長江下流域梅雨観測研究

地球観測フロンティアでは、地球変動のプロセスを明らかにするために、地球フロンティアと緊密な連携のもとに研究が進められています。今回は、水循環観測研究領域耿驃サブリーダーに長江での観測研究やその今後の展望について語って頂きました。




耿 驃(Biao Geng):地球観測フロンティア 水循環観測研究領域



国南東から日本列島にかけて活動する梅雨前線帯は、マルチスケールの雲・降水システムから構成され、その活動は、アジアモンスーン地域のエネルギー・水循環の重要な担い手であり、その振る舞いを解明することは気候システムの変動を理解するうえでも重要である。

 梅雨期の長江下流域は、南方からの活発な水蒸気の輸送活動を受けやすい地域であり、この地域での雲・降水過程は日本の異常気象及び気候変動にも影響を及ぼす。観測フロンティア雲・降水グループでは、長江下流域において、ドップラーレーダー、バイスタティック受信機、ウィンドプロファイラー、自動気象観測ステーション、マイクロレインレーダーなど高密度の観測網を構築し、梅雨前線帯における降水システムへの水蒸気輸送と降水システムの3次元構造及び発達過程を主な対象として梅雨前線の観測的研究を行っている。


写真:2001 年7 月6 日の夕方、観測領域内で発生した梅雨前線に伴う降水システムの写真。このシステムにより比較的強い降水(時間降水量約30mm )が観測された。


 本観測研究は、平成13 年度と14 年度の2 年にわたって集中観測を実施する。平成13 年度に実施された集中観測は、太平洋高気圧の張りだしが特異な年に当たったおり、梅雨前線帯における降水システムを多数観測することができ、そのメカニズムを理解する上では貴重なデータが得られた。今年とは異なる気圧場になると予想される来年度の観測とあわせて、長江下流域での降水システムの形成過程の解明が期待される。

 本観測研究で得られた降水システムに関する現象解明の成果と高解像度の観測データは、地球フロンティアで進めているメソスケール(数km 〜数百km )降水システムを直接取り扱う5km メッシュの全球気候モデルの開発と改良に寄与し、モンスーン地域の気候変動とそれに伴う異常気象の予測へ向けた地球シミュレータに大いに貢献することが期待される。


 16 時06 分(地方時)の標高1.5km における、3 台のドップラーレーダーデータを合成して得られた降水システムの風と反射強度の水平分布。 反射強度は、値が大きいほど強い降水があることを示す。◎が写真に示すレーダの場所で、破線で囲まれた陰影部分が写真で見える範囲に 対応する領域である。

 写真の黒い雲に対応するのは、南西−北東に伸びたバンド状の形態を持つ降水システムの南端部分であり、大きな反 射強度の領域で水平風の収束が見られることから、このシステムが上昇流を伴って発達しつつあることがわかる。




沼口サブリーダーの急逝を悼む

 観測フロンティア水循環領域広域グループにおいて、各地の降水・陸水の採取と同位体分析を行い、これとGCM による水蒸気輸送計算とを併用するという画期的方法を用いて、大気・水圏を巡る水の循環像を解明しつつあった沼口敦サブリーダーは、6 月30 日に北海道において遭難された。観測・理論・計算の全てが一流の稀有の才能が37 歳で突然逝かれたのは惜しんでも余りある。

 シベリアからインドネシアに至るまさに広域の採水観測のインストールの殆どを完了し、今まさに成果を出そうという矢先であった。謹んで御冥福をお祈りするとともに、研究員らと共に彼の遺志を継いで研究を完成させる所存である。
(地球観測フロンティア研究システム 水循環予測研究領域グループリーダー 山中大学)

 沼口さんは、気候モデリングに関しても地球フロンティアの研究にとっても大の恩人であった。彼とは、1984 年東大で学部生として進学して来てからのつき合いであるが、登山や天文観測の好きな自然愛好家である一方、彼は数理物理的知識に優れ、コンピューターや情報技術に関して抜群の才能に恵まれていた。

 新任の住助教授の指導の下に気象庁から移植されたAGCM を改造して可変性を持った使い易い気候モデルを作る仕事に取り掛かり、国立環境研究所に移ったあと完成させた。この沼口さんの力作は、現在CCSR/NIES モデルとなって地球フロンティアでも利用しており、さらにこれの高解像度版を開発して「地球シミュレータ」上で地球温暖化実験を行う予定である。
(地球フロンティア研究システム システム長 松野太郎)


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