北太平洋から北大西洋への
「大気の架け橋」を発見

ーアリューシャン・アイスランド低気圧間の
シーソー現象の解明ー



気候変動予測研究領域の中村尚グループリーダーと本田明治研究員が、今まで明らかになっていなかった冬のアリュ−シャン低気圧とアイスランド低気圧の関係等について研究・発表を行いました。


中村尚、本田明治(気候変動予測研究領域)


季に北太平洋にあるアリューシャン低気圧(AL )と北大西洋にあるアイスランド低気圧(IL )は両大洋上に冬の間ずっと停滞する大規模な低気圧です(図1 )。これらは、極東や北米東岸に大陸から寒気を吹きおろし(いわゆる“引き”の寒波)厳しい冬をもたらす一方、北米西岸やヨーロッパには海からの風を吹かせて温和な冬をもたらす、気候学的に大変重要なものです。

図1aアリューシャン低気圧(AL)の勢力が強い年の典型的な海面気圧の分布図(2月10日から3月12日の平均)
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図1a :AL −IL シーソーに伴い、AL が強く、IL が弱い冬の様子。発達したAL による大陸からの寒気の引き出により我が国は寒冬傾向。ヨーロッパは海からの風が弱まり、やはり寒冬傾向。逆に北米西岸や東岸は暖冬傾向。

図1b アイスランド低気圧(IL )の勢力が強い年の典型的な海面気圧の分布図(2 月10 日〜3 月12 日の平均)
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図1b :AL が弱く、IL が強い冬の様子。各地の寒暖の傾向は全て反対になる。いずれも2 月10 日〜3 月12 日の平均。


 我々は過去30 年間の大気循環データを解析し毎年の両低気圧の強さを調べたところ、両者の反転関係が冬の後半の2 〜3 月に最も著しいことが判明しました(図1 )。このシーソーの形成過程を調べたところ、真冬(1 月)に北太平洋上で発達した循環異常(地上ではAL の強弱に対応)が上空に大規模な波動を引き起こし、それが北米大陸を越えて北大西洋にまで達することにより、その後約1 ヶ月を経てIL の強さが変わることが判明しました(図2 )。

図2 「大気の架け橋」の形成過程模式図

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図2 :「大気の架け橋」の形成過程模式図(AL が弱く、ILが強い冬の場合)。北太平洋上で弱いAL 対応する循環偏差(高気圧性偏差)が1 月にまず現れると、その影響は上空の大規模な波動(ロスビー波)として北米大陸に及ぶ。

これに伴い、カナダ西部上空に低気圧性の、米国南東部には高気圧性偏差がそれぞれ形成される。2 月になると、後者から北大西洋を横切る新たな波動が現れて、北大西洋(グリーンランドの南)に低気圧性偏差、ヨーロッパ上空に高気圧性偏差が形成される。北大西洋上空の偏差はさらに発達して、海上のIL 勢力を強化する。

これにより、太平洋から大西洋への「架け橋」が完成する。AL が強くIL が弱い場合は、偏差の符号(高気圧性か低気圧性か、暖かいか寒いか)が全て反転する。ただし、太平洋の変動の影響が「架け橋」によって大西洋に及ぶ構図は同じ。




 さらに、この北米大陸上をまたぐ「大気の架け橋」によって結び付けられたシーソーが、近年話題となっている「北極振動*」を凌いで、上空では最も顕著な循環変動パターンとなることも発見しました。これらの成果は、冬の北太平洋上の天候や気候の変動が、日本など極東地域だけでなく、「大気の架け橋」を通じて、遠くヨーロッパにまで影響する可能性を初めて示唆するものです。

 この「大気の架け橋」の発見は、アメリカ気象学会の学術専門誌「Journal of Climate (気候ジャーナル)」の2001 年3 月15 日号及び12 月15 日号に掲載されました。

 またこの研究から、図2 に示されるように例えばヨーロッパから東アジアに長距離輸送されるオゾン濃度は春が最も高く、次いで秋に高いことが分かりました。北半球のリモートな地点では地表付近のオゾン濃度は一般に春に ピークとなることが知られていますが、その主な原因がこうした大陸間をわたるオゾンによることも明らかになりました。

北極振動: 主に冬季にみられる北極域と中緯度帯の気圧のシーソー的変動。北極上空の対流圏から成層圏に及ぶ低気圧(極渦)の強弱に伴う現象。

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