第67回 ESCセミナー

2010年猛暑をもたらした北極振動の極性反転に対する大西洋SSTの役割

日時
2012年9月5日 (水) 15:00-16:00
場所
横浜研究所 シミュレータ研究棟1階 会議室
講演者
大富 裕里子 (三重大学 大学院)
使用言語
日本語

要旨

2010年の夏は,日本を始め,ロシアやヨーロッパで記録的な猛暑になった.対照的に,2009/2010年の冬は,記録的な負の北極振動が現れ,とても寒い冬だった.Ogi et al. (2004) によって初めて定式化された夏の北極振動 (SVNAM) インデックスによると,北極振動の負の傾向は5月頃まで続き,7月頃に大きく正に反転し,8月の初めまで正の状態が続いた.北極振動の強い負から強い正への急激な反転と,2009/2010年の寒い冬から2010年の暑い夏への変化はよく一致している.本研究は,Otomi et al. (2012,Climate Dynamics) に基づいた研究であり,2010年の北極振動が強い負から強い正へ反転した原因を解明し,猛暑を早い段階から予測することを目的としている.

我々は冬の負の北極振動が夏の北極振動に影響を与えるまでの仮説を立てた.冬の負のNAOは低緯度・高緯度北大西洋のSST を冷やさない傾向にあることが知られている.
2009/2010年の冬の強い負の北極振動も,低緯度・高緯度北大西洋のSSTを非常に高い状態に保ったと考えられる.海の熱容量が大きいので,SSTが高い状態は春まで続いたと考えられる.SSTが暖かいと春から夏にかけて逆に海洋が大気を暖め始める.その影響により,ヨーロッパ域で高気圧が形成され,ジェット気流の蛇行が起きる.ジェット気流の蛇行からブロッキング高気圧が形成され,正の北極振動の気圧配置が固定され,長く高気圧に覆われた日本やロシア,ヨーロッパで記録的な猛暑を引き起こしたのではないか,という仮説である.今回は,この仮説を確かめるために,北極振動が連続的に正だった期間の7月10日から8月4日までの26日間平均と,2010年1月から8月の各月の大気場と海洋場を解析し,2010年7月の大気場を用いた線形モデル実験を行った.

データ解析ではほぼ仮説通りの結果が得られ,仮説の一連の流れを確認できた.しかし,北大西洋域の正のSST偏差がヨーロッパ域の高気圧に影響を与えたという繋がりが曖昧であった.低緯度・高緯度北大西洋域での潜熱顕熱フラックス偏差は冬と春の間,下向きで,大気が海洋を暖めていたが,夏からは上向きを示し,海洋が大気を暖めていたことがわかった.そこで,線形モデル実験を行い,北大西洋の熱とヨーロッパ域の高気圧偏差との関係を調べた.線形モデルで,2010年7月の非断熱加熱偏差を与える実験を行ったところ,北大西洋域のみの加熱分布を与えると,ヨーロッパ域に高気圧偏差が現れた.
ユーラシア大陸のみの加熱分布を与える実験も行ったが,同様な結果は得られなかった.これらの結果は,2010年の夏に形成されたヨーロッパ域の高気圧偏差が,北大西洋域の熱によって形成されたことを示唆する.このヨーロッパ域の高気圧偏差が北極振動を正に反転させたと考えられる.ヨーロッパの高気圧偏差の形成要因をさらに詳しく調べるためや,2010年以外の年への応用のためにGCMを用いた解析を今計画している.

問い合わせ先

地球シミュレータセンター
大淵 済
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