京都議定書と今後の温暖化対策の行方

地球温暖化現象に関する政府間交渉が進められています。今回は、真鍋淑郎地球温暖化領域長と、真鍋領域長の友人であり、地球フロンティアを訪れた、カナダの元気象庁長官にあたられるゴードン・マックビーン氏に京都議定書や地球温暖化の展望についてお話を伺いました。








マックビーン氏と真鍋領域長
ゴードン・マックビーン博士(左)と真鍋領域長(右)

ゴードン・マックビーン博士

現在、カナダ西オンタリオ大学地理学・政治学部教授。元カナダ気象庁長官。全球エネルギー水循環研究計画(GEWEX )、北極圏気候システム研究計画(ACSyS )、気候変動予測研究計画(CLIVAR )など、数々の国際プロジェクトの立ち上げに関わる。国際北極圏研究センター(IARC )や宇宙開発事業団の評価委員も務めている。
司会:本日は、貴重な機会をありがとうございます。ドイツのボンで地球温暖化の対策として京都議定書の発行に関する取り決めが協議されましたが、今日は温暖化の研究、対応等に関与してこられたお二人にご意見を伺いたいと思います。まず初めに、京都議定書の有効性について、ご意見をお聞かせいただけますか?

マックビーン:私の考えでは、京都議定書は正しい方向性を導く第一歩だと思います。私達は、大気中にある二酸化炭素を安定させるために、さまざまな行動をとらなければいけません。二酸化炭素の排出量を現在の50 %まで削減することを考慮すると、京都議定書だけでは、まったく十分ではないのですが、現在、多くの国で合意が得られている取り決めがこれだけであることを考えると、有意義なスタート地点であると思います。

真鍋:ディック・リンツェンはいつも例え京都議定書に挙げられているすべての事柄を実行したとしても、その効果は小さいと言っていますね。

マックビーン:それはそうかもしれません。でもここで考えなければいけないのは、京都議定書の効果は今世紀の大気中の二酸化炭素の排出量を制限するのではないということです。しかし、政府がこの議定書で何らかの行動を起こす事を考えると、京都議定書第2 弾、3 弾、4 弾があると考え、何らかの効果が期待されます。

司会:国連気候変動枠組み条約が設定されたときにも、同じような意見を聞きました。京都議定書が良いスタート地点であるとすれば、それは、問題を解決するのに、十分なのでしょうか?

真鍋:国際的な条約で、目標を設定し、それが守れず、それが当たり前になってしまった時には、心理的にも悪影響を及ぼさないでしょうか?カナダの場合は、特に、北アメリカ自由貿易協定(NAFTA )も考慮にいれて、アメリカやメキシコが同意していない、議定書の義務をどう守っていくかを知る必要があると思いますが。

マックビーン:気候会議とその他の条約の関係を考える必要があります。一般的にこれらは、まだ別々に扱われることが多いのが現状です。排気ガス、生態系の減少、気候変動などの環境問題は、すべて関係しています。もっと広い視野での分析、調査が必要です。

司会:日本とカナダはどのようにしてこの議定書を本国で普及、実行できると思いますか?

真鍋:日本政府は省庁が京都議定書を実行するための予算編成を考えているようです。しかし、二酸化炭素排出量削減目標達成の為の綿密な計画を立てる事は非常に困難であると思います。議定書を実行するための行動計画を立て、そのコストを予測するのは非常に大きな作業ではないかと思います。

マックビーン:カナダは毎年国レベルで行動計画を立てています。短期の詳細を調査し、排出量削減のマクロ経済の分析を行います。一般的な結果は、コストを最小限に抑えるために、政府が国内の二酸化炭素排出量取引の管理を行うというものでした。しかし、実際は、この議定書をどのように州レベルで実行するか、はっきりとした事は決まっていません。

真鍋:国によって、定められた目標を達成できる難しさがかなり異なります。カナダと日本は、他の国に比べて、達成が難しいとされています。アメリカが議定書から離脱した今、カナダはとても難しい立場にいるのではないでしょうか。

マックビーン:ヨーロッパ連合は特に京都議定書の取り決めを議定書終結の前に実行できていました。ドイツは東ドイツ経済との統合により、排出量を削減するのはとても容易でしたし、イギリスは気候会議以前に石炭から天然ガスにエネルギーを転換していました。同時に、オーストラリアの排出量は8 %増加が認められています。彼らはこの取り決めを森林と農業の管理を最初に行い、最終的には石炭、石油の消費量に手を加えることで実行できると考えています。カナダが森林を二酸化炭素吸収率に含めるべきだと主張したのは、ここにも原因があります。しかし、オーストラリアが8 %増加に対し、カナダの場合は、日本と同じように6 %の削減です。アメリカはこの問題は彼らには関係のないことだと言っています。彼らは、議定書への同意は考えていないのですから、当然ですね。カナダと日本は実際に行動を起こさなければいけないのです。

