北極陸域生態系-大気間二酸化炭素交換の衛星観測
田中グループリーダーにより、北極の森林が二酸化炭素収支に与える影響に関する観測研究を紹介いたします。
田中教幸(地球観測フロンティア研究システム国際北極圏研究センターグループリーダー)
金龍元(地球観測フロンティア研究システム国際北極圏研究センター)
串田圭司(北海道大学低温科学研究所)

北極域にはツンドラとタイガと呼ばれている寒冷地独特の生態系環境を有しています。この生態系では主に気温、次に降水量が制限因子です。今後、温暖化にこの生態系がどの様に応答するかは良く判っていませんが、温室効果気体である二酸化炭素(CO2)の収支に重要な役割を果たすであろうことは容易に推察できます。 衛星からの観測で主な植生、光合成量の良き目安となる葉面積指数(LAI)、地表温度は比較的簡単に精度良く観測できるようになってきました。この結果、植物が光合成で大気中CO2 を固定する量GPP(総基礎生産力)とそれから植生の呼吸によって消費されて再びCO2となって大気に戻るCO2量をGPPから差し引いて求められる正味の植物によって固定されるCO2量、すなわち正味基礎生産力(NPP)は比較的簡単に衛星データから全球観測が可能になり観測データが蓄積されています。しかしながら陸上生態系が大気中のCO2の供給源か除去源かを議論する場合には大気―地表間の正味のCO2交換量、すなわち正味生態生産力(NEP)を求めなければなりません。そのためにはNPPからさらに土壌呼吸量を差し引かなければなりません。極域の色々な植生生態系での土壌呼吸量の基礎データの蓄積を図り、衛星データ(地温)と組み合わせて極域では様々な植物生態系での土壌呼吸量を見積もる技術の開発に従事しています。特にコケと地衣類がある寒帯森林(タイガ)と高山ツンドラで温室効果気体の放出量を支配する要因とその定量化に力を注いでいます。

特に北極圏陸域ではコケと地衣類 (図1a, b)がある寒帯森林(タイガ)と 高山ツンドラが重要な生態系であり、重点的観測を実施してきました。観測は夏季の数回に限られるため、季節変動等を得るには土壌呼吸のプロセスモデルに頼る必要があります。現在BIOME-BGCモデルを観測データによって適応可能にしてこれらの生態系に応用していく予定です。



図1 北極陸域生態系においての(a)コケと(b)地衣類
   
図2と3には2000年夏季にアラスカ州フェアバンクス市北東にあるカリブ・ポーカークリークと呼ばれている実験区域に植生分布と、この方法を適応して作成したNEPマップを示します。このマップには多くの構造がみられ、今後このマップの分析で多くの陸域生態系の気象、気候への応答の様子が明らかになることが期待されます。

図2 中央アラスカでの植生分布 図3 2000年度成長期、中央アラスカでの正味の生態生産力(gC/m2/yr)マップ

参考文献
Kim, Y., and Tanaka, N., 2003: Effect of forest fire on the flux-es of CO2, CH 4 , and N 2O in boreal forest soils, interior Alaska, Journal of Geophysical Research, 107 (D3), 8154, doi; 10. 1029/2001 JD000663.

Kimball, J. S., M. A. White, and S. W. Running, 1997: BIOME-BGC simulations of stand hydrologic processes for BORE-AS, Journal of Geophysical Research, 102 (D24), 29043- 29051.

Kushida, K., Y. Kim, Kojima, D., Shibuya, M., Tsuda, S., and Fukuda, M., 2001: Spectral decomposition of tundra vege-tation in Alaska for its spatial decomposition, Proceedings of the Second International Workshop in Global Change: Connection to the Arctic, 46-51.