地球温暖化の影響と北極
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)でも報告されていますが、地球の気温は確実に上昇しています。この世界を騒がせている地球温暖化により、北極は、最も影響を受け、また、反対に気候変化に影響を与える地域の一つと言われています。今号では、地球温暖化と北極についての研究活動を紹介いたします。

北極海氷減少は地球温暖化によるものか
近年、北極海の海氷が急速に減少していると言われています。池田アドバイザーが、地球温暖化と海氷の減少についての研究を紹介いたします。
池田元美(地球フロンティア研究システム国際北極圏研究センターアドバイザー)

北極海の海氷面積は最近40年で日本国土の3倍も減少しています(Ikeda et al., 2003)。しかし40年代にも温暖な時期があり、20世紀をとると50年周期変動があるようにも見えます(Polyakov and Johnson, 2000)。さらに海氷面積は10年程度の周期をもつ変動を表しており、特に70年以降は顕著です。これらの海氷分布の変動は大気状態で説明がつくものでしょうか。あるいは海氷分布が海面熱フラックスなどを通じて、大気に影響をあたえるのでしょうか。地球温暖化が進むと海氷は消えてしまうでしょうか。

Thompson and Wallace(1998)は、大気循環が北極を中心とする変動パターンを持っていることを示しました。これを北極振動(AO)とよび、10年周期成分が顕著です。反時計回りの極渦が強化する状態をAO+としますが、最近30年で極渦は強化しています。ほぼ円形をしたパターンなので、ここでは緯度平均した海面気圧の差をとって、経年変動以上の長期変動を示します(図1)。

冬季に北極海はほぼ完全に海氷に覆われ、夏季には海氷が解け、海面が現れます。Wang and Ikeda (2000)が示した海氷面積の観測値は10年変動しながら減少しています(図2)。まず1960年以降のトレンドを除くと、残りは10年周期を示しています。海面気圧変動(図1)との相関をとると、AO+から見て海氷寡少時期が、ボーフォート・チャクチ海では3年前、シベリア・ラプテフ海では1年前、カラ・バレンツ海では1年後となります。

図1. 緯度平均した海面気圧の北緯75度と85度における差。四季節は12月から翌年2月までを冬とし、それ以降3か月毎に春、夏、秋としています。各季節の年変動に3年移動平均をほどこしています。
図2. ボーフォート・チャクチ海、シベリ ア・ラプテフ海、カラ・バレンツ海の3海域における冬と夏の海氷面積。 3 年移動平均をほどこしています。
   
海氷海洋結合モデルに大気データを駆動力として与え、海氷変動を再現することを試みました。北極海の海岸と海底地形を単純化して、海洋を鉛直3層に分けました。風応力は平均場の上に12年周期で変動する極渦を加えます。 大気変動に応答して、海氷量が観測された海氷面積と同様の変動をします(図3)。フラム海峡における北極海水・大西洋の海水交換も含めて、簡略モデルの結果は観測された海氷変動をよく再現していることを示しています。
   
   
図3. (a)簡略北極海モデルの地形
(b)北極振動1周期(12年)の4位相、上から海氷厚さ、その時間変動成分海面気圧。
   
カナダ海盆200メートル深におけるケイ酸塩の変動。各年の標準偏差も示しています。
海洋場の観測は非常に限られていましたが、最近公開された旧ソ連の化学データを解析して、海洋変動を見出しました。カナダ海盆では太平洋から流入した太平洋水に加えて、シベリア陸棚からの河川水に含まれるケイ酸塩が100メートル深に最大値を作ります。100メートル以深では大西洋水の値に低下していくので、200メートル深のケイ酸塩の時系列をとると(図4)、その増減は密度面の下降上昇を表わします。極渦の強弱に対応して、ケイ酸塩が減少増加し、密度面が上下し、予想された海洋の上下変動が見出されました。

極渦の強弱とそれにともなう気温の上下によって、海氷分布と海洋循環が変動することがわかりました。他の要素では冬季の熱バランスには長波放射が一番重要でしょう。旧ソ連の雲量データは快晴の減少(すなわち雲量の増加)を示しています(図5)。 この影響は最近30年間で5ワット/平方メートルの海洋への熱フラックス増加となり、海氷面積減少によるアルベド(日射の反射率)低下の効果と同程度です。さらに海氷減少が海面からの蒸発をうながし、雲を増やすことも充分考えられます。


北極海を回遊するキャンプから計測された快晴(雲量0−2)時間の四季節における割合。3年移動平均をほどこして います。
気候モデルを用いた温暖化実験では高緯度域の気温上昇が再現され、海氷減少の進行をもって、モデルの再現性を検証することが多いのですが、雲量や海洋循環まで含めた検証は行われていないので、今後の重要な研究課題です。将来予測のためには、海氷分布から大気場へのフィードバックの理解が鍵となるでしょう。特に夏季の応答を調べることや、夏季の海氷面積変動が冬季には厚さの変動になって残っている効果を考慮することが新たな展開をもたらすかもしれません。

参考文献
Ikeda, M., Wang, J., and A. Makshtas, 2003: Importance of clouds to the decaying trend in the Arctic ice cover. J. Meteorol. Soc. Japan (in press).

Polyakov, I. V., and M. A. Johnson, 2000: Arctic decadal and inter-decadal variability, Geophys. Res. Lett., 27, 4097-4100.

Thompson, D. W. J. and J. M. Wallace, 1998: The Arctic Oscillation signature in the wintertime geopotential height and temperature fields. Geophys. Res. Lett., 25, 1297-1300.

Wang, J., and Ikeda, M., 2000: Arctic oscillation and Arctic sea iceoscillation, Geophys. Res. Lett., 27, 1287-1290.