IPCC第4次評価報告書への
貢献に向けて
 
 

地球フロンティア研究システム 
地球温暖化予測研究領域の取り組み

今年10月に発足6周年を迎える地球フロンティア研究システムは、地球温暖化などのさまざまな地球変動メカニズムの解明と予測の実現を目標に掲げて、研究活動を展開してきました。
今回の特集では、今年4月に地球温暖化予測研究領域長に就任した時岡達志へのインタビューなどによって、同研究領域が気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書への貢献に向けて取り組んでいる研究内容と課題、モデル開発における今後の戦略などを紹介します。 

インタビュー
地球フロンティア研究システム 地球温暖化予測研究領域長

時岡達志(ときおか・たつし)

 
 
時岡領域長はこの4月から、真鍋前領域長に次ぐ専任の領域長として、19名の研究者チームを率いています。現在の取り組みを教えてください。
時岡:“2100年までに地球の気温が1.4℃〜5.8℃上昇する(※)”という予測数値の幅を縮める、つまり温暖化予測の不確かさを減らすことが現在の課題だと考えています。そのためにまず、現在使用している気候モデルの優れた点と、その反対に不確実性を作り出している要因を解明し、地球温暖化予測研究領域チームとして、モデルの客観的な評価・分析に着手しています。氷河期など過去の特徴的な気候状態を、現行のモデルを用いてシミュレーションし、モデルをテストしているのも、こうした取り組みの一環です。加えて、大気中の二酸化炭素濃度に大きな影響を与える海洋の物質循環モデルも開発しています。単に物理的、および化学的なモデルだけでなく、人為起源の二酸化炭素が海洋に吸収される量や、海の生態系をも含む循環を考慮したものです。同時に、海洋科学技術センター横浜研究所の施設内で昨年3月より運用が開始されている「地球シミュレータ」を活用し、モデルの解像度を上げていきます。

真鍋前領域長が作ってこられた「温暖化」「古気候」「炭素循環」という3つの研究課題に沿った組織体制を継承しつつ、各分野に秀でた研究員が個々の能力をさらに活かして、優れた成果を出せる研究環境づくりにも力を入れたいと考えています。

気象予報や気候変動研究の世界に入ることになった、そもそものきっかけは?
時岡:中学生のとき、理科の授業で天気に関心を持ちまして、毎日4時からラジオで放送される気象通報を聴いて、天気図を描いていたんですよ。同じ気圧のところを線で結んで、“低気圧はここ、前線はこんなところにある”という感じでね。描いたものを並べて見ると、低気圧が動いている様子がわかるんですよ。そのとき疑問に思ったのが、「低気圧はなぜ西から東へと移動するのだろう?」ということ。ちょうど地球の自転についても理科で習った頃でしたから、低気圧は地表の動きとは逆に、東から西へ動くはずではないか・・・と考えたのです。このときの疑問は、実は大気大循環を理解するうえで重要なカギであることが、のちに大学に入学してからわかったのです。おそらく中学時代の興味や疑問が頭の中に深く刻まれて、その後に自分が進むことになる「地球」という分野を志向することになったのでしょう。
領域長は、気象庁で気候研究に取り組んでいましたが、どのような経緯があって’90年のIPCC第1次報告書に関与することになったのでしょう?
時岡:地球上の大気の状態は、大陸や氷床、そして海洋が相互に作用しあうことで決まるのですが、’70年代までは大気だけを取り扱う研究が中心でした。気象庁の気象研究所では’80年代後半から、これら複数のシステムを取り入れたモデルの開発に取り組むことになりました。同じ頃、大気中の二酸化炭素濃度の上昇と地球温暖化の問題について、科学者の立場から、各国の政策決定がなされる場に何らかのメッセージを送るべきではないかという機運が、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)などに参加する科学者たちの間で盛り上がり、その後、’88年に、IPCCが設立されます。私達は、このため急遽大気大循環モデルと海洋混合層モデルとを結合したモデルを用いて、二酸化炭素が2倍になったときに実現されるであろう平衡状態の気候予測を行ないました。同様の実験は既に20年前に、真鍋前領域長が進めていました。ですから私は、二酸化炭素が2倍になったときに降雨の状態はどう変わるのかという点に着目し、予測・研究を開始しました。降雨による水循環の変化は、生態系全般と、人間社会における防災上の観点からも重要だと考えたからです。温暖化に伴う降雨強度の変化について予測データを調査していた私たちの研究はIPCCに評価され、これまでさまざまな気候モデル作りにかかわってきたということもあって、’90年の第1次報告書においてLead Author(代表執筆者)の一人に指名されることになりました。

気象研究所の気候研究部においては、新たに海洋大循環モデルと結合させたモデルを用いて、二酸化炭素濃度の上昇によって徐々に移り変わっていく気候の状態の研究に着手しまして、論文として発表したその結果を、’96年のIPCC第2次報告書に提供しました。

温暖化の予測研究や気候変動のメカニズム研究を進めていくうえで、とくに重視していることは?
時岡:精度の高い温暖化予測データの提供によって政策決定に寄与することはもちろんですが、台風の発生数と強度の変化、集中豪雨発生の増減、梅雨の時期と活動度、そして冬の季節風と降雪など、我々の生活とも深い関わりをもつさまざまな現象が、100年後にはどのように変動しているのかということを予測するための研究と実験にも、現在取り組んでいます。いずれの変動も、まだ十分な解明がされておらず、しかも私たちの生命と自然の生態系を守っていくうえで非常に重要だと考えるからです。研究によって導き出された各種のデータを解析し、その意味をまず我々が正確にとらえることが、特に重要だと考えています。
そして今度は地球温暖化予測研究領域長として、IPCC第4次評価報告書を意識したどのような取り組みを進めているのでしょうか。
時岡:まず、大気組成が変化するシナリオに従って、その結果どのような気候変化が起きるかを、100〜200年のタイムレンジで高精度に予測する、言い換えれば次期IPCC報告書に寄与できる結果を出せる気候システムのモデルを、今年度中に確定します。第4次報告書は2007年の採択が予定されています。期間は限られていますが、温暖化によって熱帯性低気圧の振舞や雲の光学特性がどのように変化するのかをテーマに取り組んでいる研究、海洋における炭素循環過程と生物活動との関連やバランスに関する研究、過去に起こった大きな気候変動の物理的・化学的メカニズムの解明など、地球温暖化予測研究領域で行っている各々の研究活動で得られた成果を論文として発表し、評価を得られるよう努めていきます。地球フロンティア内の他の領域はもちろん、東京大学気候システム研究センター、国立環境研究所や気象研究所などのさまざまな研究グループとも連携を密にして進めていきます。

どうもありがとうございました。

2 Frontier Newsletter/No.23
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