数千キロも続くハワイの島陰
ー衛星観測による発見ー

 「島陰」ー島が風を遮ることにより出来る風の弱い場所。これがハワイ諸島の西に存在し、日本南方海域の海流に影響を与えていることが明らかになりました。解析に携わった国際太平洋研究センター(IPRC )野中正見研究員に、概要について再度詳しく解説していただきました。





野中正見*、謝尚平(*地球フロンティア研究システム、ハワイ大学国際太平洋研究センター)



が風を遮ると島陰に風の弱い部分が出来る。世界中のどんな島のものよりも長く、3 千キロもの彼方まで続いているハワイ諸島の島陰(例えば図の赤色の帯)が、NASDA 等のいくつもの地球観測衛星のデータを組み合わせた研究から明らかとなった。その影響は海にも現れ、細い海流がアジアからハワイへ向けて約8千キロも続いている。日本南方に東向きの海流があることは以前から知られていたが、今回の研究からこの海流の一部が数千キロも遠く離れたハワイに高く聳える山々によって作り出される可能性が示唆された。

 これまでの観測では、このような島陰は300km ほどの範囲でしかみられず、ハワイの影響が西太平洋まで届くとは考えられなかった。しかし、ハワイ附近では、風が定常で山が高いなどの条件が揃うため、以下のような大気と海洋の相互作用によって、ハワイ諸島の影響は遠くまで維持される。

海表面水温と海上風の図
温度差カラーバー

(Reprinted with permission from “Far-Reaching Effects of the Hawaiian Islands on the Pacific Ocean-Atmosphere System”, Shang-Ping Xie, W.Timothy Liu, Qinyu Liu, Masami Nonaka ,Vol.292, No.5524, 15 June 2001, 2057-2060, Figure 3 (left) , 2059. Copyright American Association for the Advancement of Science.)

図:海表面水温(カラー、℃)と海上風(矢印、m/s )。南北規模の小さい現象を明確に示すため、南北方向に緩やかに変化する成分を取り除いてある。ハワイ諸島から西へ温かい海域が3000 キロ以上続いている(経度10 度が約1000 キロ)。
 また、温度が高い海域に向かって風が吹き込む様子が見える。この領域では全体的に西向きの貿易風が吹いている(その成分は除去してある)ので、東向きの矢印は風の弱い所に相当する。

拡大図を見る


 一連の現象は、西向きの貿易風が太平洋の真ん中のハワイ諸島にぶつかることから始まる。標高4169m のマウナロア(ハワイ島)をはじめとする山々が貿易風を遮ると、ハワイの島陰に風の弱いところと、島の脇に風の強いところが出来る。この風の強弱の組み合わせには東向きの細い海流を作る働きがある。この海流が西太平洋に広がる温かい海水を運ぶため、西太平洋からハワイまで温かい水が細く帯状に伸びる(図中赤色の帯状分布)。この上では空気が暖められて上昇気流ができ、雲が形成される。上昇気流に南から吹き込む風(図の矢印)は周りより弱く、新しい風の強弱ができる。これがまた海流を作る働きをしながら何千キロにも渡って西へ広がって行くのである。

 この様なハワイ風下の風の強弱、温かい海水の帯、その上の雲、そこへ吹き込む風といった現象が、海面水温、風、雲などを観測する日米共同の熱帯降雨観測衛星(TRMM )をはじめとして、高い解像度で海表面近くの風を観測するNASA のQuikScat など、いくつもの衛星によって観測され、この現象の仕組みが明らかにされた。

 大気と海洋がお互いにどれだけ強く影響しあうのか、その強さがエルニーニョなどの気候変動や、地球温暖化の問題を理解するための重要な鍵になる。今回の研究で、僅か0.2 〜0.3 度ほどの小さな水温の変化が風の強さや向きを変えることがわかった。これは大気と海洋の結びつきが考えられていたよりもずっと強いことを物語っている。この結果は、今後気候変動予測の精度向上に応用されていくことが期待 される。

 この研究では世界地図ではほとんど目につかない小さな島が、地球上で最大の海の半分以上にわたって影響を及ぼすという大変不思議な現象をとらえることができた。これまでの主に船による観測に加え、衛星観測技術の発達によって、今回のように新しい海洋観が生まれようとしているのではないであろうか。


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