
平成9年10月1日に地球フロンティア研究システムが発足しました。丁度その頃、エルニーニョ現象が空前の強さに達し、インドネシア、オーストラリアの乾燥と南米の多雨をはじめとする異常気象が、世界各地から報じられ始めました。12月初旬には、地球温暖化に対応する行動の記念すべき第一歩となる京都議定書が難産の末にまとまりましたが、森林による二酸化炭素吸収をカウントするネット方式が採用され、科学的に最もあいまいな部分を含めたことが事態収拾の鍵となるという、研究者にとってはいささか釈然としない結末となりました。
地球フロンティア研究システムは、このような地球規模の環境の自然変動・人為的変化の予測を実現することを目標とした研究実施のシステムとして、生まれました。その基礎となったのは、平成8年7月に出された、科学技術庁の航空電子等技術審議会・地球科学技術部会の報告「地球変動予測の実現に向けて」です。そこでは、近年の日本の地球観測の飛躍的拡大と世界トップレベルに到達した高速計算機技術を背景として、地球規模観測、全地球環境のコンピューターモデリング、個別過程の基礎研究を三本柱として相互にフィードバックさせ、総合的に推進することによって最終目標である地球変動予測を実現することが提言されています。その中の個別過程研究を担うものとして地球フロンティアが計画され、宇宙開発事業団(NASDA)と海洋科学技術センター(JAMSTEC)の共同プロジェクトとして実現の運びとなりました。
地球変動研究は、当然ながら、全世界の研究者の協力が不可欠です。既に世界気候研究計画(WCRP)、地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)が実行されており、日本の研究者も参加しています。本システムは、発足の時から、日米パートナーシップに基づく地球変動研究での協力を計画の中に折り込み、ハワイの国際太平洋研究センター(IPRC)、アラスカの国際北極圏研究センター(IARC)という海外拠点での研究を日本の地球変動研究所(IGCR)での研究と統合して、目標の実現を図っていきます。両研究センターも平成9年10月に発足しました。また、ほぼ同時にアメリカ海洋大気庁(NOAA)によって推進されて来て、最近設立された気候予測国際研究所(IRI)とも連携を図っていきます。
本システムは現在、気候変動予測、水循環予測、地球温暖化予測、モデル統合化(次世代気候モデル)の4つの研究領域を置いて、それぞれの領域長の指導の下に研究を行っています。また、IPRC、IARCにおける研究もそれぞれに研究プログラムを作り、そのディレクターが研究を統括します。地球温暖化予測研究領域長には、地球温暖化研究をはじめ、コンピューター・モデルによる気候研究のパイオニアであり、世界のトップランナーである真鍋淑郎博士(プリンストン大学客員教授)が40年ぶりに日本に帰られ、就任されました。昨年行った研究者の公募に際しては、国内外から多くの応募があり、海外を含め充分期待できる人材を当初予定以上に採用することができました。
平成9年10月1日に発足したばかりですから、本格的研究はこれからですが、既に専任研究者44名、兼任研究者39名が決まり、それぞれに活動を開始しています。
本システムの特色は流動研究員制度を採用している事です。すなわち、全研究者が任期つきの契約研究員で、研究の進捗状況に応じて契約の更新が行われ、また、年齢、キャリアのみでなく研究者の能力やプロジェクトでの必要性に応じて、それにふさわしい待遇をする、という方式です。日本の社会全体が終身雇用、年功序列制度から、個人を重視した流動性のある実力主義の雇用体系へ転換することが必要と言われ、特に研究者の社会でそれが重要であるとの論が盛んですが、まだ実現には時間がかかりそうです。一足先に、新方式を行うわけですが、何しろ初めての試みであり、周囲の大学や研究機関がこれまでの制度を続けている中ですから、それとうまく調和させ、新しい制度の長所を充分に生かして研究者が満足して力一杯研究できるようにする方途を探って行くつもりです。
平成10年はフロンティアがいよいよ本格的に活動を開始します。水循環領域の研究に重要な役割を果たすGAME(GEWEX アジアモンスーン研究観測計画)の重点観測が夏季モンスーンの時期に行われ、それへの参加も考慮して平成9年11月に打ち上げられた熱帯降雨観測衛星(TRMM)からは、史上初の宇宙からの降雨レーダー映像が送られて来ています。熱帯太平洋域の海洋と大気の変動を常時監視するトライトン・ブイの敷設も始まります。新年を、地球フロンティア研究システムが目標に向けエンジン全開でテイクオフする年にしたいと願っています。
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