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Special Topic : Our Life, Our Water
 


世界の水資源とグローバルな気候変動

  総合地球環境研究所の助教授としても活躍している沖研究員が、世界の水資源問題を身近な問題として考え、精度の高い研究成果を出す必要があることを、気候モデルや、「仮想水」を通してご説明致します。


沖大幹( 地球フロンティア研究システム水循環予測研究領域)



21世紀は水の世紀である、と言われる。それは、現在でも水不足による貧困、不衛生状態、病気等に悩む地域があり、今後想定される人口の増加は、都市における生活用水需要の増大だけではなく、食糧生産のための灌漑用水需要を増加させ、生活レベルの向上に伴う飼料用穀物等の間接消費の増加が穀物需要の増加をもたらし、結果としてさらなる水資源需要の増大につながると懸念されるからである。

  これらの懸念に適切に対処するためには、的確な将来展望を持つことが不可欠である。将来の水需要は人口増加や経済発展に伴う水利用原単位の増加等を考慮して推定されるのに対し、将来の水資源利用可能量に関しては温暖化等を考慮して気候モデルを利用して推定されるのが主流になりつつある。

  図1は、東京大学気候システム研究センターと国立環境研究所の気候モデルによる温暖化実験の結果における1990年から2060年への年流出量の増減に基づき、河道網モデルを利用して年河川流量の増減を算定した結果である(猿橋、2001)。水危機の将来予測への影響に関しては、人口増等社会変動が主要因で気候変動は副次的であるが、例えば中国北部黄河流域近傍では温暖化に伴い若干の降水量、流出量の増加が算定されているため気候変動が無かった場合に比べると若干水ストレス(水不足)は低く予想される。逆に黒海西岸や北米フロリダ半島付近では温暖化により水ストレスが増大して深刻化が懸念される算定値が得られている。

温暖化による年河川流量の変化


図1 東大気候システム研究センターと国立環境研の大気大循環モデルによって推定された温暖化時の河川流出量シミュレーションに基づき、グローバルな河川流路網と河道流下モデルによって推定された現在から2060年にかけての年河川流量の変化。



  この温暖化実験結果ではグローバルにみると降水量、流出量が増えるため、温暖化が生じた方が将来の水ストレスは緩和される結果となっている。しかし、他の気候モデルの結果を用いた研究では、温暖化により水ストレスがグローバルにみても深刻化しているものもあり、降水量や流出量の増減の細かい地理的分布やその絶対値推定の不確実性を減らす研究が望まれる。また、一方、Oki (2001)で示されている様に、大規模河川の上流での取水や水質悪化、社会資本未整備などによる上流からの河川流量の利用可能性の限界を考慮すると、より切迫した水需給状況が想定されるので、気候変動が世界の水資源に及ぼす影響といった自然科学的研究にも、社会科学的側面の知識ベースが取り込まれる必要がある。

  地域によっては切迫した状況が懸念される世界の水資源の将来像に対し、日本は、大幅な人口増も見込めず、むしろ長期的には減少すると予測され、農業生産も長期減少傾向にあり、工業用水はリサイクル率の向上で消費量は横ばい状態であり、長期的に需要が大きく増大するとは考えられない。しかし、だからといって、現在危惧されている世界の水資源危機に日本人は目を向けなくても良いというわけにはいかない。その最大の理由は、日本の生活、産業、社会そのものが海外からの物資の輸入に大幅に頼っており、食糧であれ工業産品であれ、現地の水を使って作られた品物がないと日本社会は成り立たないためである。つまり、ものを輸入して国内で消費することは間接的に海外の水資源を消費していると考えることもできるのである。こうした水は特に仮想水(virtual water)とも呼ばれる。

日本の仮想水総輸入量

 


図2 1979年-1995年におけるユーラシア北部の三大河川流域における夏季の水収支要素の年々変動。(Fukutomi, Igarashi, Masuda and Yasunari, 2002).

  取水量ベースで考えて、もし日本で灌漑により生産するとしたら、精米後の米1kgを作るのには約8t、小麦粉1kgには4t以上の水が必要であると推定され、飼料用穀物の栽培に使われる水を考えると、家畜の肉類では重量比でさらにその数倍〜10倍以上の水資源が必要であると算定される。こうした水消費原単位の推定に基づき算定された、日本が輸入しているVirtual Waterの流れは図2の様になっている。年間の総量は約1,000億m3となり、直接的な国内での水資源利用量約900億m3/年に匹敵することがわかる(三宅、2002)。日本の食糧自給率がカロリーベースで約40%なので、食糧生産等に関わる水の半分を海外に依存している、というのは驚くにはあたらない。しかし、世界の水問題を身近な問題として考え、その現状と将来について日本がきちんと研究する必要があることを図2は物語っている。

References
猿橋崇央(2001): 世界河川流路網モデルを用いた世界水資源評価、東京大学大学院工学系研究科修士論文。

Oki, T., Y. Agata, S. Kanae, T. Saruhashi, D. Yang, and K. Musiake( 2001): Global Assessment of Current Water Resources using the Total Runoff Integrating Pathways. Hydrol. Sci. J., 46, 983-996.

三宅基文(2002):日本を中心とした仮想水の輸出入、東京大学工学部卒業論文。

 

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