真鍋:次回の会議が行われるモロッコのマラケッシュでは、目的を達成できなかった場合の罰則を決めるようですね。罰則を厳しくした場合、目標をもう少しゆるくする必要が出てくるかもしれません。目標の調節と国際条約に何らかの意味を持たせるための罰則の調節を考えるべきでしょう。

マックビーン:気候会議では罰則を執行する国際法に基づく法的な手続きはなにもありません。だからこそ、貿易制裁を加えるなど、実際に法的拘束のある世界貿易機関など他の機関との関係を築くことが必要なのです。対策の一つとして、目標達成時期を遅らせることも考えることが必要でしょう。

司会:国際条約の成功例として、モントリオール条約が取り上げられることがありますが。

対談されるマックビーン氏と真鍋領域長


真鍋:この問題の難しさはオゾン層破壊の問題とは根本的に異なります。オゾン層破壊の場合は、皆が有害だと認識していますから。一方、中には、温暖化は自分の国にとっては有益だと思っている人もいるのです。

マックビーン:オゾン層破壊の場合、解決には少数のある特定の物質を作っていた国だけが関わり、さらに彼らは代わりに利益の上がる物質を開発しましたから、問題は簡単でした。しかし、温暖化問題は、世界の経済発展の基本に関わってきます。気候会議の問題点のひとつに、条約の取り決めの方法がこのモントリオール条約が元になっていることが挙げられます。このオゾン層条約の考え方、オゾン層破壊の可能性の科学的再検が国際条約のサクセス・ストーリーとして、取り上げられたのです。しかし、温暖化の問題はもっと複雑です。

真鍋:気候変動や環境変化に対する予測が正確になれば、誰が得をし、誰が損をするかがもっとはっきりするでしょう。それをみんなが知るたびに、国際条約の提携に対して躊躇する国も多くならないでしょうか。多分、温暖化のすぐに現れる影響は決していいものではないでしょう。しかし、長期の変化を見た場合、すべての温暖化に伴う変化が有害であるとは言えないと思います。もっと信頼できる予測ができ、気候変動を地域ごとに特定できたとします。変化の詳細をはっきりと知った場合、合意をためらう国、或いはグループが出る可能性があります。この点がオゾン層破壊の問題と違う点だと思います。

司会:最後に、温暖化問題に対する将来の展望をお聞かせいただけますか?

真鍋:京都議定書執行の成功の有無に関わらず、石炭、石油に代わるエネルギーの開発と効率的な技術の開発を奨励するため、技術、エネルギー開発に対する戦略を立てることが必要です。それは結果的に、二酸化炭素削減にもつながります。わたしの友人、物理学者のアウスベル氏は二酸化炭素の発生量の比較的少ない天然ガスの使用を更に増やすことをすすめています。将来は、日中に太陽エネルギーを電力に変え、その電力を使って、電気分解により水から水素を作るのです。電気エネルギーを水素に変換すれば、エネルギーの日中と夜間のアンバランスの問題を解決できます。

マックビーン:京都議定書はいい方向に進んでいるとは思いますが、これが温暖化に対する唯一の国際的な対策です。真鍋博士が言うように、技術の開発、クリーンで、石炭、石油に依存しないエネルギーの開発を温暖化に関係なく推進するべきでしょう。気候科学のコミュニティーは、こういった問題を客観的に与えるだけでなく、分析とコストの基本となる質のよい知識を提供するべきでしょう。温暖化に関するコストは一般的にもっと詳しい情報が要求されています。温暖化に対する高いレベルでの理解が求められている今、フロンティアや世界の他の研究機関は気候会議を動かし、サポートするための重要な役割を与えられるべきでしょう。

真鍋:もっと信頼できる、正確な予測は、京都議定書のような国際会議にとても役立つと思います。地球フロンティアの研究員はこの点を推進するべきでしょう。気候変動政府間パネルは政策決定者にどうしろと言うのではなく、政策決定に必要な情報を提供するのが目的です。これが、地球フロンティアのもっとも大切な役割だと思います。そのためには、モデルを使って、温暖化に伴う、全球的変化を予測するだけでなく、実際に何が起こっているかを人工衛星等を使って確実に把握することが必要です。

司会:今日は貴重なご意見どうもありがとうございました。



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