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二酸化炭素などの温室効果ガスの増加による地球の気候の温暖化は、中高緯度を中心にすでに進行しつつある可能性の高いことが、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)報告などで指摘されている。では、温室効果ガスの増加により、地球の水循環はどう変化する、あるいは変化しつつあるのだろうか。
水資源のもとになる雨や雪は増加するのか、減少するのか。洪水や旱魃などの水災害を伴うような極端な降水現象は増えるのか減るのか。水は私たちの生活にとって不可欠であり、身近なだけに、このような水循環の変化は、多くの地域の人たちにとっては、気温そのものの変動より深刻な問題である。特に私たちが住むアジアは、地球の総人口の半数を超える人たちが、モンスーンがもたらす雨に依存して暮しており、モンスーンに伴う水循環変化の予測は重要かつ緊急の課題である。
最近の多くの気候モデルは温室効果ガスの増加により全球的に水循環が活発化し、降水量も全般的に増加するとの予測を出しているが、気候システムにおける水循環のプロセスについては、まだ未解明な部分が多く、大きな不確定さを残している。例えば、温室効果による気温上昇が海洋上での蒸発を活発化させたとしても、それがどの程度雲や降水を増やすかは、プロセスの複雑さや観測データの不足により、まだよくわかっていない。陸上での植生による蒸発散のコントロールなども、大きな課題である。

図1 1979年-2000年におけるふたつの全球格子点降水量データ(Climate Prediction Center Merged Analysis of Precipitation : CMAP およびGlobal Precipitation Climatology Project: GPCP)による全球平均の年降水量変化とその線形トレンド。黒棒グラフがCMAP、白棒グラフがGPCP。
(Yasunari, Igarashi, Tomita and Masuda, 2002). |
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では、現実の変化はどうであろうか。1970年代後半以降、地球全体の(地表面)気温は急速に上昇しており、これが温室効果ガス増加による地球温暖化が顕在化してきた証拠とする報告が多く出ている。とすると、この期間、降水量、蒸発散量、河川流出量などを含む地球の水循環がどう変化してきたかをみることは、実態把握からもモデルの検証という視点からも非常に興味深い。私たちはこの問題を、地上と衛星からの観測データが全球的にそろった1979年以降について調べている。
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図2 1979年-1995年におけるユーラシア北部の三大河川流域における夏季の水収支要素の年々変動。(Fukutomi, Igarashi, Masuda and Yasunari, 2002).
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図1は二つの全球格子点降水量データを用いて計算した、過去20年間の地球全体の年降水量の変化である。この図からまずわかることは、二つのデータセットによる降水量の値にかなりの違いがあり、降水量の推定そのものに、まだ大きな問題と不確定さがあるということである。さらにどちらのデータも、ひとつ(CMAP)は顕著な減少傾向、もうひとつ(GPCP)は20年間での増加・減少の傾向なし、ということで、少なくとも降水量が全球的に増加しているという証拠は示していない。大部分の降水量を占めている熱帯地域についても、降水量の減少傾向、対流活動の弱まりの傾向が、西部熱帯太平洋や南米地域を中心に現れている(Yasunari et al., 2002)。
近年の温暖化の中心であるシベリアでの降水量も、夏季は、河川流量を含め、6-8年周期の変動が顕著であることは確認されたが、長期的な増加(あるいは減少)傾向は現れていない(Fukutomi et al., 2002)。温暖化が顕著な冬季についても調査中であるが、顕著な傾向はなさそうである。アジアモンスーン地域については、現在詳しく解析調査中であるが、地域および季節による変化傾向の違いが大きく、とても広域での系統的な降水量の増加(あるいは減少)が起こっているとはいいがたい。気候モデルによる水循環変動の予測には、結局、より精度の高い全球的な水循環モニタリング、詳細な観測にもとづく水循環過程のより高度な理解と、そのような過程を考慮した高精度のモデルの開発・改良を、三位一体として進めて行くことがなによりも重要である。
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