地球シミュレータを用いた地球温暖化実験に向けて



江守氏顔写真
地球シミュレータを使用した実験に関わるために、地球フロンティアモデル統合化領域に着任した江守正多研究員をご紹介いたします。
江守正多(モデル統合化領域)

 の10 月より3 年間の予定で、独立行政法人国立環境研究所(以下、国環研)を休職して、モデル統合化領域に専任で参加しています。国環研では、主に大気モデルや陸面過程モデルの開発と地球温暖化実験に携わってきました。地球フロンティアに参加した目的は、地球シミュレータを用いた地球温暖化実験に参加することです。

ここで地球温暖化実験とは、大気海洋結合気候モデルを用いて、大気中温室効果気体(二酸化炭素など)濃度の漸増を条件として与えながら、100 年くらい先までに気候がどのように変化するかを計算するものをさします。今までに世界のいくつもの研究機関で行われたこの種の実験の結果は、IPCC (気候変動に関する政府間パネル)の報告書にまとめられ、地球温暖化対策の国際交渉などに基礎資料として影響を与えてきています。

 このような社会的重要性にもかかわらず、この類の仕事を喜んで行う研究者の数は特に日本には多くないと思います。現在の気候モデルは経験的で不確実な定式が多く用いられており、そのようなモデルで100 年後の気候を計算することは、見てきたような嘘をつくことの域を出ないと思うからでしょう。

 それでも私は、やり方を考えれば地球温暖化実験には意義があると思います。一つには、真鍋先生たちがやられてきたように、実験結果の物理的解釈を十分に行い、経験的な定式の細部に関わらない議論を展開することです。もう一つには、実験結果が勝手に一人歩きしないように工夫することです。例えば国環研では、図に示したように、気候モデルを温暖化の社会的な影響・対策のモデルと連携させて使う計画を進めています。このような枠組みで、気候モデルの実験結果を、不確実性に関する知見も含めて、社会影響の研究者に誤解無く伝えることに意義があると考えています。

図:地球温暖化研究における気候モデル研究と社会的影響・対策研究の連携の概念図

 地球シミュレータを用いた地球温暖化実験のモデルは、現在の計画では、海洋は0.1 °格子で画期的ですが、大気は0.56 °格子相当で、依然として経験的な定式を多用する必要があり、不確実性の問題は本質的には今までと変わりません。それでも今までの5 〜10倍の解像度ですから、相当なメリットがあります。解像度を上げただけではモデルの性能は必ずしも向上しませんが、検証と改良の手間をかければ、従来よりずっと系統誤差の少ないモデルになる可能性があります。

 また、従来の粗いモデルでは充分に表現できなかった、梅雨前線、台風、日本海側の豪雪といった地域的な気候を議論できます。これは地球温暖化の社会的な影響を考える上で極めて重要な進歩であると言えます。

 この地球シミュレータというチャンスを捕らえ、有意義な実験を行うために、国内の研究者が広く協力し、迅速に準備を進める必要を強く感じます。


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