が影響を受ける、 などの過程を通して大気と海洋は相互に影響を及ぼしあっています。 この大気と海洋の相互作用が、気象や気候変動現象の予測シミュレーションに大きなインパクトを与えることが知られています。

しかしながら、熱や風、降水による海洋への影響、あるいは、海から大気への影響を表現するモデルが、まだ、十分に 自然現象を捉えているとは考えにくいのが現状です。例えば、風が海洋へ与える影響は、 ’静かな’大気の状況を仮定した パラメータが用いられていますし、そのモデルも、現在よりずっと低い高解像度のシミュレーションを前提としたモデルです。

そこで、本研究グループでは、高解像度でのシミュレーションを前提とした、 大気・海洋相互作用のモデル化に取り組んでいます。京都大学・小森悟研究室との共同研究を通して、 実験とシミュレーションの2つの側面から、大気海洋相互作用を捕らえます。どのようなモデル化を行うべきか、 また、そのモデルを用いることによって、気象・気候変動予測にどれほどのインパクトがあるのか、というテーマを中心に研究を進めています。

ネスティング

本グループで開発している

のいずれのモデルも、研究の目的や着目するテーマによって、全球モデルとしても、 領域モデルとしても、選択してシミュレーションすることが可能です。

特に、大気や海洋単体モデルとしても、大気海洋大循環モデルとしても、 全球と領域とにおいて異なる解像度で設定することが可能です。また、ひとつの領域に限らず、 複数の領域に詳細な格子を設定することも可能です。

全球、あるいは領域ごとに解像度が異なると、異なる格子間での物理量のやり取りに注意を払わなければなりません。 例えば、領域の境界上の物理量(質量やエネルギー)の保存には、選択する計算手法や情報交換のやり方を考慮に入れて、 詳細な検討が必要になります。従来、one-way、 two-wayと呼ばれる情報交換も、対象とする現象によっては十分とはいえません。

どのような計算手法や情報交換手法が必要か、また、望ましいのか、の検討も含めて、研究を進めています。

大気と海洋間の情報交換に加えて、解像度の異なる格子系間の情報交換も重要