平成16年7月27日
海洋研究開発機構

南極海の深層水の流れを地球シミュレータで再現に成功

概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の地球環境フロンティア研究センター生態系変動予測研究プログラムの笹井義一研究員、石田明生研究員と山中康裕サブリーダー及び地球シミュレータセンター大気・海洋シミュレーション研究グループの佐々木英治研究員の研究チームは、地球シミュレータを使用した超高解像度海洋大循環モデルOFES(注1)を用いて、フロンの輸送シミュレーションを実施し、南極大陸周辺の深層水の流れの再現に成功した。

この成果は、Geophysical Research Letters の本年度Vol. 31に掲載された。

背景

大気に放出された二酸化炭素がどれだけ海洋に吸収されるのかは、地球温暖化問題と関連して重要な研究テーマとなっている。南極沿岸では、南極底層水(注2)といわれる水が形成され、二酸化炭素はその水に吸収されて太平洋や大西洋へ大規模に広がることから、海洋大循環と呼ばれる地球規模の循環を数値モデルによって再現し、どのように物質が運ばれるかを調べることは重要な課題である。深層における流速の観測は容易でないため、フロン(注3)など化学物質の分布、輸送を調べることが有効であることが知られており、多くの研究グループによって数値シミュレーションがなされてきたが、モデル結果は非常に大きなばらつきを示し、観測結果の再現は十分ではなかった。これまでのシミュレーションでは、計算機容量の制限から粗い格子間隔でしか計算できず、詳細な海流構造を表現できなかったことが問題として挙げられ、細かい格子間隔を持つモデルを用いたシミュレーションが待たれていた。

成果

上記の背景を考慮して、地球シミュレータの特性を生かし、水平解像度約10kmの超高解像度海洋大循環モデルのOFES(Ocean General Circulation Model for the Earth Simulator)を用いて、フロンの輸送シミュレーションを実施し、南極大陸沿岸のウェッデル海で生成される深層水の輸送経路を調べた。シミュレーション結果は観測結果とよく一致し(図1)、またウェッデル海から南大西洋に広がる深層水の経路として、スコシア海を経由する経路と、南スコシア海嶺に沿って東に向かう2つの輸送経路があることを示した(図2)。すなわち、地球シミュレータを用いた超高解像度海洋大循環シミュレーションにより、これまで十分表現できなかった詳細な流れをよく再現し、また海嶺や海山など深層水の経路に影響する複雑な海底地形を現実的に解像できた(参考1)。この成果は海洋大循環の研究に大きく寄与することが期待できることから、今後は海洋大循環の変動が影響する地球温暖化を含む気候変動のさらなる研究に貢献するものと考えられる。

問い合わせ先

海洋研究開発機構
地球環境フロンティア研究センター 担当:太田
Tel:045-778-5687 Fax:045-778-5497 URL:
http://www.jamstec.go.jp/frcgc/jp/
地球シミュレータセンター 企画調整室 担当:山田、柏野
Tel:45-778-5760 Fax:045-778-5490 URL:
http://www.jamstec.go.jp/esc/
総務部普及・広報課 担当:山西、五町
Tel:046-867-9066 Fax: 0468-67-9055 URL:
http://www.jamstec.go.jp/


注1:
超高解像度海洋大循環モデルOFES:Ocean General Circulation Model for the Earth Simulatorの略で、地球シミュレータを用いて海流や渦、地球規模の大循環を研究するために開発された海洋モデルである。米国地球流体研究所で開発された海洋シミュレーションプログラムMOM3(Modular Ocean Model)をベースに、地球シミュレータセンターと地球フロンティア研究システム(現:地球環境フロンティア研究センター)が共同で開発した。海洋では代表的な渦の大きさが水平方向100kmのオーダーであり、運動量や熱の輸送に大きな役割を担っている。その渦を再現するために水平方向の解像度を約10kmと非常に細かく取り、同時に海洋全体をシミュレーションするために両極を除く全球を計算領域とした。OFESによるシミュレーションでは、日本南岸を流れる黒潮に代表される海流の流路から、100kmのオーダーの比較的小さなスケール渦まで良くシミュレーションされている。

注2:
南極底層水:主にウェッデル海で形成される水温0度以下の世界で最も高密度な海水。 大量の熱や物質を輸送する海洋大循環の一部で、北大西洋北部で形成される北大西洋深層水とともに、2つの主要な二酸化炭素の吸収源と考えられている。

注3:
フロン:フロンは非常に安定であるために、オゾン層の破壊や地球温暖化などで大きな問題となっているが、安定に存在し追跡ができることから、大気や海洋における物質の輸送を調べるのに適したトレーサーとして知られている。大気に放出されたフロンは、わずかながら海洋に吸収され広がっており、その分布を調べることは、人為起源二酸化炭素の海洋への吸収や海洋循環による輸送を調べる上で重要なテーマとなっている。