IPCC第4次評価報告書への貢献に向けて  






研究対象その1

 地球温暖化で、熱帯低気圧の発生数や降水量はどう変わる……?

熱帯の海洋上で発生し、発達しながら激しい風と雨をもたらすのが、「台風」や「ハリケーン」と呼ばれる熱帯低気圧。[地球温暖化予測研究領域 温暖化研究グループ]が取り組んでいる重要な研究対象の一つは、この熱帯低気圧です。地球温暖化によって、熱帯低気圧の発生数や降水量はどのように変化するのでしょうか?
吉村研究員が、最近の研究結果についてご紹介します。


地球温暖化予測研究領域 研究員
吉村 純(よしむら・じゅん)

 発生数は減り、降水量は増す

私たちの研究グループは、地球の表面を100km程度の格子間隔で区切った全球(大気)気候モデルを用いて、地球温暖化による熱帯低気圧へのさまざまな影響を調べています。これまで、2種類の積雲対流スキームを使った実験、海面水温の分布が異なる複数パターンでの実験など、客観性の高い予測結果を導き出すために、さまざまな実験を行なってきました。そして、いずれの実験においても、「地球が温暖化すると、熱帯低気圧の発生数が2割程度減少する」という結果が得られています。

熱帯低気圧中心付近の降水量が、地球温暖化によってどのように変化するのかについても、見積もりました。温暖化によって、大気の安定度が現在よりも増加する*1ことになるので、より多くの潜熱:*2を放出しないと、熱帯低気圧は中心付近で十分な上昇流を得ることができなくなります。したがって、たとえ同じ強度(風速)の低気圧であっても、降水量は現在よりも10〜30%程度増加するという結果を、
’99年に発表しました。このことから、温暖化時には熱帯低気圧を発生させるための熱エネルギーがより大量に必要になり、一方、それに見合うほど積雲対流活動による潜熱放出は活発化しないため、熱帯低気圧の発生数が減少するものと考えられます。

 熱帯低気圧の発生数に影響を与える大きな要因は、「海面水温」よりも「二酸化炭素(CO²)」

続いて2001年には、人間の活動によってCO2濃度が急激に上昇したような状況を想定して、海面水温とCO2濃度の影響を別々に変えて行なった実験の結果を発表しました[グラフ参照]。海面水温を上げても、熱帯低気圧の発生数にはそれほど大きな違いは見られず、一方、大気中のCO2濃度を高くすると発生数が顕著に減少する効果がありました。私たちは、海面水温が熱帯海上の気候に最も影響を与える大きな要因の一つだと考えていましたので、これは意外な結果でした。その理由を解明するため、熱帯地方全域のすべての時間における降水量の平均値をCO2濃度別に調べてみたところ、CO2を2倍、4倍と増やしていくほど降水量が減少する、つまり熱帯低気圧に供給される潜熱のエネルギー総量が減り、結果として発生数が減少するのだということが分かってきました。 ■海面水温とCO2濃度をそれぞれ独立に変えた状態で、熱帯低気圧の発生数をシミュレーションした結果(年平均、全球。タテ軸は発生数)
 発生数の変化について、
 IPCC報告書の“欄外”扱いからの脱却を目指して

私たちが熱帯低気圧の変化について理解を深めることは、将来、自然災害の危険が増す可能性を認識し、防災上の対策を講じる上でも重要です。2001年のIPCC第3次報告書においては、地球上のいくつかの地域で、熱帯低気圧の「風速の最大値の増加」「降水量の平均値と最大値の増加」の可能性が高いことが記されています。一方、私たちの重要な研究テーマの一つである熱帯低気圧の発生数については、報告書の本文中では私たちの研究結果も引用されているものの、結果をまとめた表では“欄外”扱いとなっており、「発生位置、発生頻度については、変化は不確実である」と明記されているだけで、結論のようなものは記されていません。次回の第4次報告書においてはこの点について、私たちの予測研究の成果が反映されるよう、さらに高分解能のモデルを使い、実験の設定や、実験結果の解析方法の工夫を図っていきたいと考えています。
※1 表に近い部分が暖かい空気(=軽い空気)だと、大気は不安定になります。その逆に、上空の空気が暖かいと、大気は安定するのです。地球が温暖化すると、地表付近と比べて、上空500ヘクトパスカル付近の空気の温度が地表に近い部分より1℃以上余計に高くなるという実験結果を得ています。
※2 水蒸気が凝結する=「雲粒」になるときに、放出される熱エネルギー
4 Frontier Newsletter/No.23
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