| FRONTIER Newsletter No.12 Oct.2000 |
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地球フロンティア研究システム 気候変動予測研究領域 領域長 山形 俊男 |
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早いもので地球フロンテイア研究システムはこの10月に創設3年目を迎える。 ここでは気候変動予測研究領域がこの間に進めてきた海洋気候研究のなかで、特にインド洋熱帯域のホットな話題について紹介する。 今年の夏は暑かった。1994年ほどではないが、記録に残る年であることは間違いない。初夏ごろまでは太平洋熱帯域には昨年来のラニーニャの傾向が残っていて、季節が明瞭に現れることは想定されていたが、これほどまでに暑い夏になるのは予想外であった。9月の時点で太平洋の熱帯域では暖水偏差が日付変更線を超えて中央部太平洋にまで及んでおり、この冬から初春にかけて寒気の吹き出しが西太平洋に西風のバーストを引き起こすならば、新たなエルニーニョが起きても不思議ではない状況にある。来年はまた違った夏を経験することになるであろう。われわれは気候変動を日々の気象の変化としてしか体感できない。 その意味でも異常気象と気候変動の間のスケールギャップをつなぐ研究はますます盛んになるはずである。 ところで日本の夏には(故)新田 東大教授の提唱した大気圧分布に現れるP-Jパターンとその変動が重要である。このパターンはフィリッピン周辺海域における大気の上昇域とその北東部に位置する日本周辺の下降域から構成され、今年の夏のように西太平洋熱帯域の水温の影響を受ける。しかし最近のわれわれの研究では、大気の変動を通して、遥かかなたのインド洋熱帯域の水温にも影響されることがあることが明らかになりつつある。1994年はこのような状況にあったと考えられる。一方で、インド洋の海面水温は太平洋の現象に依存するとこれまで考えられてきたが、Vinayachandran, Saji, Behera博士らの精力的な貢献で、インド洋熱帯域には独自の大気海洋結合現象が存在し、それが状況によっては西太平洋や東アジアの夏の気候にも影響を及ぼすことが明らかになって来た。このインド洋の大気海洋結合現象は東西に双極構造をもつ海面水温偏差と両者をつなぐ東西風の偏差からなっている。いわばインド洋のエルニーニョともいうべきものである。そこで昨秋、IOD (Indian Ocean Dipole)、すなわちインド洋のダイポールと名付けてネーチャー誌に発表した。CLIVAR/WCRPなどの国際会議でも新しい視点を提供したものとして多いに議論され、海外の気候研究者から賞賛されたのはわれわれの研究グループにとり、大変勇気づけられることであった。この現象についても、エルニーニョや南方振動に関する研究論文が数え切れないほどあるように、より長期の気候変動や古環境の分野なども含めて、広く展開してゆくであろう。
海洋衛星による海面高度データや、トライトンブイなどによる現場の水温、塩分などのデータ、篤志観測船によるXBY, XCTDデータなどをリアルタイムで適切に大気海洋結合モデルに入力するシステムが完成するならば、インド洋熱帯域の海洋気候変動と大気のテレコネクションに伴う気候変動の予測が可能になる。インド洋周辺諸国、東アジア、極東アジアはもっとも人口稠密な地域であり、このシステムが社会へ及ぼす影響には計り知れないものがある。 さらに太平洋、インド洋、大西洋のそれぞれの予測システムを結合すれば、真の意味でのTOGA (熱帯海洋と全球大気)計画が完成し、農業、漁業、水資源管理、防災、国土計画、保健問題などの応用面でも国際社会に大きな貢献をすることになる。Vinayachandran博士との共同研究で海洋大循環モデルを用いて、過去のIODインデックスを再現することができたこと(図1)、また防災科学技術研究所の松浦室長、飯塚研究員(地球フロンテイア研究システム兼務)らとの共同研究で、IODを大気海洋結合大循環モデルの中に再現できたことは、この方向に大きな一歩を進めることになった。 気候変動予測研究領域では様々な階層のモデルもようやく整備され、内外の優秀な若手研究者が集合して、研究のみならず文化的な国際交流も日常的に行なわれるようになっている。気候変動研究をリードするコスモポリタンをつぎつぎに輩出するCOEをめざして行きたいと考えている。
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図1 海洋大循環モデルを用いて再現したダイポールモードの指標(青色)。黒線は観測データから求めた指標で両者はよく符合していることがわかる。 トペックス衛星の海面高度計から求めた類似の指標は赤い線で示している。 |
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