梅雨(中国ではメイユ)は東アジアに初夏現れる降雨期である。梅雨季の大気循環について記述した研究や、
メソスケール対流システムについての研究は過去多くあるが、気候平均的な梅雨降水帯の形成要因について、大規模場
の気候力学に基づき議論したものは少なく、本研究ではこのような立場から、梅雨降水帯の形成について解析した。
梅雨降水帯に対しては、下層の南西風による水蒸気供給、亜熱帯高気圧の軸、地表低圧部と水平風速シア、強い相当
温位勾配などが重要と考えられてきたが、これらの特徴には梅雨降水の結果も含まれている。実際、線形傾圧モデル
(LBM)に梅雨を模した凝結加熱を与えると、応答として東西に伸びる地表低圧部、水平風速シアと南側の南西風強化、
降水帯における上昇流などの特徴がみられた。
そこで本研究では、梅雨降水帯とジェット気流の位置の相関に着目し、梅雨形成の力学について解析した。LBMの風
速応答が弱い対流圏中層について、JRA-25再解析データを用いて熱力学バランスを調べたところ、梅雨降水帯は中層に
おける水平暖気移流の領域とよく一致していた。降水に伴う非断熱加熱は暖気移流によってバランスできない事、LBM
応答に加熱域と一致する水平暖気移流が見られない事からして、この暖気移流が梅雨降水の結果とは考えにくい。
そこで、下層が暖湿である条件の下、中層の水平暖気移流が上昇流を励起することで対流活動を活発化させ梅雨降水帯
が形成する、という仮説を提示する。この中層暖気移流は、チベット高原南縁付近に6月形成する高温域の下流に、ジェ
ット気流に沿って形成していた。対流活動に伴う非断熱加熱は上昇流を強化するフィードバックをもたらすとともに、
梅雨に特徴的な循環偏差を生じさせる。一方SSTの低い日本東方海上では対流活動が抑えられるため、上昇流はあまり強
化されない。
また、ジェット気流に沿い伝播する移動性擾乱も降水帯の形成に寄与することが考えられる。平均的な大気安定度から
すると、梅雨降水帯よりその南方の方が対流が起きやすいはずだが、擾乱に伴う温度変動や水蒸気量変動は北緯30度以北
で大きいため、対流をトリガーしやすいと考えられる。実際、安定度と中層温度移流の確率密度分布は、強い不安定・中
層暖気移流の両方が発生する確率は、梅雨降水帯で大きくなることを示している。