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JCOPE による福島第一原子力発電所からの放射性物質の海洋拡散シミュレーション

2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故により、多くの放射性物質が含まれる水が海洋へ流入したと言われています。JCOPEグループでは、日本沿海域の海流予測システムの結果を利用して、海洋に流入した放射性物質の広がりについてシミュレーションを行っています。福島第一原子力発電所の事故発生後の3月21日からこれまでに、放射性物質が海洋表面をどのように広がってきたかの再現計算を行うとともに、1ヶ月程度先までの予測実験も試みています。これまでに得られた結果の一部は、文部科学省からの合計5回プレス発表されています。その後も、新たに観測されたデータをモデルに取り込み、再現計算の更新を行うとともに、予測計算も継続しましたが、2012年6月をもって計算を終了しました。

この間にJCOPEグループの行った予測計算の経緯は、以下の論文にまとめられています。

宮澤泰正, 升本順夫, 2012: 2011年福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の海中輸送シミュレーション, シミュレーション(日本シミュレーション学会誌), 31, 227-233. 原稿PDF

また、JCOPEグループを含む様々な研究グループが行った再現・予測計算の相互比較結果は、以下の報告にまとめられています。

日本学術会議 総合工学委員会 原子力事故対応分科会, 2014: 東京電力福島第一原子力発電所事故によって環境中に放出された放射性物質の輸送沈着過程に関するモデル計算結果の比較, PDF

このページでは、JCOPEグループの研究成果の社会還元の一環として、過去に行った放射性物質の海洋拡散シミュレーション結果を表示しています。なお、この放射性物質海洋拡散予測実験活動の一部は、財団法人海洋生物環境研究所からの受託事業となっていました。

注意:このページをご覧頂く方にはJCOPEモデルの詳細も合わせてご覧頂くことを強くお願い致します。JCOPEモデルの特徴をご理解頂くとともに、モデル結果は幾つかの仮定や近似の下で得られたものであり、結果の適用には限界があることに十分ご注意下さい。

●JCOPE モデルの詳細

JCOPEモデルについては、「概要」ページをご覧下さい。

●JCOPE による海流、水温、塩分の分布

最新の海況場の予測と過去の予測結果は、「JCOPE2 解析/予測結果」ページをご覧下さい。

JCOPE による海洋拡散シミュレーションを行うにあたり、文部科学省の「海域モニタリング行動計画」に基づいて当機構等が行っている海洋観測で得られたデータもモデルに取り込み、福島沖での流況場の再現性と予測精度の向上に有効利用しております。

●放射性物質の拡散シミュレーションの説明

放射性物質の拡散シミュレーションには、数値モデルの中で仮想粒子を流して追跡する粒子追跡法を用いています。流れの場にはJCOPE2 により計算された最新結果を用い、JCOPE2 モデルで再現することが難しい微小擾乱の影響は、ランダムウォーク(酔歩過程)拡散として考慮しています。拡散シミュレーションはヨウ素131、セシウム134、およびセシウム137 を対象にしており、各放射性核種の半減期も考慮しています。

放射性物質の濃度分布は、数値モデルの各格子内にある仮想粒子の持つ放射能強度と粒子数から擬似的に診断しています。拡散計算を行う際に必要となる各仮想粒子が投入時に持つ放射能強度は、東京電力が福島第一原子力発電所の放水口付近で行っている観測のデータを用いて与えており、仮想粒子はJCOPE モデルの中で福島第一原子力発電所に最も近い格子に配置しています。

現在の拡散シミュレーションでは、福島第一原子力発電所付近で直接海洋に流入したと考えられる放射性物質の挙動のみを扱っています。この他に、一度大気中に放出されたものが降水等とともに海面に降り注ぐ分もありますが、現段階では考慮していません。

●最新計算結果

JCOPE2を用いた拡散シミュレーションの結果の1例として、セシウム137について2011年3月21日から2012年6月中旬までの挙動を示したものが下の動画です。

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拡散シミュレーションの結果では、福島沿岸域での放射性物質は局所的な風の影響を強く受けながら沿岸付近を南北に移動し、その後次第に東へと広がって行くことが示されています。沿岸から50km程度沖合で南へ流された放射性物質は、黒潮に取り込まれて急速に東へと流されることも分かります。その後は、黒潮と親潮に挟まれる混合水域の複雑な流れや中規模渦と呼ばれる直径数百キロメートル程度の渦に伴う流れによって、希釈されながら広域に分布するよう になります。

福島第一原子力発電所から直接海洋へ流入した放射性物質は8月末には日付変更線付近まで達しているものの、広域に広がった海域での濃度は高いところで 0.1-0.5 Bq/L 程度となっています。1月末には、0.1-0.5 Bq/L 程度の海域は東経155度付近よりも東へと移動しています。また、日本南岸の放射性物質の影響の少ない海域から流れて来る黒潮は、本州東方海域では白い筋のように現れ、この海域での放射能を希釈する役割を果たしています。

2012年の3月以降は、0.1 Bq/L 程度の値が分布している海域が徐々に東へと移動して行き、6月になると放射性物質の多くは日付変更線を越えるようになることが分かります。しかしJCOPE2モデルでは、日付変更線以西をシミュレーション対象海域としているため、放射性物質がどこまで広がっているかは、他のモデル結果を参照して頂く必要があります。一方日本近海では、黒潮や親潮の影響により、福島第一原子力発電所から流入した海面付近の放射性物質はほとんど無くなって来ている結果となっています。

(2012年6月をもって計算を終了しました)

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